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映画/ドラマレヴュー

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観た映画やドラマのなかから興味深かったものについていろいろと。
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#映画

希望を掴むための選択が引きおこす悲劇 映画『ビニールハウス』

 ビニールハウスで暮らしているムンジョン(キム・ソヒョン)は、少年院に入所中の息子と再び一緒に暮らすことを夢見ながら、訪問介護士の仕事をこなしている。そんなムンジョンの介護を受けているのは、盲目の老人テガン(ヤン・ジェソン)と、テガンの妻で認知症を患うファオク(シン・ヨンスク)だ。
 ある日、風呂場で暴れるファオクとムンジョンが揉みあった。その際、ファオクが頭を床に打ちつけてしまい、息絶えた。この

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派手さのないインド映画『夢追い人』が描く、特別にはなれない人の人生 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021年8月21日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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聴力を突然失ったドラマーが気づいた「音」の世界 「聞こえる」ことの意味 映画『サウンド・オブ・メタル』 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021年6月19日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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Netflix『モキシー』が描く性差別との戦い 女性たちの連帯を描いた良作が拭いきれなかった白人優位の視点 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021年5月15日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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イギリスで起きている暴力と破壊の連鎖、その背景にあるもの。映画『ブルー・ストーリー』が描く「ギャングの事情」 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2020年8月30日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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Netflix『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』は「レズビアン映画」か? 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2020年6月20日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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テイラー・スウィフトのメディア戦略と理不尽との戦い方『ミス・アメリカーナ』 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2020年3月22日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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壊れた社会のひび割れから、希望は生まれる 映画『ザ・キッチン』

 2024年1月19日にネットフリックスで配信が始まった映画『ザ・キッチン』は、公開前から楽しみにしていた作品のひとつだ。監督/脚本は『ゲット・アウト』(2017)で主演を務めたダニエル・カルーヤと、建築家としての顔も持つキブエ・タヴァレス。主演にはドラマ『トップボーイ』シリーズで名演を見せたケイノことケイン・ロビンソンが迎えられ、他にもラッパーのバックロード・ジーや元フットボーラーのイアン・ライ

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失望の中でも光を見つめようとする凛々しさ 映画『同じ下着を着るふたりの女』

 『同じ下着を着るふたりの女』は、キム・セイン監督の長編デビュー作にして、今年日本で公開された映画の中では傑作のひとつに数えられる作品だ。スギョン(ヤン・マルボク)とイジョン(イム・ジホ)という母娘を通して描かれる、暴力や共依存に塗れた関係性は綺麗なものではない。家族の繋がりや良妻賢母といった安易な理想化を巧みに避けながら、冷徹な眼差しに基づく社会批評と母娘の成長を描いているからだ。

 そうした

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2022年のポップ・カルチャーを振りかえる

 2022年もポップ・カルチャーに触れていて感じたのは、自身の背景を強く滲ませた正直な表現が増えたということです。音楽作品でいうと、リナ・サワヤマの『Hold The Girl』は、これまで以上に自らの切実な想いが込められた素晴らしいアルバムでした。ロイル・カーナーの『Hugo』も、人生を振りかえりながら、自分の怒りや憎しみと向きあう痛みが顕著な作品と言えます。
 この傾向は今年突然始まったことで

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『シスターズ』『トップボーイ』『アス』 〜 “階級”の残酷さと無慈悲を描くドラマ/映画

 2022年9月6日、イギリスの保守党で党首を務めるリズ・トラスが第78代首相に就任した。就任後すぐトラスは組閣に取りかかり、主要閣僚を順次発表していった。
 トラスの人選は大きな注目を集めた。ガーナ系のクワーテング財務相、ケニアとモーリシャスがルーツのブレイバーマン内相といった面々を登用し、多様性をアピールしたのだ。

 白人男性以外が要職を担うトラス政権は、一見すると進歩的に見えるかもしれない

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映画『スパイダーヘッド』

 今年6月17日にネットフリックスで配信された『スパイダーヘッド』は、ジョージ・ソーンダーズの短編小説『Escape from Spiderhead』(2010)を原作としたSF映画だ。監督は『トロン: レガシー』(2010)や『トップガン マーヴェリック』(2022)のジョセフ・コシンスキー。出演はクリス・ヘムズワース、マイルズ・テラー、ジャーニー・スモレット=ベルなどである。

 物語はスパイ

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映画『目指せメタルロード』

 『目指せメタルロード』は、2022年4月8日からネットフリックスで配信が始まった映画。監督は『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』(2015)のピーター・ソレットが務め、脚本はドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011〜2019)のD・B・ワイスが書いている。

 本作の中心キャラクターは、高校生であるケビン(ジェイデン・マーテル)とハンター(エイドリアン・グリーンスミス)だ。メタル・バンドを

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2021年のポップ・カルチャーを振りかえる



 おそらく、他の方々と比べてかなり遅いタイミングでのベスト記事発表でしょう。いつもは年末に発表していたんですが、例年よりも仕事とプライベートの忙しさが凄まじく、書く時間をなかなか取れなかったのが遅くなった主な理由です。とはいえ、年度で見ればぎりぎりOKかな?と思うので、どうかご容赦を。

 アルバム、トラック、映画、ドラマ、本のベストを選んだのは従来通りです。ただ、前回は選ぶ作品数を増やしたの

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