Luna Somnium

わたしのための図書室。ルナ・ソムニウム。 Mistress of the House…

Luna Somnium

わたしのための図書室。ルナ・ソムニウム。 Mistress of the House of Books

マガジン

最近の記事

セクメト女神のこと

 「強く万能な者」という意味の名をもつ、エジプトのセクメト女神のこと。  獅子の頭をもち、頭上には灼熱の太陽を示唆する赤い円盤をのせている姿でよく描かれ、つねに畏怖とともにその“強さ”を語られてきたセクメト女神。  火のような息を吐き、血が流れる戦を見守り、そしてこの女神のもっともよく知られている役割に疫病神としての顔があって、彼女の怒りが火となり血となりそれが破壊となってあらわれたように、その口から病の風を吹くがために古代エジプトでおそれられたセクメト。  そしてもち

    • 白い馬、薄絹をまとった美しいかた

       家からそう遠くない場所に、悠久の昔、薄絹をまとって馬を駆り、杜のなかに消えていった美しい女のひとを祀ったという創建伝承をもつ神社があります。  最近またおおきくなにかの切り替わりがあること、あったことを感じ、自分の住むところ、自身と縁のある神社仏閣を先日巡ってきて、玉依姫命、弟橘媛のお社をはじめさまざまにご挨拶をしてきたのですが、薄絹と馬のうつくしい伝承をもつこの神社もそのなかのひとつとして、星から星に渡るように巡礼してきたのでした。  銀色の雨のふる日で、天からふる紗

      • 聖女になるしか、みちはない――多和田葉子『聖女伝説』

        2016.3 *  少女が「女」になることなく、儚くいのちを散らすこと。蕾のまま迎えた「死」を、満開の花よりもうつくしいもののように魅せること。その閉ざされた蕾につらなる少女たちの眷属を、「オフィーリアの系譜」と呼んだりするらしい。  少女がいずれは葬られる生き物だからこそ美しい、という理論は理解できる。それが現実の「死」を意味しているのではなくても、どんな少女もいつかは時間によって殺される。  だからわたしたちは、一瞬のなかに宿った彼女たちのあえかな羽ばたきに目を奪

        • 観音、水のようであること

           観音のenergyとつながっているとき。  彼女(観音は男でもあり女でもある、男でもなく女でもない中性のなかにある存在ですが、わたしに働きかけてくるとき女神の姿をしているために、観音をあらわす言葉にわたしは“彼女”を使います)がもっとも強く「つたえたい」と思っていることは、relaxのことであるようです。  「すべてのことを、ゆっくりと行いなさい」と彼女はいいます。  食べることも、湯船につかることも、書物を読むことも、歩くことだって、ゆっくりと。慌ててやろう、急いで

        セクメト女神のこと

        マガジン

        • 日々の泡
          29本
        • Goddess
          5本
        • 翼の時間
          8本
        • 幻想絵画館
          11本
        • My dictionary
          1本
        • ラピスラズリ
          3本

        記事

          日香里個展「BLUCANILLO」 at silent music

           BLUCANILLOはブルカニロ。  宮沢賢治が四度に渡っておおきく書き換え、未完成のままその死後に草稿として遺された『銀河鉄道の夜』のなかで第三次稿までは登場しながら最終形からは姿を消してしまった「ブルカニロ博士」に捧げられた展示には、そのひとに宛てた手紙のはじまりのように、そのひとの名が冠されていました。  往復書簡みたいに京都のアスタルテ書房さんで前期が、東京のsilent musicさんで後期が開催されたこの「BLUCANILLO」への案内状がポストに舞いおりて

          日香里個展「BLUCANILLO」 at silent music

          アナイス・ニン、夢のなかの女が紡ぐ言葉は海王星の香りがする

           アナイス・ニンという作家にわたしがずっと感じてきた幻影。彼女の言葉を辿るとき彼女の中心から放たれる海王星の気配が香水のように立ちあがり、それを読む者のなかに一滴の残り香をおとしていく。  その一滴がふとしたときになにげなく浮かびあがってくると、かつての香りが一瞬で希薄になっていた過去を再生するように、アナイスの言葉に耽溺した少女のころを想いだし、そしてわたしのなかに彼女が残した濃霧につつまれた香りを感じる。  霧に覆われた海王星。  アナイス・ニンはあの星の住人で、彼

          アナイス・ニン、夢のなかの女が紡ぐ言葉は海王星の香りがする

          石長比売と木花之佐久夜毘売の、ふたつに分かたれて失った“永遠”のこと

           春のはじめのころ、長年愛用してきたフェアリータロットカードをひいていたとき、ふと女教皇と女帝が偶然ならんだ配置に目を落とした瞬間、心に「イワナガヒメとコノハナノサクヤヒメだ」という言葉が浮かんできたことを、近ごろ想いだすことがあります。  石長比売と木花之佐久夜毘売。  姉妹であるこの女神たちは父神の意向で姉妹そろってひとりの男へと嫁したけれども、男は妹の木花之佐久夜毘売だけを妻とし、姉の石長比売は父のもとへと返した。  妹は美しく、姉は醜かったから。  その仕打ち

          石長比売と木花之佐久夜毘売の、ふたつに分かたれて失った“永遠”のこと

          “自由”を知るそのまえに、まず制限に気づいてゆく段階があって、自分の観念や環境や思考のなかにある枠組みを見つけ、その発見と同時にそれが自分自身によってさだめられていた柵であったことに気づき、それを越えようとすること、そのものが飛翔。

