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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2021年9月の記事一覧

『電話が途中で途切れたかを』

『電話が途中で途切れたかを』

「あぁもう最悪だわ、先週の模試、数学でD判定」

「そしたら数学だけ講習追加で受けたりするんか?」

その問いかけに対して

Mは返事をよこさなかった

背後で鈍い音が聞こえたような

聞こえないような

無言がしばらく続いて

何回か俺も呼び掛けたんだけど

仕方なくそのときは

受話器を置いた

まだケータイもなかったから

Mの家に行くくらいしか

安否の確認手段はなかった

Mより一足先に

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『認められた気分になるんだよ』

『認められた気分になるんだよ』

すんごい孤独で

寂しくて

でも誰かに

かまってほしくて

針金を二本

両手で一本ずつ持って

コンセントの

右と左に

挿したら

感電する

すんごい電気が

からだじゅうを走るよ

駆け巡るよ

それでなんだか

誰かに

認められた気分になるんだよ

からだがぼろぼろだけど

脳みそはふわあんとして

とろとろなって

ほどよいだつりょくかんに

つつまれて

あぁうっとおしい

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『メンタルクレンジングブロガーのHIROMIです!』

『メンタルクレンジングブロガーのHIROMIです!』

To- Lu-!

こんにちは!メンタルクレンジングブロガーのHIROMIです!

まだまだ暑かったり、ちょっと寒い日があったり、すっかり季節の変わり目ですね。そんな日は誰でもちょっと心身に不調をきたすもの。

とくにオフィスワーカーのみなさんにとって月曜日って、辛いですよね。ワタシも経験があります。楽しかった休日が終わって、次から次へと迫ってくる仕事。こなしてもこなしても終わらない。ほんっとにス

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『「そもそも飼わなきゃいいんだよ」』

『「そもそも飼わなきゃいいんだよ」』

地球の裏側の

とある国が襲撃を受けて

大混乱に陥っているという

核施設さえ標的にされて

その被害は甚大必至

対岸の火事とはいえ

大国ゆえ

世界的な悪影響も免れない

それにしても

なんとか未然に

防げなかったのだろうか

ニュースを見ながら

遊びに来ていた友人に

そんな感想を漏らす

俺は続ける

「そもそも飼わなきゃいいんだよ」

すると半ば友人はムッとしたのか

「あぁウ

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『表向きは』

『表向きは』

土産物や串焼きなんかの屋台が

ずらっと軒を連ねる大通り

現地の人間と

俺のような外国人観光客が

入り混じる

脇へひとつ通りを逸れると

ネオンはより原色に近く

そして鈍く光っていて

声をかけられる

「ネ、ネ、オニィサン、ネ、タノシ、タノシネ!」

ほとんどの店が

表向きは料理店ということになっているが

実のところは

いわゆる女郎宿

ときには腕を掴まれる

「ネ、ネ、オニィサ

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『左遷された』

『左遷された』

左遷された

この会社に勤めて

はや二十余年

若い頃はバリバリ働いた

成績は上々で

早々と認められ

それなりの位置についた

また

自分でいうのもなんだが

それなりに容姿端麗だったこともあり

異性関係で不自由はなかった

もっとも

仕事に差し支えないよう

余計な火遊びはしなかった

そんな日々が続いて

家庭を持ち

子が成長し

仕事のほうも

若い頃ほどではないが

それな

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『『深い森の入口にあるコテージで』の続きD』

『『深い森の入口にあるコテージで』の続きD』

(まえがき)

元作品から派生した4択オチのラストです。4つ目。

---

「差し支えなければ、どのような?」

「…ってそもそも…俺の姿見えるんすか?」

にわかには理解しがたかった

「ど、どういうことでしょう…?」

「んぁーもうバレちゃったか…だからあいつ…」

「私、なんだかすまないことを?」

「いやぁー、こっちの不手際っすから」

その後私は

コテージの一室に通された

どうやら

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『『深い森の入口にあるコテージで』の続きC』

『『深い森の入口にあるコテージで』の続きC』

(まえがき)

