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映画/ドラマレヴュー

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観た映画やドラマのなかから興味深かったものについていろいろと。
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記事一覧

有害な男性性を克服するための処方箋 ドラマ『エリック』

 Netflixドラマ『エリック』は、野心的な作品だ。『モンスターズ・インク』(2001)のサリーみたいな風貌のエリックがヴィンセント(ベネディクト・カンバーバッチ)の妄想として現れるなど、全体としては子供向けの絵本みたいな雰囲気が目立つ。それでいて、ヴィンセントが息子のエドガー(アイヴァン・モリス・ハウ)との距離を縮めるまでの物語を軸にしつつ、構造的な人種差別、同性愛嫌悪、ホームレス問題といった

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ホロコーストの加害者と、今を生きる私たちの日常が重なる怖さ 映画『関心領域』

 1945年、とある邸宅でヘス家が幸せそうに暮らしている。夫のルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)、妻のヘートヴィヒ・ヘス(ザンドラ・ヒュラー)、そして子供たち。一見、どこにでもいる一家だ。ヘス家の住む邸宅がアウシュビッツ収容所と壁一枚を隔てたところにあるという以外は。

 第76回カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得し、第96回アカデミー賞では国際長編映画賞と音響賞を受賞したジョナサン・グ

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希望を掴むための選択が引きおこす悲劇 映画『ビニールハウス』

 ビニールハウスで暮らしているムンジョン(キム・ソヒョン)は、少年院に入所中の息子と再び一緒に暮らすことを夢見ながら、訪問介護士の仕事をこなしている。そんなムンジョンの介護を受けているのは、盲目の老人テガン(ヤン・ジェソン)と、テガンの妻で認知症を患うファオク(シン・ヨンスク)だ。
 ある日、風呂場で暴れるファオクとムンジョンが揉みあった。その際、ファオクが頭を床に打ちつけてしまい、息絶えた。この

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派手さのないインド映画『夢追い人』が描く、特別にはなれない人の人生 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021年8月21日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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カン・ダニエルの告白、女性差別…K-POPの光と闇の歴史を辿る『K-POP Evolution』 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021年7月17日

 筆者がたびたび寄稿していたウェブメディア『wezzy』が、2024年3月31日にサイトの完全閉鎖を予定しているそうです。そのお知らせの中で、「ご寄稿いただいた記事の著作権は執筆者の皆様にございます。ご自身のブログやテキストサイトなどのほか、他社のメディアでも再利用可能です」とあるため、こうしてブログに記事を転載しました。元記事のURLを下記に記載しておきますので、気になる方は閉鎖前に覗いてみてく

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聴力を突然失ったドラマーが気づいた「音」の世界 「聞こえる」ことの意味 映画『サウンド・オブ・メタル』 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021年6月19日

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Netflix『モキシー』が描く性差別との戦い 女性たちの連帯を描いた良作が拭いきれなかった白人優位の視点 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021年5月15日

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イギリスで起きている暴力と破壊の連鎖、その背景にあるもの。映画『ブルー・ストーリー』が描く「ギャングの事情」 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2020年8月30日

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Netflix『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』は「レズビアン映画」か? 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2020年6月20日

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『梨泰院クラス』は古びた社会構造を打ち破る爽快なドラマだ 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2020年4月26日

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テイラー・スウィフトのメディア戦略と理不尽との戦い方『ミス・アメリカーナ』 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2020年3月22日

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窪塚洋介も好演!Netflix『Giri / Haji』が破壊するステレオタイプの日本人像と家父長制 初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2020年2月15日

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壊れた社会のひび割れから、希望は生まれる 映画『ザ・キッチン』

 2024年1月19日にネットフリックスで配信が始まった映画『ザ・キッチン』は、公開前から楽しみにしていた作品のひとつだ。監督/脚本は『ゲット・アウト』(2017)で主演を務めたダニエル・カルーヤと、建築家としての顔も持つキブエ・タヴァレス。主演にはドラマ『トップボーイ』シリーズで名演を見せたケイノことケイン・ロビンソンが迎えられ、他にもラッパーのバックロード・ジーや元フットボーラーのイアン・ライ

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“優しさより正しさ”が欲しい者たちの世界を描きつづけた傑作 ドラマ『トップボーイ』シーズン5

 イギリスの大人気ドラマシリーズ『トップボーイ』がシーズン5でファイナルを迎えた。2011年にチャンネル4で初放送されて以降、5シーズンにわたって物語を描いた本シリーズは、ダシェン(アシュリー・ウォルターズ)とサリー(ケイン・ロビンソン)という2人のドラッグディーラーを中心に話が進む。ロンドンの裏社会を舞台に、命を賭けた縄張り争い、感情の機微が行きかう人間関係などを丁寧に描きながら、登場人物たちの

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