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【破壊】My dictionary


 【破壊】――


 あらたに芽吹く季節のまえに生じることのある嵐。

 自身のなかでそうであることが当然となっている物事、固定されている習慣、過去からの積み重ねによって、意識することなく肉体的、思考的に「そうしなければいけない」ように決まりきっていると、すでに自分が疑いなく思っているものから自分自身を救いだしてくれるプロセス。

 これまでの習性がこれまでの人生を築いてきたのなら、人生に疑問があるとき、そのひとの習性のなかにすでに「古くなっている」ものが存在している。

 けれどもそれは「あたりまえ」のなかに潜んでいるため自分だけの主観的な視点からでは気づくことがむつかしい場合があり、自身の無意識のなかに「古くなったもの」が蓄積され澱み、それが個人のなかに留めておけないほどにあふれたとき、わたしたちの生活、人生といったものを揺さぶり、わたしたちの核の部分からすべてを揺り動かし、抑えていたものを自分自身に認めてもらうために起こる精神の動き、あるいはその精神の動きが外界にあらわれる現象。

 嵐、噴火、洪水、地響き、どれも根源にあるのはおなじもの。

 わたしたちが自分自身の本心に照らしあわせて「ほんとうの気持ち」「ほんとうの望み」とは異なるほうに進んでいるとき、あらわされる警告。

 その合図は当人が“気づく”まで幾度も現象や姿を変えてあらわれることもある。それはあたらしい種、可能性を生みだすためのあらたな道を指し示してくれる合図でもある。

 すでに古くなっている基盤を築きなおすためのもの。

 わたしたちの人生の側面で古くなっている思考、古くなっている生き方から生じる停滞、沈殿への罅割れ、倒壊。そうした破壊によって、その底に抑えられていた神聖な情熱が解き放たれるとき、その根幹への揺さぶりによる痛みは、同時に癒しとして作用している。

 それはわたしたちのなかにもう必要のないものがある場合、それに“気づき”、自分の「ほんとうの気持ち」「ほんとうの望み」を知るために起きる。

 わたしたちの“過去”によって築かれた怖れや幻想から自由のなかへと解き放ってくれるものでもあり、だから固着して馴染んでいるがゆえに手を離しにくいものから手を離すための半ば強制的な機会として訪れることもある。

 停滞から前進するために、そのひとを救い出してくれるもの。目的、選択の見直し。

 もしわたしたちが自分自身の本心を知り、その本心が囁き訴える声に添い、従える状態であれるなら、おおきな破壊を人生のなかで体験する必要はなく、わたしたちがあまりにもひとつの状態に固執し、違和感を無視しつづけている状態、本心を直視することが自分にとって都合が悪いと自身が信じている状態であるとき、破壊、あるいは深い混沌といったことが起こる以外に古い習慣から自由になることができないときにのみ、それは起きる。

 それによって自分の内側に生命力を回復したり、ちいさくてやさしい変化を起こしつづける柔らかさを取り戻したりする。あらたな土壌にあらたな種を植える。自分の本心の鍵穴とおなじかたちをした種を、もしくはそれとより近いかたちをした種を。



 わたしの辞書から――【破壊】




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