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世界遺産サンティアゴ巡礼路854kmを歩く -最後の一日/32日目-


●これまでの道のり
1日目 初日31km / 2日目 猛烈な筋肉痛 / 3日目 大自然の中で一人大泣き / 4日目 足の痛みと色眼鏡の妄想 / 5日目 痛恨のエクストラステージ / 6日目 後半、雨の中での迷い / 7日目 旅仲間との出会い / 8日目 誰かの玉ねぎを使うこズルい自分 / 9日目 心身追い込まれる中での不思議な感覚 / 10日目 タフな作家さんと歩きッコ / 11日目 仲間とゆっくり歩く日 / 12日目 作家さんの○歳の誕生日 / 13日目 アクシデント!出発点に戻る! / 14日目 初めてのヒッチハイク / 15日目 作家さんと歩きくらべ / 16日目 毎日歩くという日常 / 17日目 作家さんのいない日 / 18日目 電池切れで体調崩す / 19日目 体調不良で歩く中での自問 / 20日目 身にしみる人の優しさ / 21日目 歩かずに体を休める / 22日目 再開、今の一歩その瞬間に感じるモノが全て / 23日目 甘え心と体調不良の中の最長距離  / 24日目 追い込まれた後半の大事な時間 / 25日目 山越え / 26日目 きっかけは空海のお遍路 / 27日目 妄想で重くなる体 / 28日目 嫌っていた父へ感謝の芽生え / 29日目 巡礼者と交錯する一日 / 30日目 最期の時への想い / 31日目 気持ちの整理をしながら

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2014/3/23 Salceda 〜 サンティアゴまで残り 28.1km

朝6時に目覚ましで起きる。

8時に朝食を予約していたので、それまでに昨日までの日記を書き終えようと思っていた。

整理して最終日を歩きたかった。

ベッドで毛布をかぶりながら日記を書いていると外から雨の降る音がしてきた。

雨音は次第に強くなり土砂降りの様子。

最終日にこの雨か、まぁそれもありか。

朝食後に日記も書き終わり、9時に出発。

その頃には雨は上がり、まずますの天気になっていた。

 

最後か。

歩きながらこの道のりを少し振り返ってみる。

するとまた泣きそうになった。

まだ終わってねぇ、泣くなら終わってから泣け。

そう自分に言い聞かせてこらえた。

今はこの道を歩くことを味わおう。


昼前にカフェで休憩。

お客さんはほとんどおらず、一人くつろいでいるこの空間がなんとなく心地よい。

 

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残り20km。

姿勢を何度も正しながら歩く。

ちょっとずつどこに意識を持っていくと自然に姿勢が保てるかつかめてきた。

途中、三人の女性の巡礼者に追いつく。

韓国人だ。

一人は一度会ったことがある。

彼女は自分が体調を崩している間にアルベルゲで会っていた。

バスかタクシーを使ってきたのか、と聞かれた。

歩きだけだよ、と答えると驚いていた。

隣にいたもう一人の韓国人も、え、タクシー使ってないのと。

タクシーやバスを使うのは当たり前のような言い方だった。

彼女らはゆっくりペース。

挨拶して先に歩く。

 

この路では最終地の手前100kmを歩くと、巡礼したという証明書がもらえる。

100km地点から歩き始めても良いし、その前から始めても100kmより前なら乗り物で移動しても良い。

彼女達と少し話して、やっぱ証明書はいらないと思った。

手前の100kmを歩けばもらえる証明書。

800km以上歩いてきた自分にはなんの魅力も感じない。

少し興奮している。

自力で歩いてきた自分と、途中乗り物に乗って移動してきた人や残り100kmだけ歩く人、それを証明書で一緒にまとめられるような気がして不愉快だったのだ。

本当は人それぞれ好きなやり方で歩けばいい、比べるものじゃない、と頭では理解していたが、この時は飲み込めない想いがあった。

 

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残り5km。

カフェで休憩。

気を緩めて座って体を休めていると、体の内側から力が上がってくるのを感じ、姿勢が自然とよくなった。

重い荷物を下ろしたのでその分だけ余力ができ、自然と伸びたようだったのだが、自分の中の力を感じた。

やっぱ証明書はいらないや。

ここを歩いたという客観的事実も必要ない。

ただ自分の身体、精神はここでの経験を知っている。

そして生きる力が湧いてきた。

それで十分だ。

今生きる力があれば何もいらない。

そう思った。

 

カフェを出てからしばらく歩いて思った。

でも今、たった一つ願いが叶うなら・・・

みんなとお酒が飲みたい・・・みんなに会いたいや。

そう思いながらまた泣いてしまった。

あーあ、歩き終わる前にこらえられず泣いてしまった。

でも泣いているのと笑っているのとこの時は一緒だった。

一ヶ月ずっとひたすら歩き、自分と向き合ってきた。

心を許せる人とほっとしたかったのだ。

 

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最後の5kmはあっという間。

最終目的地サンティアゴ・デ・コンポステーラについに到着。

だけど案外そんなに実感がわかない。

今まで散々泣いたから。

もう感傷的になることもないのだ。

 

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教会の中に入って少しの間座っていた。

しばらくして歌や説教が始まった。

なんとなく場違いな気がして席を立つ。

 

出口を捜していたら別の部屋があった。

お祈りをする部屋のようだ。

中に入って腰掛ける。

静寂の中、自分も少し目を閉じて心を落ち着かせた。

 

一ヶ月終わった。

よく泣いたな。

さっきも、みんなに会いたいと思って泣いたし。

・・・ 

そうか、そうだ、 自分を応援してくれる人、待っていてくれる人、会いたいと言ってくれる人、その人たちがいるから自分はこうして歩いてこれたんだ。

もしそれも無く孤独だったら、こんな苦しいこと間違いなく途中で止めてる。

自分の力で歩き終えたと思ったけど、その周りにはたくさんの人がいて、前に進む原動力を与えてくれていた。

仲間が待ってると思えるから歩ききって成長して帰ろうと思えたんだ。

そう気づいた。

家族や親戚、そして友人と沢山の人たちに支えられているという事実。

この路で最も大事な気づくべきことはそれだったのかもしれない。

最後になったけど気づけて良かった。

静かな部屋、うつむいて泣き声を抑えながら大粒の涙をぽたