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幻想絵画館

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日香里個展「BLUCANILLO」 at silent music

日香里個展「BLUCANILLO」 at silent music

 BLUCANILLOはブルカニロ。

 宮沢賢治が四度に渡っておおきく書き換え、未完成のままその死後に草稿として遺された『銀河鉄道の夜』のなかで第三次稿までは登場しながら最終形からは姿を消してしまった「ブルカニロ博士」に捧げられた展示には、そのひとに宛てた手紙のはじまりのように、そのひとの名が冠されていました。

 往復書簡みたいに京都のアスタルテ書房さんで前期が、東京のsilent music

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リルケに寄す――silent music

リルケに寄す――silent music

 五月の薔薇にリルケへの祈りが託されたマリアさまのお庭、東中野のsilent musicへ。

 展示にあわせて編まれた石倉和香子さんのリルケ詩集から密やかにひらかれた朗読会。

 いつまでも深い余韻を底に響かせている鐘みたいに厳かに紡がれた和香子さんの声による朗読、その鐘の音が天に吸いこまれて昇り、不意にひらけた場所で翼をもって、その光の階段を羽ばたいてくるように奏でられた久保田恵子さんのピアノ

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蝶の目覚め

蝶の目覚め

 春の終わりとともにあるお庭で羽化した蝶の“眠り姫”のお話を目にする機会がありました。その“眠り姫”が繭のなかからあたらしく生まれ変わる数日まえ、黒い蝶がお庭にやってきて、蛹のその子を眠りから覚ますために魔法をかけた。

 冬を越して春が来てもまだ蛹のなかにいる、お庭でまどろむお姫さまを起こすために舞いおりたその蝶にいざなわれるみたいに、“彼女”は目覚めて飛んでいった。

 あるお庭で起きたそんな

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SALON des MUSICA——silent music

SALON des MUSICA——silent music



 東中野のsilent musicさまで開催中の“SALON des MUSICA”におうかがいしてまいりました。

 縫いぐるみ作家のLIENさん、服飾作家のmIRA.さん、人形服とお洋服作家のネムリコネムコさんの作品たちとともに、フランス菓子やシルバージュエリーがならべられた“幻洋品店”。

 本来の予定であれば去年の4月にひらかれるはずだったこの“まぼろし”の洋品店が、あれから1年が巡る

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“『恋に狂う』という言葉があります。しかし『恋』そのものが既に狂った状態を言うのであるから、『恋をした』とはすでに狂っていることを意味しているのだ、ということをハイネが言っている。私はこの『人魚姫』の物語を読むたびにこの言葉を思い出します。”

中原淳一『七人のお姫さま』

"I must be a mermaid. I have no fear of depths and a great fear of shallow living."

Anaïs Nin
picture by Edmund Dulac

ふたりのルクレティア展——桑原聖美/あらかわ画廊 2016.10.26

ふたりのルクレティア展——桑原聖美/あらかわ画廊 2016.10.26



 桑原聖美さんの個展のため、あらかわ画廊さんへ。

 きよらかにうつくしい、というその名のとおりの画を描かれるかたの絵のまえで、わたしは黄金の夢と琥珀の光にまぶされた「聖なる美」に魅入られた「客人」となっていた。

 ルクレティア。

 その名前が秘密を囁くように目のなかを泳ぎ、耳朶に響く。

 それはおのれの貞節のために心臓をナイフで貫き死を選んだ百合のように可憐な女の名か。それとも、堕落

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安蘭個展 「Sanctum」/ヴァニラ画廊 2018.2.28

安蘭個展 「Sanctum」/ヴァニラ画廊 2018.2.28



 羽ばたく蝶を見つめているひとの頭にはおおきなリボンがありました。

 月が見おろす場所からなにかを祈るひとの瞳にはお星さまが浮かんでいました。

 わたしは蝶とリボンが、少女という生き物を語るうえで欠けてはならないふたつであると感じていて、少女が長い髪に結わえたリボン、あれはほんとうは蝶々なのではないかしらと、そんなふうに考えることがあります。少女、という生き物は自分がまだ何者であるかも知

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闇と光のユール――tegamiya/草舟あんとす号 2019.12.12

闇と光のユール――tegamiya/草舟あんとす号 2019.12.12



 ユール――冬至のこと。

 陰から陽へ、闇から光へ、死から生へと再生の日。黒から白への転換を象徴するために、その日は一年で一番夜が長い。まるでこの「闇」を最後まで味わいつくしなさい、とでもいうように。

 それは嬰児みたいな太陽が女神からふたたび生まれる日。あたらしい生命はまだ弱々しく、けれどもたしかな力を孕んで復活する。それが再生の光。

 いま、小平にある草舟あんとす号さんで、「闇と光

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それでもさえずる小鳥たちの青い森

それでもさえずる小鳥たちの青い森

 新小平の“Holy garden”と呼ばれるその場所は、さまざまな植物が夢をみるように深く植えられたお庭を臨んだ、とんがり屋根の建物のしたでお花やさんとお菓子やさんとご本やさんのみっつのお店がそれぞれに営まれている、ひとつの祈りにも似た“聖なる庭”です。

 その“Holy garden”のお花やさんであるコトリ花店さんで「それでも小鳥たちは森でさえずる」という美しい名が捧げられた展示に先週の土

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メイポールの下で/葉っぱ小屋

メイポールの下で/葉っぱ小屋

 5月。鎌倉の葉っぱ小屋さんで『メイポールの下で』という展示がありました。

 “メイポール”は、五月祭を祝うおまつりで一本の樹の幹を柱に、その天辺にリボンを結び、リボンを手にして“柱”を中心に円環を描く踊りのこと、祝祭のこと。

 tegamiyaさん、篠田夕加里さん、あんとす堂さん、そして“メイポール”の舞台ともなった葉っぱ小屋さんが、この5月のためにおつくりになられた作品をそれぞれの“リボン

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