書評「センスメイキング 本当に重要なものを見極める力」
こんにちは。
牧 菜々子です。
センスを磨くことは、贅沢なのか?
芸術は、週末にちょっとかじってみるだけのものと、誰が決めたのか?
「芸術は、金にならない。
生産性とは、何ら関係ない。」?
では、人は何のために存在するのか。
「関心を寄せ、意味を作り出し、意味を解釈するため」に存在するのだ。
芸術は、決して道楽ではない。
それどころか、競争力の源泉にほかならない。
著者のクリスチャン・マスビアウ氏は、そう語ります。
センスメイキングとは文化的な知の技法
P&G元CEOはこう語る。
「常に変化する環境の中で成功を収めたいなら、教養の学位を取りなさい」と。
「芸術、人文科学、言語を学ぶことで、知性が精神的な器用さを育み、新しい考え方にオープンな人間になる。
有力な経営者をめざすのなら、幅広い教養を身につけ、あいまいさや不確実性に上手に対応していく力が欠かせない。」
と。
また、スターバックスは、最新の技術と並んで、文化的な洞察力に優れている。
「人」を理解するには、文化的な知が必要だからだ。
先入観をほんの少し捨てて、自分自身の精神、感覚を駆使して洞察する。
その行為を、私は、「センスメイキング」と呼んでいる。
つまり、センスメイキングとは、文化や人文科学に根ざした実践的な知の技法である。
センスメイキングのやり方
まず、あらゆるものを相対的にとらえる。
比べるものによって変化するということだ。
それを、文化的な視点でとらえる。
すると、いつもより空気がどんよりしているとか、世界と自分の関係が浮かび上がってくる。
歴史やしきたりから、「人間の経験」について勉強する。
そして、上から見下ろすのでなく、同じ目線で、世界を理解する。
それが、センスメイキングの過程だ。
高級車とは
途中で、センスメイキングの意味を見失うかもしれない。
私は、何度でも言う。
センスメイキングとは、人と世界との関係を、相対的に、文化の視点でとらえることだ。
例えば、高級車とは、ロゴではない。
家族や友人を、美しいデザインの車内空間に招き、ドライブをしながら絆を確かめることが、高級車の存在意義なのだ。
人と車の関係。
それを、文化の視点で、相対的にとらえると、そうなる。
それに気づくこと。
実践的な知、センスメイキングだ。
相対的にとらえること。
先入観を捨てること。
文化の視点や「人間の経験」を優先すること。
それが、複雑な時代にセンスを発揮するセンスメイキングの神髄なのだ。
センスメイキングを続けるとどうなるか
センスメイキングを続けていくと、私たちは、「どこに注目すべきか」がわかるようになってくる。
物事の意味を見出せるようになる。
自分の立ち位置がわかる。
どこに向かっていくのか、見失わないようになる。
複雑な世界の中で、本当に重要なものを見極める力を得た人が、成功しないはずがない。
何せ、センスメイキングによって、恐怖や不安を切り抜けることさえできるのだから。
センスの発露の具体例
具体的に、センスというのはどう発揮すれば良いのか。
例えば、生命保険の契約率を上げたいとする。
業界の常識を一旦脇に置いて、「老いることはどういうことか」という問いを立てるのだ。
そして、センスメイキングによって、人と世界の関係を文化的にとらえて、意味を見出す。
すると、老いとは、決して悠々自適な楽園ではなく、不安と恐怖そのものであり、それを感じた時に人は生命保険に入るのだ、と気づく。
だから、民族学研究と同じように、一般の人が「老い」を感じる瞬間をこの目で見るために、丸3日間ともに過ごすという観察を行うことにした。
どんな民族でも、子どもの独立によって、住環境や夫婦愛に疑問を持つ。
昇進はないと自覚した頃、街でも年寄り扱いされることが気になり始める。
それなのに、生命保険の営業は、20代の見込み客の70%以上からアポイントメントをキャンセルされるようなやり方をしているのだ。
