Yumiko

物書き/教員。 港町へのファンレター、もしくは創作に関する呟きを書く予定です。 小説以…

Yumiko

物書き/教員。 港町へのファンレター、もしくは創作に関する呟きを書く予定です。 小説以外の文章を書くのは苦手ですが、細々と綴っていきます。

記事一覧

町の登場人物として

バスから降りて、二、三歩、ふらふらと歩きだす。 引き寄せられるように、目の前の海へ向かって。 潮の匂いを含んだゆるやかな追い風に包まれて、自然と足取りが軽くなる…

Yumiko
2年前
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バスにゆられて、島へ(2)猫たち

城ヶ島を歩いていると、猫がぽつぽつと落ちていた。 それはもう、本当に落ちているとしか言いようもなく。 あんまり無防備に寝ているものだから、びっくりして、しばら…

Yumiko
3年前
9

バスにゆられて、島へ。(1)灯台

三崎港に行くと、バスに揺られて、あるいは野菜と魚のマルシェ「うらり」前から出ている舟で、むかいの城ヶ島に上陸することもある。 バスなら十五分、舟なら五分。 都…

Yumiko
3年前
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長屋的な生活

「さっき、〈まるいち〉でお刺身食べたでしょ」 夕方五時の開店を待って、中華料理の「ポパイ」に入ると、女将さんがにっと笑って言った。 夕方にポパイでラーメンを食…

Yumiko
3年前
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夕暮れの商店街

平日の夕暮れどきーー風景が、ぼんやりとした薄闇に沈むころ。 商店街から人影が消えて、ふと、町を独り占めしたような、お得な気分になる。 三崎港の夕暮れは、不思議と…

Yumiko
3年前
9
町の登場人物として

町の登場人物として

バスから降りて、二、三歩、ふらふらと歩きだす。

引き寄せられるように、目の前の海へ向かって。

潮の匂いを含んだゆるやかな追い風に包まれて、自然と足取りが軽くなる。

身体が、喜んでいる。

三崎の町にいるというだけで、なんとなく嬉しくなってくる。

昭和の面影を残す港町。

私がこの港町を初めて訪れてから、たぶん、八年くらい経った。

時折ふらりと訪れては、決まったお店に顔を出すだけの繰り返し

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バスにゆられて、島へ(2)猫たち

バスにゆられて、島へ(2)猫たち



城ヶ島を歩いていると、猫がぽつぽつと落ちていた。

それはもう、本当に落ちているとしか言いようもなく。

あんまり無防備に寝ているものだから、びっくりして、しばらく寝顔を眺めていた。

暑くないのかな、と思っていたら、べつの一匹がやってきて、私の影のなかに入った。

猫もやっぱり、午後の陽射しは暑いらしい。

起きてきた猫をなでてみると、猫はおとなしくなでられていた。

それで、ああ、地元の人

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バスにゆられて、島へ。(1)灯台

バスにゆられて、島へ。(1)灯台



三崎港に行くと、バスに揺られて、あるいは野菜と魚のマルシェ「うらり」前から出ている舟で、むかいの城ヶ島に上陸することもある。

バスなら十五分、舟なら五分。

都内から二時間以上かけて、三崎に来るだけでも特別な日なのに、そのうえ島に上陸するなんて(上陸、という言葉の響きが好きだ)、なんて贅沢な一日だろうと思う。

「うらり」で三崎名物、肉まんならぬ「とろまん」を食べる。

城ヶ島で、魚介類(主

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長屋的な生活

長屋的な生活



「さっき、〈まるいち〉でお刺身食べたでしょ」

夕方五時の開店を待って、中華料理の「ポパイ」に入ると、女将さんがにっと笑って言った。

夕方にポパイでラーメンを食べたいから、ちょっとだけお刺身をつまみたいんですーーと、昼間「まるいち食堂」で話したのが、もう伝わっている。

「情報が早いですねー」

「そりゃそうよぉ」

笑って、カウンター席に座った。

長屋的な生活、という言葉が浮かぶ。

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夕暮れの商店街

夕暮れの商店街

平日の夕暮れどきーー風景が、ぼんやりとした薄闇に沈むころ。

商店街から人影が消えて、ふと、町を独り占めしたような、お得な気分になる。

三崎港の夕暮れは、不思議とさびしくない。

明日にはまた、からっと晴れた活気に包まれるとわかっているから、「今日はここまで」と、ゲームをセーブするようなわくわく感が残る。

泊まった日は、「また明日」。

日帰りで来たときは、「また今度」。

なにか目的があるわ

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