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ロックンロール『ミスチルが聴こえる』




「へい、青年。何聞いているんだい?」
 イケイケな爺さんがトントンと肩を叩いてきたからヘッドフォンを外すと、初対面とは思えない馴れ馴れしさ全開で質問してきた。
「乃木坂です」
「乃木坂? 千代田線の?」
「ええ、まあ」
 面倒な爺さん。早くこの場を去ろう。
「お前さんは、ロックは聞かないかい?」
「ロック?」
「アイスじゃないぜ。ロックンロールさ。知っているだろう?」
「まあ、知っていますけど」
 なんだこの爺さん。革ジャン。ジーパン。刈り上げた髪は金色ときた。
「俺は、ロックンロールが大好きなんだ」
「あ、そうなんですね」
 見た目からしてロックなんだ。これで「鳥羽一郎が好きなんだ」と言われても説得力がない。
「だけど、最近はあまり聞かれなくなってしまった。みんな、ポップさ」
「たしかに、僕の周りでもロックを聴いている人はいませんね」
「悲しいもんだ。ロックこそ、最高の音楽だと思うんだが」
 哀愁漂う爺さん。ジーパンに刺繍されているアメリカ国旗が色褪せている。本当にロックが死んだみたいだ。
「でもよ、俺は最後までロックを聴き続けるぜ。そしてロックを愛し続けるぜ」
「いいと思いますよ」
 決断した爺さん。それを肯定する僕。無駄な会話。だけど平和で温かい会話。
「ちなみに、最近はどんなロックを聞くんですか?」
「ああ。最近はハマっているアーティストがいるんだ」
「誰ですか?」
「西野カナだ」
 なんだこいつ。
 

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