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●ショートショート●

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これまでに書いた短編小説、ショートショートをまとめたものたち。
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2023年4月の記事一覧

【ショートショート】 彼女たちはすぐ死ぬ

【ショートショート】 彼女たちはすぐ死ぬ

「ヤバイー、今回のテストまじで死んだわー」
「私も。私このテスト1つでも赤点取ったら、お小遣い1ヶ月なくなるんだけど」
「まじで?それ鬼すぎん?」
「鬼無理。ほんと、絶対死んだ」

電車の到着を、ホームで待つ時間。
そのほんの数分で、目の前にいる女子高生たちは、何度も死ぬ。
彼女たちは口々に、今日あったらしいテストの出来について話し、笑いながら何度も死んでいく。

「うわ、バイト先から着信来てる」

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 【ショートショート】 ガラス越しのバス停

【ショートショート】 ガラス越しのバス停

そのバス停の近くには、古いたばこ屋があった。

電子たばこや自動販売機が広まっている今、そのたばこ屋はなかなか流行っているとは言い難い。

それでもバス停に用事のある人がひょいと立ち寄るくらいの場所にあるものだから、バスの利用者が悪気なく、店の前のベンチを使う。
お店のやりくりをしているのは、白髪で背の低い一人のお婆さんで、バスの利用者がバスを待つついでにベンチに座り、お婆さんと談笑するようなこと

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【ショートショート】 星になった風船

【ショートショート】 星になった風船

午後の授業。何となく、眠たい空気の漂う教室。
窓際の席に座る私は、机に頬杖をついて窓の外を眺める。

窓際で揺れるクリーム色のカーテン。その向こうに、淡い桃色の花をつけた、ハナミズキの枝が揺れる。時折風が吹いて、校庭に靄がかかるような土埃が、薄く渦を巻く。

校門近くの桜の木は、もうすっかり葉桜になっている。少し前まで満開で、下を通るだけで散った桜の花びらが髪に乗るくらいだったのに…。

ふと視界

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【ショートショート】 海辺のベンチ

【ショートショート】 海辺のベンチ

気持ちが落ち着かないときは、よく海辺のベンチに行った。
特に深い意味があるわけではない。ただ、もう何年も続けていて、実際そうすると気持ちがだんだん落ち着いてくるから私には合っているのだと思う。世にいう「自分ルール」というものだ。

その日の私は、朝からひどい気分だった。
遠方に住む祖父が亡くなったという連絡を受けた私は、何だか気持ちが落ち着かなくてとりあえず海へ向かった。

亡くなったのは明け方で

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【ショートショート】 春の魔物

【ショートショート】 春の魔物

「この世界は魔物だらけだ!」
 不意にマコトが声を上げる。まあいつものことだ。

「聞いてる?」
 触らぬ神に祟りなしと、そっとしておこうとしたのがバレたと見えて、マコトはわざわざ振り返って私の顔を見る。

「聞いてない」
「聞いてよ!聞いてるくせに!」
 もう言ってることが無茶苦茶だが、こんなのはいつものことである。

「魔物だらけなんだよ、私の周りは!」
 だって絶対捨ててないのに、どこにもな

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