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物語のようなもの

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短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
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2023年6月の記事一覧

『生き写しバトル』 # 毎週ショートショートnote

『生き写しバトル』 # 毎週ショートショートnote

世の中には、2人、自分と同じ顔の奴がいるらしい。
いや、3人だったか。
どっちでもいいや。
世界で2人か3人だ。
何十億?80だったかな。
それも、アラスカからアフリカまで含めての2人か3人だ。
普通なら出会うことはないよな。
でも、こいつは何だ。
今、俺と同じようにジャックナイフを構えて、睨みつけていやがるこいつは。
まったく、俺じゃないか。
世界で、2人か3人しかいない生き写しが、こんな狭い町

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『白い詩集』

『白い詩集』

ある日少女は町に行き、白い詩集を買いました。
小さなページの小さな言葉。
今は寝息を立てている、生まれたばかりの言葉たち。
いつか愛しいその人に、優しく優しく語るはず。
いつか優しいその人を、愛しく愛しく包むはず。
その日を夢見て眠ります。
詩集を抱いて眠ります。

目覚めた今日は昨日と同じ。
夢見た明日も変わらない。
変わらないなら眠ること。
目覚めるよりも眠ること。
白い詩集を胸に抱き、その日

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『海砂糖の味』 # シロクマ文芸部

『海砂糖の味』 # シロクマ文芸部

海砂糖と呼ばれているのは、小さな白い塊だった。
縦横10センチほどの、いびつな形でそれは発見されたという。
発見されたのは山の中腹あたり。
そこは、200万年くらい前には海岸だったとされている。
その証拠に、魚介類の化石も時々発見される。
「どうです、少し舐めてみられますか」
男は、海砂糖から小さなかけらを削りとって、私に差し出した。
私は、その小指の爪の半分ほどの白い塊を舌にのせてみた。
それは

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『東京23区最後の日』最終回

『東京23区最後の日』最終回

1話
2話
3話
4話

5 そして最後の日

 遠くに、高い壁が見えてきた。あれが、東京23区を囲む壁か。思っていたよりも高いな。
 トオルは、立ち止まって汗を拭う。大きく息を吐くとまた歩き始めた。
 トオルは歩きながら、携帯を見た。日に日に、その回数が多くなっているのは自覚している。それでも、見ずにはいられない。
 ナオコとのタイムラインには、もう何日も前から、トオルのメッセージだけが並んでい

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『塩人』 # 毎週ショートショートnote

『塩人』 # 毎週ショートショートnote

「さあ、とどめだ、味噌人頼んだぞ」
お酢人の言葉に味噌人が答える。
「任せとけ!」
味噌人から絞り出される味噌に、怪人は、
「うわあ、味噌でベタベタだー、助けてくれー」
「任務完了よ」
甘人が言うと、
5人が並んでポーズをとる。
「俺たち、シーズニングレンジャー、良い子のみんな、また会おう」

舞台の下では、ピンクのコスチュームの甘人が、子どもたちに、甘いお菓子を配っている。
その隣ではお酢人と味

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『東京23区最後の日』4

『東京23区最後の日』4

1話
2話
3話

4 時計回りの終末へ

 彼女は、大きな声を出そうとした。いや実際に出していたのかもしれない。もはや自分の声がどれなのか、わからないくらいに怒号に溢れていた。声が声を消してしまう。それはまるで彼女の存在そのものまで消してしまうのではないか。そんな恐れを彼女はだいた。
「通してください」
 間違いなく彼女は叫んだのだが、その声は彼女の耳には届かない。そうだ、同じようなことがあった

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『東京23区最後の日』2

『東京23区最後の日』2

1話

2 霞ヶ関の方で

 始業前の点呼で所長のナエハラが話していた。
「最近は、道路の渋滞が異常です。どこにお迎えに行くにも、お送りするにも、十分に余裕を見てください。また、帰庫する際にも、遅れることのないように早めにこちらに車を向けるようにしてください。では、今日も安全運転でお願いします」
 ぱらぱらと「はい」の声がして解散する。
 タケシも、返事とも唸り声ともつかない低い声を出して、周りを

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『東京23区最後の日』1

『東京23区最後の日』1

1 東京じゃないから

 ナオコは毎日トオルとのメッセージのやり取りを欠かさない。
 昨年、地元の高校を卒業して、東京の大学に入学した。いくつかの志望校はあったものの、東京の大学ならどこでもよかった。
 地元にも大学はあった。しかし、ネットで流れてくる若い女性タレントの東京での私生活に憧れないわけにはいかなかった。
「今日は久しぶりのオフ。表参道の新しいカフェでランチでーす」
 しかも、そのアイド

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『銀河売り』 # シロクマ文芸部

『銀河売り』 # シロクマ文芸部

銀河売りが来るよ。
幼い頃、母によく言われた。
そんなことをしていると、銀河売りに銀河を売りつけられちゃうよ。
その銀河には自分ひとりで、もう二度と戻って来られないのさ。
私は、夕暮れ時にカーテンの隙間から通りを眺めながら、あの人が銀河売りだろうか、いや、あの人だろうかと考えていた。
その人がちらっとこちらを見ると、慌ててカーテンの陰に隠れたものだ。

あれは、小学校の3年になったばかりの頃だった

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『アナログ巌流島』# 毎週ショートショートnote

『アナログ巌流島』# 毎週ショートショートnote

「ではこれをつけてから、こちらにどうぞ」
添乗員はVRゴーグルを観光客に配った。
「装着が終われば、あちらをご覧ください」
おおーと歓声が上がる。
砂浜では、佐々木小次郎が長い刀を手にいらいらと歩き回っている。
「これからは絶対にそのゴーグルを外さないでください。ほら、波に揺られながら、宮本さん、いや武蔵が現れましたよ」

地元の人々は考えた。
流行りのVRで、この巌流島に観光客を呼び込めないもの

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『黒い革手袋の下に』 # シロクマ文芸部

『黒い革手袋の下に』 # シロクマ文芸部

ガラスの手に握り返されると幸せになれる。
そんな言い伝えをご存知だろうか。
もし、知っているなら、あなたは我々と同じ業界の人間だ。
しかし、我々の業界の人間は、知っていても知っているとは決して言わない。
だから、あなたの答えなど、はなから信じてはいないわけだが。
彼の正体を知るものに、私は今まで会ったことはない。
とある国の特殊部隊員であったとか、生まれた時から、養成学校で訓練されたとか。
そんな

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『顔自動販売機』 # 毎週ショートショートnote

『顔自動販売機』 # 毎週ショートショートnote

だから何だってんだ。
あいつら人間が俺たちを勝手に作っておいてだぜ。
全く何を望んでいるんだか。
猫は、猫しか産まねえ。
そうだ、あいつらの言葉があるじゃないか。
「カエルの子はカエル」ってな。
だから、人間は人間しか産まねえんだよ。
それなのに、ロボットなんか作り始めて。
それでも最初は良かったんだ。
力仕事や単純作業だけをロボットがやってる間は。
そこでやめときゃいいのに。
だんだん、変なこと

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