Yumiko

物書き/教員。 港町へのファンレター、もしくは創作に関する呟きを書く予定です。 小説以…

Yumiko

物書き/教員。 港町へのファンレター、もしくは創作に関する呟きを書く予定です。 小説以外の文章を書くのは苦手ですが、細々と綴っていきます。

最近の記事

町の登場人物として

バスから降りて、二、三歩、ふらふらと歩きだす。 引き寄せられるように、目の前の海へ向かって。 潮の匂いを含んだゆるやかな追い風に包まれて、自然と足取りが軽くなる。 身体が、喜んでいる。 三崎の町にいるというだけで、なんとなく嬉しくなってくる。 昭和の面影を残す港町。 私がこの港町を初めて訪れてから、たぶん、八年くらい経った。 時折ふらりと訪れては、決まったお店に顔を出すだけの繰り返し。商店街のある通りから、私はほとんど動かない。 それでも、通い続けていれば、顔

    • バスにゆられて、島へ(2)猫たち

      城ヶ島を歩いていると、猫がぽつぽつと落ちていた。 それはもう、本当に落ちているとしか言いようもなく。 あんまり無防備に寝ているものだから、びっくりして、しばらく寝顔を眺めていた。 暑くないのかな、と思っていたら、べつの一匹がやってきて、私の影のなかに入った。 猫もやっぱり、午後の陽射しは暑いらしい。 起きてきた猫をなでてみると、猫はおとなしくなでられていた。 それで、ああ、地元の人たちに大事にされているんだなあ、とわかった。 三崎は、猫の町。 猫がのびのび

      • バスにゆられて、島へ。(1)灯台

        三崎港に行くと、バスに揺られて、あるいは野菜と魚のマルシェ「うらり」前から出ている舟で、むかいの城ヶ島に上陸することもある。 バスなら十五分、舟なら五分。 都内から二時間以上かけて、三崎に来るだけでも特別な日なのに、そのうえ島に上陸するなんて(上陸、という言葉の響きが好きだ)、なんて贅沢な一日だろうと思う。 「うらり」で三崎名物、肉まんならぬ「とろまん」を食べる。 城ヶ島で、魚介類(主に焼きイカ)をつまむ。 そこから、離島探索がはじまる。 お土産屋さんのある短

        • 長屋的な生活

          「さっき、〈まるいち〉でお刺身食べたでしょ」 夕方五時の開店を待って、中華料理の「ポパイ」に入ると、女将さんがにっと笑って言った。 夕方にポパイでラーメンを食べたいから、ちょっとだけお刺身をつまみたいんですーーと、昼間「まるいち食堂」で話したのが、もう伝わっている。 「情報が早いですねー」 「そりゃそうよぉ」 笑って、カウンター席に座った。 長屋的な生活、という言葉が浮かぶ。 長屋で暮らしたことはないけれど、人生の一時、マンションで長屋的な暮らしをしたことは

        町の登場人物として

          夕暮れの商店街

          平日の夕暮れどきーー風景が、ぼんやりとした薄闇に沈むころ。 商店街から人影が消えて、ふと、町を独り占めしたような、お得な気分になる。 三崎港の夕暮れは、不思議とさびしくない。 明日にはまた、からっと晴れた活気に包まれるとわかっているから、「今日はここまで」と、ゲームをセーブするようなわくわく感が残る。 泊まった日は、「また明日」。 日帰りで来たときは、「また今度」。 なにか目的があるわけではないけれど、この港町はどうしてか、いつまでも歩いていたくなる。 今度は高

          夕暮れの商店街