マガジンのカバー画像

物語のようなもの

394
短いお話を思いついた時に書いています。確実に3分以内で読めます。カップ麺のできあがりを待ちながら。
運営しているクリエイター

2022年12月の記事一覧

『運試し擬人化』 # 毎週ショートショートnote

『運試し擬人化』 # 毎週ショートショートnote

彼女が怒っている。
仕事が上手くいかなかったらしい。
とにかく、ついてないとぼやいている。
そして、その怒りの矛先は僕に向いているようだ。
今から出て来いと連絡してきた。
今日は大晦日だというのに。

その夜、指定された公園に行くと、
「そこに立って」
どこで買ってきたのか、スーパーボールが山ほど入ったビニール袋。
「絶対によけないでね」
どうやら僕は射的の的にされたわけだ。

しかし、彼女の投げ

もっとみる
『夢叶わずとも』

『夢叶わずとも』

今年も押し詰まってきた。
忘れてはいけないと、余った夢を返品しに行った。

毎年訪れてはいるが、年に一度しか行かない店だ。
それに、周囲の建物はどんどん変わっている。
昨年は工事中だった駅前には、綺麗なバスロータリーが完成している。
小さな川は暗渠となり、そこまで道路が拡張されている。
目印の角の店は、いつの間にか看板が架け替えられている。

それでも、かすかに残っていた記憶と方向感覚を頼りに何と

もっとみる
『クリスマス・イブ』

『クリスマス・イブ』

街は賑わっていた。
それもそのはずだ。
この2年間というもの、外食はおろか人と会うこともままならない状態が続いていたのだから。
2年前に発生した病は、それまで誰もその名を聞いたことのないような山村の、たったひとりの感染から始まり、瞬く間に世界を駆け巡った。
歴史上、そんなに短期間で世界を征服した偉人はいない。
かのアウグストゥスも、こいつを味方につけていればと、さぞかし悔やんでいることだろう。

もっとみる
『赤と白と緑(緑)』 # あなぴり

『赤と白と緑(緑)』 # あなぴり

(前半)
11月に入ったばかりだというのに、もうクリスマスソングなんて。
「気が早いのよ」
誰にも見えないように、菜穂子はふうっ、とため息をつく。

夕方のスーパーマーケットは、人でごった返していた。皆それぞれ忙しそうで、そして何より充実して幸せそうに見える。

「超目玉商品!小松菜88円」
と書かれた値札がなぜか、隣のほうれん草の方についており、客からクレームが来たとフロアマネージャーからのお叱

もっとみる
『アドベントカレンダー:ホラー(白)』 # あなぴり

『アドベントカレンダー:ホラー(白)』 # あなぴり

       《前半》

 透き通るような白い肩を、金に近い栗色の髪が滑り落ちてくる。
 フェイシアはゆっくりと両腕を上げ、頭の後ろで指を組んだ。
 スカイブルーの背景紙に、ささやかな細い影。黒のベアワンピースをまとった背中が、健吾と僕のカメラの前に凛と立つ。
 ライトを浴びて輝く腕は、まるで真珠のように艶やかだ。
「すげえ……」
 健吾が、ため息混じりに小さく呟いた。
 肩甲骨まで伸びた髪、ぐっ

もっとみる
『執念第一』 # 毎週ショートショートnote

『執念第一』 # 毎週ショートショートnote

朝から所長に怒鳴られている。
「やる気あんのかよ。こんな成績で。セールスってのは断られるとこから始まんだよ。セールスお断りなんて張り紙は、私ゃセールスに弱いのよってのの裏返しなんだ。そんなのに負けてどうすんだあ。執念って言葉しってるか?執念第一。言ってみな。もう一度。わかったらとっとと行ってこい」

インターホンの横には「セールスお断り」の張り紙。
所長の言葉が浮かんできて、思わずため息をつく。

もっとみる
『僕から僕へのメリー・クリスマス』

『僕から僕へのメリー・クリスマス』

日は落ちて、公園は薄暗くなってきた。
いくつかの街灯に照らされているところだけが、ほの明るい。
少し前まで遊んでいた子供たちももういない。
そのせいでもないだろうが、空気も冷たくなってきた。
住宅街にある小さな公園だ。
遊具といったも、たいしたものはない。
低い滑り台と、キリンやパンダを模したまたがるだけのものが数台。
あとは小さな砂場。
公園の周囲は家に囲まれている。
窓からは、暖かそうな灯りが

もっとみる
『クリスマスカラス』 # 毎週ショートショートnote

『クリスマスカラス』 # 毎週ショートショートnote

健太君にはどうしてもわからないことがありました。
サンタさんのソリがどうして空を飛べるのか。
ある年のクリスマスイブ。
健太君は屋根に隠れて見張っていました。
サンタさんが家の中に入るのを待って、健太君は、家にあった懐中電灯でソリを照らしました。
するとどうでしょう。
ソリに繋がれたカラスが6羽、闇の中から浮かび上がりました。

カラスは慌てました。
「誰かに言ったら、もうサンタさんは来ないからね

もっとみる
『静かな人生』

『静かな人生』

私は父に引きずられて、2階の寝室まで連れて行かれた。
父は、痛いと泣く私の腕を引っ張って階段を上った。
一段ごとに段差が体に当たり、私は泣きわめく。
無力感がさらに私の泣き声を大きくする。
廊下の突き当たりは父と母の寝室。
父がドアを開けると部屋はカーテンが引かれたままで真っ暗だった。
それとも、もうそれは夜の出来事だったのだろうか。
暗闇の中を父は進んだ。
フローリングの床は、足を突っ張ろうとし

もっとみる
『穴の中の君に贈る』 # 毎週ショートショートnote

『穴の中の君に贈る』 # 毎週ショートショートnote

一見絶望的なこの状況だが、案外そうでもないかもしれない。
この向こうにも同じような穴があって、両方から掘り進めば、見事トンネル開通、などということも考えられるわけだ。
絶望は希望の始まり。
穴はトンネルの始まりだ。

いや、待て。
トンネルが開通して、掘り進んできた2人が抱き合ったとしてだ。
お互いに穴の外には出られないから掘り進んだのではないか。
そんな穴が開通したとして、その先どこに向かうとい

もっとみる
『ロングシュート』

『ロングシュート』

日本が強豪国に逆転勝ちをした。
そんなニュースに日本中が沸き立った翌日、週3日で通う管理人のシフトは休みだった。
朝から、テレビもネットニュースもその話題で持ちきりだった。
シュートを決めた選手の両親や兄弟。
学生時代の恩師。
小学生の頃の友人まで。
関係者は引っ張りだこだ。
頭越しに飛んできたパスをトラップして、そのままゴール前に。
キーパーとゴールポストのわずかな隙間を狙ったボールはネットに突

もっとみる
『男子宝石』 # 毎週ショートショートnote

『男子宝石』 # 毎週ショートショートnote

ひと口に宝石といっても、元は約4000種あるといわれる鉱物の一部だ。
その中で、希少性が高く、美しく、かつ、ここがポイントだが、人間に愛された約40種が宝石として崇められている。

さて、人間とはやっかいなもので、とにかく愛するものとひとつになりたがる。
馬やイルカ、珍しいところでは車とくっついた者もいる。
愛書家というくらいだからそんな人もいるのだろう。

「綺麗な男の子ですよ」
そう言って手渡

もっとみる