手をかけるべきは、老いを悟った中高年であるにもかかわらず。
こうして中高年との信頼関係強化に予算配分した結果、解約率が80%減少するという効果が出た。
老いについて、一般人と丸3日間一緒に過ごすことで考え、話し合った結果、ビジネスセンスの向上につながったのだ。
また、スーパー業界なら、「料理とは何か」を文化的に考察する。
すると、人は献立なんか考えていないことがわかる。
その途端、ビジネスのアイデアが浮かび始める。
他にも、投資家が投資判断をする時、先入観を切り離して、生身の人間の文化的な言動を感じ取って、投資先を決定する。
人質交渉人は、犯人の見栄やメンツのニュアンスを、宗教的背景から読み解く。
ワインの醸造家は、土壌という文脈を、全神経を集中させて操る。
教師や保育士、介護士の、絶妙なタイミングと方法による言葉かけ。
優秀なプロたちによるこのような全てが、センスの発露だ。
アートに触れる
私たちが、この優秀なプロに近づくためには、アート、音楽、小説、哲学によって教養を身につけ、先入観を捨てて、物事を相対的にとらえること、すなわちセンスメイキングが必要だ。
文化の視点から、「人間の経験」を優先し、意味を解釈する。
なぜなら、人間は、関心を寄せ、意味を見出すために存在しているのだから。
センスがなければこの先立ち行かない
私がこの本を手に取ったのは、「センスがないと、この先、生きていけない」と確信していたからです。
これからの時代にセンスが必要なことは、誰よりもわかっているつもりでした。
でも、この本で、「どうしてセンスが重要なのか」を本当はわかっていなかったことに気づきました。
「人は何のために存在するのか」までなんて、考えていなかったからです。
言われてみれば、たしかにそうです。
「この先生きていけるか生きていけないか」は、「人は何のために存在するのか」にかかってきます。
だから、「センスが要る理由」だって、「人は何のために存在するのか」の答えとつながっているはずです。
センスが要る理由。
それは、「人は関心を寄せ、意味を解釈するために存在しているから」なのです。
センスを磨くと、どうしてこの時代に競争力を持てるのか。
ビジネスに役立ち、お金になるのか。
その答えも同じです。
「人が関心を寄せ、意味を解釈するために存在しているから」。
人がどうしようもなくそうしてしまうこと、どうしてもやめられないこと。
それが、「関心を寄せ、意味を解釈すること」です。
「あれ?これって何だろう?」と関心を寄せ、「もしかして、こういうことかな?」と、意味を解釈する。
人間が人間として生きて行くために、これだけはやめるわけにはいかない。
そのことを知っていれば、人がわかり、世界がわかる。
人がどう思い、どう動くのかがわかれば、未来がわかる。
やるべきことがわかる。
だから、センスを磨けば競争力が持てて、ビジネスが成功し、お金になるのです。
「未来がわかる」?
わからないから苦労しているんだ。
そんな人に、著者は語りかけます。
複雑な時代に成功したいなら、センスメイキングは不可欠だ。
なぜなら、人は常に関心を寄せ、意味を解釈するから。
そういう存在であるところの人間が、世界を作っているからだ、と。
歴史やしきたり、「人間の経験」に目を向ける。
そう言われて私が思い浮かべたのは、顔相やプロファイリング、風水などの、「人間の経験」の集積の分野です。
どれも、決して根拠がないものとは思いません。
むしろ、著者の言うセンスメイキングに役立つものに思えます。
芸術に触れ、教養を身につけていくうちに、私たちは、「どこに注目すべきか」がわかるようになってきます。
私たちがしなければならないのは、先入観を捨て、相対的・文化的にものごとをとらえることなのです。
『センスメイキング 本当に重要なものを見極める力』クリスチャン・マスビアウ著 斎藤栄一郎訳(プレジデント社)