見出し画像

『『深い森の入口にあるコテージで』の続きD』


(まえがき)

元作品から派生した4択オチのラストです。4つ目。


---


「差し支えなければ、どのような?」

「…ってそもそも…俺の姿見えるんすか?」


にわかには理解しがたかった


「ど、どういうことでしょう…?」

「んぁーもうバレちゃったか…だからあいつ…」

「私、なんだかすまないことを?」

「いやぁー、こっちの不手際っすから」


その後私は

コテージの一室に通された

どうやら男が滞在する部屋らしい


「これ、見てくださいよ」


ノートパソコンの画面を指図された


老齢の私には少し読みにくかったが

文章を追っていくうちに

背筋が凍った


「あぁ…これは全部私が見た…」

「夢かなにかと思うでしょ?」

「はい…夢で全部見ましたね」

「そうじゃないんすよ、これ、この名前」

「あま?え?えだ?」

「甘枝ゆとり、この文、書いたひと」

「ほう、作家さんですか…?存じ上げないな」

「そりゃ知ってるわけないっすよ、ただの素人だもん」


この森の中のコテージは

都会の喧騒を離れて

たいへん居心地の良い空間だった


清潔感もあり

食事も申し分なし

何より絶景が魅力的だ


ただ

何かが引っかかっていた


そしていま

それが解けた


ココに滞在してから

毎晩かならず

奇妙な夢を見ることを

思い出した


決まって樹海のなかへ

この男に誘われる


あぁそうだ

間違いない

はっきりとしてきた


最初

磁場を調整する施設へ連れられて

後に私の資産を融かされた


次の晩

わけのわからんカメラ愛好家たちに

首吊り写真を撮ると言われ

ほんとうに首を吊ってしまった


きのう

この男が住んでいる樹海のアパートで

延々とビールを飲まされて

それが何度も


「そう、つまりあんたは、この甘枝っていう奴の作文の主役なわけ」


にわかには理解しがたかった


「ど、どういうことでしょう…?」

「きょう時間あるなら、見ます?」


時間ならいくらでもある

売ってやってもいいくらいだ

もっともカネにも困ってはいないが…


男が生業としているのは

世の中に数多ある

文芸や映像作品の出演者を

その場面へ導く仕事だとか


ただしその出演者を

どうコントロールするかは

この男ではなくて

作家の技量によるという


「どうすか?読むのだるいっしょ」

「いやもう、疲れました」

「でしょ?懲りずに毎日書いてんすよ、こいつ」


私はこの

甘枝ゆとりとかいう自称(?)文筆家の

つまらん作品を

延々と読むハメになった


途中で投げ出すこともできたのだが

それでは男に申し訳が立たないような気もあり


いかに暇を持て余しているとはいえ

もう少し有意義な時間の使い方があるように

私は思った


いっそ何かそういった主旨のコメントを

残そうかと考えたくらいだった

だがコッチの世界ではそれはタブーだというので

控えておいた


早晩この男も

この文筆家もどきの担当を

辞するつもりだというから

滑稽な話だ





























この記事が参加している募集

#スキしてみて

525,302件