正統派男役と言われて
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「聖夜 椿」は正統派男役、と言われていた。
ノーブルな立ち姿やしぐさ、憂いを帯びるまなざしで圧倒的な人気らしい。
◆
「この人を知りたい」
そう思い手にした歌劇をしげしげ眺め、読みふける。
つい先日観劇してから、椿のことが気になって仕方がなかった。
あの作品はコメディーだった。
あの人はおもしろいタイプなのかな。
そう先入観をもった私にとって、椿が「正統派男役」と言われていることに違和感を感じる。
いったいいままでどんな作品を演じてきたんだろう。
歌劇はほとんど文章ばかりで、写真といえば普段着のポートレートが多い。
舞台写真も少しはあるが、現在上演中のものや終わったばかりの公演、しかもほとんどモノクロだ。
これじゃなんにもわからない。
スカイステージのスケジュールを開く。
上から下へつつーっと目を通すと、やっと椿が過去出演した作品がみつかった。
かなり前の作品らしい。
最近上演した舞台はまだDVDでの売り上げを伸ばしたいのだろう。
みつかったのは椿がまだ下級生のころの作品だった。
◆
主演は私も知っている。
前に好きだった人が在団中すでに活躍していたスターさんだった。
作品名も聞き覚えがあった。
あの当時たぶん同時期に上演されていたような気がする。
この作品のどこに出ていたんだろう。
まったく印象ないんだけど。
そう思いながらスカイステージの再生ボタンを押した。
◆
作品を見終わると、なぜかどっと疲れていた。
宝塚ってこんなに疲れるものだったかな、そう思いながら今見た作品を振り返る。
たしかに出ていた。
椿はその作品の中にいた。
セリフもあった。
そのセリフはただひとこと
「ありがとう」
たったこれだけだった。
重要な役をやっていたとは言えない。
かといって通行人よりは各段に上だった。
作品の中で出演していた(と思われる)時間はほんのわずか。
私はこの作品について全く予備知識が無かったため、椿が出るのはいつどこなのか全く見当がついていなかった。
再生ボタンを押してからというもの、私は目を皿のようにして画面にくらいついていた。
やっとみつけた、と思ったらすぐいなくなった。
何度か巻き戻してチェックする。
やっぱりこのシーンが椿にとっての一番の見せ場らしい。
「これじゃ正統派かどうかわからないじゃない」
ため息と同時に眠気が押し寄せてきた。
◆
宝塚歌劇には年間スケジュールがある。
インターネット上にある公式ページを見ると、その一覧を見ることができた。
すると椿が所属する「虹組」の文字が見えた。
「地方公演があるんだ」
椿はこのあと全国をまわる。
過去作の再演で。
私は自分のスケジュール表をあわてて取り出した。
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