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『安酒をかっくらって酩酊していたから』


こうやって酌み交わすのは

何年ぶりかな


あるいは四半世紀ほど

経っているかもしれない


高校のときだっけ

あのときは

カルピスだったかもな


いまはこうして

上等とは言えないまでも

ほどよい口当たりの

日本酒を

ちびちびやりながら

問う


「元気で、やってるの?」

「ん、そこそこ…」


良かった良かった


「で、仕事は?」

「ん、まぁまぁ…」


無事だということだ


「奥さんやお子さんなんかも?」

「ん、そうねえ…」


あんまり掘り下げるのも野暮だろうから


とはいえ

久々に

ン十年ぶりにあって

この反応


なんだか歯痒い

だから

こう訊ねてみた


「それで、俺を呼びつけたのは?」

「…」


友人は

手酌で徳利を空ける


「なんでまた、ン十年ぶりに俺を?」

「…」


俺の言葉になど耳を貸さないと言わんばかりに

もう一本とおかわりする


「なぁ、言ってくれよ、なぁ」

「…」


こいつの家がここから近いことは

あらかじめ聞いていた

しかし俺は

電車を乗り継いでここから

2時間ばかりかかる


それなのに

積もる話をするでもなく


「なぁ、なぁって」

「ん、わかったよ…」


ようやく呼びつけた理由を


「お、それで?」

「ん、聞いてくれるか?」


話す気になったらしい


「決まってるだろ」

「ん、でさぁ…」


ただでさえその時点で

安酒をかっくらって酩酊していたから


その後のことは

ろくに覚えちゃあいない


ただひとつ言えるのは


親友は

俺に対して

友情を超えた


つまりその

愛情を…


あくる朝


あまり記憶は残っていない


何故だか俺は

涙をこぼしながら

帰路についた


そういう時代

ということだ


俺は帰宅するなりすぐさま

妻と娘を

強く

愛おしく

抱きしめた






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