見出し画像

『表向きは』


土産物や串焼きなんかの屋台が

ずらっと軒を連ねる大通り


現地の人間と

俺のような外国人観光客が

入り混じる


脇へひとつ通りを逸れると


ネオンはより原色に近く

そして鈍く光っていて


声をかけられる


「ネ、ネ、オニィサン、ネ、タノシ、タノシネ!」


ほとんどの店が

表向きは料理店ということになっているが

実のところは

いわゆる女郎宿


ときには腕を掴まれる


「ネ、ネ、オニィサン、ネ、ヤスイ、ヤスイヨ!」


世界中にこんなところはいくらでもあって


俺はだいたい一人旅なんだが

こっちのほうにはほとんど興味を持てない


あぶないからねぇ


ただこの妖しい裏通りの醸し出す雰囲気は

なんともいえずそそられるわけで


うまく写真に収められたら

どんなにいいだろうと

思いはするが


あぶないからねぇ


そんな通りの散策を済ませて

少し歩いた先の宿に戻る


明日も早く出発する必要があるから

もうシャワーを浴びて寝よう


ドアをノックする音が聞こえる

何のルームサービスも頼んでいない


覗き穴に顔を近づける


「ネ、ネ、オニィサン、ネ、タノシ、タノシネ!」


客引きどころか

押し売りにきたってことか


しばらくほおっておいたら

静かになった


さて改めてリラックスするかと

その矢先


今度は部屋の電話が鳴る

こうなると考えられるのはひとつだが

なかなか鳴り止まないから

しかたなく


予想したとおりだった


「ネ、ネ、オニィサン、ネ、ヤスイ、ヤスイヨ!」


電話が鳴らないように

線を元から抜いてしまうことにした


シャワーを済ませた俺は

灯りを落とし


早々にベッドへもぐりこむ


「ネ、ネ、オニィサン、ネ、サービス、イパイイパイヨ!」


ここにもいたのか


しかたない

今夜くらいは

世話になるか





















この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,489件