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『左遷された』


左遷された


この会社に勤めて

はや二十余年


若い頃はバリバリ働いた

成績は上々で

早々と認められ

それなりの位置についた


また

自分でいうのもなんだが

それなりに容姿端麗だったこともあり

異性関係で不自由はなかった

もっとも

仕事に差し支えないよう

余計な火遊びはしなかった


そんな日々が続いて

家庭を持ち

子が成長し


仕事のほうも

若い頃ほどではないが

それなりにやっているつもりだった


だから左遷される理由にこれといって

思い当たる節がない


追い出し部屋とでもいうのか


社屋の地下3階

ビルの制御室のさらに奥

二坪ほどのスペースに

私のデスクが移された


これまでの業務で使っていた

パソコンや

社用のスマートフォンは

今度の業務では不要ということで

回収されてしまった


ノックもなく

私より十は年下と思われる男が入ってきた

私の上司になる人のようだ


「仕事内容は聞いていますよね?」

「えぇ、はい。聞いています」

「では今日から早速、お願いします」

「撮影も…ですよね?」

「えぇ撮りますよ」


そういいながら

私に紙袋を手渡してくる


「このアイマスクをしていただいて、その上からこのタオルを巻いて」

「わかりました」


目隠しが済むと

背中を押されて隣の部屋へ誘導された


「じゃカメラ回しますね!まずはこちらの部屋です」


ドアを開けた瞬間

視覚こそ閉ざされているものの

まるで花園にいるかのような

魅惑的な薔薇の香り


ついうっとりとしてしまう


「OKですかね、では次の部屋です」


こちらも前の部屋と同じく

一面に薔薇園が広がっているのではと思うほど

圧倒的に嗅覚を魅了してくる


「では戻ります。お疲れ様でした」


デスクのある小部屋に戻ると

上司に目隠しを外してもらった


「では伺います。始めの部屋と後の部屋…」

「はい」

「どちらがホンモノの薔薇で、どちらがウチの柔軟剤だと思います?」


これを毎日やるらしい


そういう部署に

私は配属された


撮った映像は

なんやかんやに使われるようで












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