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間詰ちひろ
2019年11月22日 08:00
「人手が足りなくて。ひとりで行ってくれない?」不動産業者に渋られ、引っ越し先の内見にひとりで行くことになったミチ。アパート横のお社に隠されていた鍵を見つけ、部屋を開けると自称大家の「ミカミ」と名乗る男が待っていた。(108文字)
2019年11月20日 08:00
「ずいぶん、無茶してるなぁ」カルテをしげしげと見つめた後、患者にちらりと眼を向ける。「あの、ジブンは、体にいいって、耳にしたモノですから」青白い顔をした患者は、言い訳じみたことつぶやく。「いったいどこで聞いたの? 少なくとも、あんたの身体は受け付けておらんよ」「友人から、です。オカシな血液より、これ飲んだほうがいいって。友人の友人はオカシな血液で、肝臓を悪くしたって」患者は自信
2018年8月8日 09:30
毎日毎日、ぐったりするほど暑い。こう暑いと、やっぱりちょっと背筋がザワリと毛羽立ってしまうようなお話も、書いてみようと思う。私自身が過去に体験した、一番怖かったお話だ。怪談話ではない。けれど、思い返してみても、怪談以上に気味が悪い。私が大学二年生のころのこと。季節はちょっと、覚えていない。私はひとり暮らしをしていた。当時、付き合っている人がいた。同じサークルの、ひとつ上の学年の人。彼は
2018年7月9日 09:48
「クセがないのに、クセになる!」202X年、7月9日。あるインスタト食品が発売された。その商品名は「ななくせ粥」。お湯をそそいで、一分待てばでき上がる。CMで大げさに言っているとおり、味には大きな特徴はない。しかし、ひとくち食べてしまったら、「もっとほしい。もっと食べたい」と脳をぐらぐらと揺すられるほどに、虜になるという。「えー、もう売り切れですか? なんかわたしのシフトのときばっ
2018年4月23日 09:24
「あのさー、今日の夜あさりの面倒見てくれない?」夫は仕事へ行く支度をしながら、こともなげに私に告げる。私にとっては非常に気が重いひとことでもある。先週の半ばに、夫は一人で潮干狩りに行ってきた。平日だったし、私は会社を休んでまで潮干狩りに向けた情熱はない。シフト勤務の夫は、カレンダーにマルをつけて、数日前から準備をしていた。「周りの人たちが、すごく便利そうなグッズを持っていて、それを作って
2017年10月2日 08:30
「そろそろ、だね」チラリと腕時計に目をやった。夕方の、ちょうどいい時間にさしかかっている。私は戦闘体制に入るべく、キュッと気持ちを引き締めた。シュッと音をたてて、ルアーをポイントに投げる。さあ、今からが勝負時だ。真剣にリールを巻きながら、私は釣り竿の引きに集中した。私が釣りにハマったのは、大学時代に付き合っていた元カレのせいだった。アウトドア好きだった元カレは「見てるだけでもい
2017年7月26日 20:13
「剛くんは、今どんな仕事してるんだっけ?」久しぶりに集まった大学の時のサークル仲間。全部で20人くらいの飲み会になり、みな思い思いに話している。お店もガヤガヤと賑やかで、大きな声を出さないと、お互いに何を話しているのか聞き取りづらい。初めのうちは、頑張って声を出していたけれど、早々に疲れてしまう。そのために私は、となりに座っていた剛くんとばかり話していた。「いろいろ転職したんだけど
2017年7月21日 18:25
「お塩、用意しといてくれる?」夫から送られてきたLINEの内容に、またか、とおもう。OK、とムリやり明るい絵柄のスタンプを私は送り返した。 今月で3度目だよね。なんか、続く時は、続くみたいだよ。ちょっと、怖いね。 夫が帰宅して、ふたりでビールと冷奴をつまみながら、ボソボソと話す。夫の仕事は、高速道路のパトロール業務だ。といっても、警察官というわけじゃあない。高速道路自
2017年7月19日 20:14
「ようやく梅雨明けやってー」知美がスマホを見ながら、ぽつりとつぶやいた。「なんか、いまさらじゃない? 今年ぜーんぜん雨降ってへんやん。水足りひん! とかなりそうやね」私は、7月半ばとはいえ、もうさんざんな暑さにすでに夏バテ気味だった。「試験終わったら、かき氷食べに行かへん? この前テレビでやっててなー。めっちゃおいしそうやってん」ちょっと待って、見せたげる、と言いながら知美はスマホを