こないだ書いた記事のオチ候補4つのうち、3つ目を本日お出しします。

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「差し支えなければ、どのような?」

「あ、仕事は都会でね。アパートが樹海の中にあって。独り身だからココで飯食うんすよ」

にわかには理解しがたかった

「ど、どういうことでしょう…?」

「きょう時間あるなら、見ます?」

時間ならいくらでもある

売ってやってもいいくらいだ

もっともカネにも困って

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『『深い森の入口にあるコテージで』の続きB』

(まえがき)

おととい書いた作品で4つのオチ候補がありました。きょうはその2つ目です。

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「差し支えなければ、どのような?」

「個撮ってわかります?首吊る社畜っていう需要あるんすよね」

にわかには理解しがたかった

「ど、どういうことでしょう…?」

「きょう時間あるなら、見ます?」

時間ならいくらでもある

売ってやってもいいくらいだ

もっともカネにも困ってはいないが…

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『『深い森の入口にあるコテージで』の続きA』

『『深い森の入口にあるコテージで』の続きA』

(まえがき)

昨日書いた作文のオチ候補4つのうち、まずはAの続きです。

---

「差し支えなければ、どのような?」

「磁場を狂わせる機器が置いてあるんすけど、その点検す」

にわかには理解しがたかった

「ど、どういうことでしょう…?」

「きょう時間あるなら、見ます?」

時間ならいくらでもある

売ってやってもいいくらいだ

もっともカネにも困ってはいないが…

これから男は会社に戻っ

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『深い森の入口にあるコテージで』

『深い森の入口にあるコテージで』

深い森の入口にあるコテージで

私はひとり

秋の訪れを噛みしめていた

この宿は初めてだが

なかなか悪くない

豪奢なつくりではないが

大変静かで

物思いに耽ることができるし

食事も豪華とまでは言わないが

味は至高だ

景色は言わずもがな

テラスから右手を見れば

林道が山の頂きに向かって伸びており

色とりどりのハイカーたちで賑わっている

いっぽう左手は

鬱蒼とした手つかずの森

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『安酒をかっくらって酩酊していたから』

『安酒をかっくらって酩酊していたから』

こうやって酌み交わすのは

何年ぶりかな

あるいは四半世紀ほど

経っているかもしれない

高校のときだっけ

あのときは

カルピスだったかもな

いまはこうして

上等とは言えないまでも

ほどよい口当たりの

日本酒を

ちびちびやりながら

問う

「元気で、やってるの?」

「ん、そこそこ…」

良かった良かった

「で、仕事は?」

「ん、まぁまぁ…」

無事だということだ

「奥さ

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『蕎麦屋で』

『蕎麦屋で』

世間的には割とニッチな

狭い業界を専門とする広告代理店で

私は営業の仕事をしている

ある日

いわゆる接待というやつで

A社の社長さんと一席設けていた

もちろん酒は飲む

ただし酔い潰れるようなことは

営業職として

あってはならない

粗相が許されないのは当然のこと

とくにその日はハシゴで

競合のB社とも接待があった

A社長いきつけの蕎麦屋の座敷

業界内ではグルメかつ上戸で有

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『二日酔いしない薬を発明した』

『二日酔いしない薬を発明した』

二日酔いしない薬を発明した

どんなに強い酒を

どれだけ飲んでも

どんなにアルコールに弱い人が

何を飲んでも

絶対に二日酔いしないという

つまりは

頭痛や吐き気

あるいは眠気

などなど

その他もろもろの症状が

絶対に現れないという

酒飲みにとっては夢のような薬

度重なる実験を経て

いよいよ臨床試験の段となった

酒好きの有志たちが

すぐに手を挙げ

とある土曜の夜(いち

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