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『『深い森の入口にあるコテージで』の続きA』

(まえがき)

昨日書いた作文のオチ候補4つのうち、まずはAの続きです。


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「差し支えなければ、どのような?」

「磁場を狂わせる機器が置いてあるんすけど、その点検す」


にわかには理解しがたかった


「ど、どういうことでしょう…?」

「きょう時間あるなら、見ます?」


時間ならいくらでもある

売ってやってもいいくらいだ

もっともカネにも困ってはいないが…


これから男は会社に戻って勤務をするという


男の運転する車に揺られて

都会へしばらく走る


「いやそのまんま、強力な磁力を発生させてんすよ」

「ほぉ…それは初耳でした」


超自然のチカラが働いて

磁場を狂わせていると思っていた


その超自然が

つまりは人工的なものであったとは


都心の大きなビルに到着した

社名こそ明らかではないが

よほどの大企業であると察する


男は上司と思われる人間に

無事昨日の点検が済んだと報告するとともに

私を紹介した


「この方、ご新規さんです」

「あ…急にお邪魔して恐れ入ります」


上司と思われる人間は

男のラフな言葉遣いとは真逆で

急な老いぼれの来客にも関わらず

恭しい態度で迎え入れてくれた


ほどなくして私は

ラボのような場所へ通される


「ここ通すの、特別ね」

「なぜ私などを…?」


男は無言で廊下を先に進んだ


厳重なセキュリティを解いて

重厚な扉の先には

SFモノの映画で見るような

オペレーションルーム


「あ、スマホ持ってたら電源切って」

「わかりました…」


部屋一面のスクリーンには

様々な数値やパラメータ

また世界中の主要都市の風景が

映し出されていた


「お客さん、しっかり見てて」

「は、はい…」


すると男は

スクリーンの前に並んだ無数のスイッチ類のなかでも

ひときわ目立つ大きな赤いボタンに指をかけた


「これ、押すとね、樹海の磁場装置止まるんすよ」

「え、そんなことをしたら…」

「正常に止まるかってのも、点検のうちだから」

「そんなものですかね…」


私が言葉を返すが早いか

男はスイッチを押した


瞬間

目の前の風景が凄まじいことになる


世界中のありとあらゆる都市で一斉に

信号機が止まり交通は乱れ

航空機が墜落するさまも映し出された


数値やパラメータもまた

異常値を示していると思われる


男があるチャートを指さす


「お客さん、株で食ってたりする?」


どきりとした


「ほら、暴落」


たしかに

私の生活を支える銘柄が

軒並み暴落しているようだ


膝から崩れ落ちそうな私をなだめながら

男は続けた


「つまりウチが世界を、ね…言わなくてもわかるでしょ?」


その後の私はいっそう従順だった


男の勧めるとおりに

この会社の株式を購入することにした


いっぽう私の持っている株式は

暴落する前の価格で買いとってくれるというので

安心した


契約書にサインをし

ビルに横づけされたタクシーに乗って

滞在先の宿に戻る


ん?

何事もなかったかのように

街は平和だぞ?


スマホの電源を落としていたことに気づき

改めてスイッチを入れる

タクシーは走り続ける












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