          “自由”を知るそのまえに、まず制限に気づいてゆく段階があって、自分の観念や環境や思考のなかにある枠組みを見つけ、その発見と同時にそれが自分自身によってさだめられていた柵であったことに気づき、それを越えようとすること、そのものが飛翔。

          人魚姫の花

           いつも愛に愛で還してくれる丁寧で誠実なかたの指によって描かれ、そのかたの手から贈りものとしていただいた人魚の絵。  祈りを捧げるように薔薇の花を両手でもち、泡の微睡みのなかにいるこの人魚の姫を目にしたとき、夢心地へと誘われて、とてもインスピレーションを刺激された。そして心から感激してしまった。  その余韻はまだつづいている。  時は限りあるもの。誰かの時間は誰かの愛とおなじもので、その有限のなかで紡いでくださったものをわたしにと、そういうやさしさに胸がいっぱいになって

          人魚姫の花

          自分自身の紋章としての栞

           harumieさんが制作される栞にひと目惚れしたのは、2018年の冬のこと。  もともとharumieさんのおつくりになるアンティークのビジューによって紡がれる装飾品が大好きだったのですが、アクセサリーとブックマークがそれぞれの役目をおぎないあうことでさらにその美しさに輝きを宿し、その持ち主になったひとだけの物語を奏でてくれそうな栞を目にしたとき、夢のなかで思い描いていたもののひとつを現実に発見したような気持ちになったこと、よく覚えています。  “アンティーク”を愛する

          自分自身の紋章としての栞

          リルケに寄す――silent music

           五月の薔薇にリルケへの祈りが託されたマリアさまのお庭、東中野のsilent musicへ。  展示にあわせて編まれた石倉和香子さんのリルケ詩集から密やかにひらかれた朗読会。  いつまでも深い余韻を底に響かせている鐘みたいに厳かに紡がれた和香子さんの声による朗読、その鐘の音が天に吸いこまれて昇り、不意にひらけた場所で翼をもって、その光の階段を羽ばたいてくるように奏でられた久保田恵子さんのピアノの音に、浅野信二さん、伊豫田晃一さん、豊永侑希さん、日香里さんの絵にかこまれて心

          リルケに寄す――silent music

          【破壊】My dictionary

           【破壊】――  あらたに芽吹く季節のまえに生じることのある嵐。  自身のなかでそうであることが当然となっている物事、固定されている習慣、過去からの積み重ねによって、意識することなく肉体的、思考的に「そうしなければいけない」ように決まりきっていると、すでに自分が疑いなく思っているものから自分自身を救いだしてくれるプロセス。  これまでの習性がこれまでの人生を築いてきたのなら、人生に疑問があるとき、そのひとの習性のなかにすでに「古くなっている」ものが存在している。  け

          【破壊】My dictionary

          花に還る――おやゆび姫からのことづて

           四月、ある乙女から薄紅の紗がかかった花びらの薔薇をいただく機会がありました。“てまり”という名のその薔薇をティーカップに浮かべ、本来の純白さと透明さに還ってゆくみたいに日ごと白くなってゆく花を眺めながら、わたしはアンデルセンの『おやゆび姫』のことを思い出していました。  おやゆび姫がこの薔薇のなかで花びらを寝台として暮らしていても不思議ではなさそうなほどに、ロマンティックな風情のある薔薇だったから。もっともおやゆび姫が生まれたのはチューリップの花からだったけれども。で

          花に還る――おやゆび姫からのことづて

          蝶の目覚め

           春の終わりとともにあるお庭で羽化した蝶の“眠り姫”のお話を目にする機会がありました。その“眠り姫”が繭のなかからあたらしく生まれ変わる数日まえ、黒い蝶がお庭にやってきて、蛹のその子を眠りから覚ますために魔法をかけた。  冬を越して春が来てもまだ蛹のなかにいる、お庭でまどろむお姫さまを起こすために舞いおりたその蝶にいざなわれるみたいに、“彼女”は目覚めて飛んでいった。  あるお庭で起きたそんな出来事を知り、なんだかとっても嬉しくやさしい気持ちになって、その夜は本棚から“眠

          蝶の目覚め

          SALON des MUSICA——silent music

           東中野のsilent musicさまで開催中の“SALON des MUSICA”におうかがいしてまいりました。  縫いぐるみ作家のLIENさん、服飾作家のmIRA.さん、人形服とお洋服作家のネムリコネムコさんの作品たちとともに、フランス菓子やシルバージュエリーがならべられた“幻洋品店”。  本来の予定であれば去年の4月にひらかれるはずだったこの“まぼろし”の洋品店が、あれから1年が巡るこの春、そこにつづく道と扉をあらわしてくれたのでした。  ひらかれたドアの内側

          SALON des MUSICA——silent music

          葡萄酒色の花冠の、菫と柘榴

           春分の翌日に“オディールの花冠”をつくってもらうことを、植物たちに魔法の呪文を唱えて愛の円環をつくられる、わたしが“蝶の庭のあるじ”と呼ぶかたにかねてからお願いしていました。  なぜ“オディール”なのかといえば、そのまえに2月の誕生日の贈り物として“オデットの花冠”をつくっていただく機会があり、白鳥の純白の翼を思わせるその祝福の花冠がかたちになるまえ、まだ想像のなかだけに存在する夢であったころから、その花冠に対応する“黒”があってほしいとわたしが感じたためです。オデットと

          葡萄酒色の花冠の、菫と柘榴