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ミスチルが聴こえる(短編小説)

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Mr.Childrenの曲を聴いて浮かんだ小説を創作します。 ※歌詞の世界観をそのまま小説にするわけではありません。
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2022年9月の記事一覧

GIFT『ミスチルが聴こえる』

GIFT『ミスチルが聴こえる』

 あなたに贈るべきものはなんだろう?
 プレゼント? それは物? しかし、なんだか違っている。
 僕が贈るべきもの。それは、『言葉』かもしれない。
 僕自身、言葉があったからこそ今まで生きることができた。落ちこぼれな自分を表現できるものは、言葉しかなかった。言葉さえあれば、どんなにどん底にいても自分を慰めることができた。真っ暗闇にいた自分に、光を与えることができた。
 だから今度は、あなたに捧げた

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花の匂い『ミスチルが聴こえる』

花の匂い『ミスチルが聴こえる』

 空っぽになった花瓶は、砂漠みたいに水気が無く干からびている。それ以外は、なんでもない毎日。
 僕は支度をして家を出る。電車に乗って会社へ行き、システムを作って再び電車に乗って帰宅する。夕飯はコンビニの弁当か、スーパーで買った惣菜。あるいは外食。たまにレトルトで済ます。テレビはないから、スマートフォンを使ってネットサーフィンをするか、YouTubeで動画を見る。猫がおもちゃで遊ぶだけの動画。外国人

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羊、吠える『ミスチルが聴こえる』

羊、吠える『ミスチルが聴こえる』

 ねえ、あそこにいる動物、何?
 僕は目を擦って、凝視して少し離れたところにいる物体を見つめる。綿みたいに白いモコモコに包まれていて、のっそりと左右に動くだけだ。
「あれは、羊ですね」
 しかし僕も佐藤さんも首を傾げてしまう。どうして、こんな場所に羊がいるのだろうか。
「ここ、住宅街だよね」
「そうですね。れっきとした」
「この辺に、動物園とかふれあいパークみたいな場所あった?」
「いや、この街に

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ロックンロール『ミスチルが聴こえる』

ロックンロール『ミスチルが聴こえる』

「へい、青年。何聞いているんだい?」
 イケイケな爺さんがトントンと肩を叩いてきたからヘッドフォンを外すと、初対面とは思えない馴れ馴れしさ全開で質問してきた。
「乃木坂です」
「乃木坂? 千代田線の?」
「ええ、まあ」
 面倒な爺さん。早くこの場を去ろう。
「お前さんは、ロックは聞かないかい?」
「ロック?」
「アイスじゃないぜ。ロックンロールさ。知っているだろう?」
「まあ、知っていますけど」

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東京『ミスチルが聴こえる』

東京『ミスチルが聴こえる』

 久しぶりにこの街へやってきた。東京。誰もが何かを求めて、動き回る街。特にエネルギッシュで大人になりたい若者たちが集い、文化を形成していく。そして彼らはここで大人になり、今度は社会人として日本を作っていく。きめ細かく定められたスケジュールをもとに、彼らは働き続ける。そこから脱落するものは、地元へ帰っていくか、空気が美味しい地方へ行って、ゆったりした人生を送る。
 僕も、かつてはここでしこたま働き、

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少年『ミスチルが聴こえる』

少年『ミスチルが聴こえる』

 灼熱のアスファルトを踏みしめながら、僕は君を追いかける。身体はすでに大人になってしまったから、すぐに息切れしてしまうが、それでも君を探さないといけない。
「どこへ行ったんだ?」

 君は突然、僕の前から姿を消した。置き手紙もなく、メールもなく、まるでいつの間にか販売終了した商品みたいにスッといなくなってしまった。
 僕にとって君が最愛の人であることは間違いなかった。だから意識的に君のそばで笑って

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エソラ『ミスチルが聴こえる』

エソラ『ミスチルが聴こえる』

 歌を歌う少年が一人。何の歌かわからない。メロディも曖昧。だけど希望に満ち溢れた歌声で人々を魅了する。
 真の雨が降り続けている。シャワーみたいに粒がきめ細かく、全身を撫でるように濡らしてゆく。その中で、少年は希望を口ずさむ。歌詞はうる覚えなのか、時々鼻歌になる。それでも、少年は一生懸命歌っている。
 人生に息詰まった青年が一人。少年の歌を聞いて涙を流す。嗚呼、僕の人生はちっぽけなもので、少し道を

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HANABI『ミスチルが聴こえる』

HANABI『ミスチルが聴こえる』

 晩夏。僕らの上に広がる夜空に、火の花が咲いた。それは温かく、煙の匂いがした。
「若いっていうのは、とても幸せなことだよ。だって、若ければ何にだって挑戦できるからね。それに、若さは純粋である証でもある。何も知らない分、スッと飛び込めるパワーだってある。若いというだけで、未来は明るく見える」
 父さんは目を細めながら夜空を見上げ、打ちあがる炎の輝きに投げかけるように言った。
「父さんだって、まだまだ

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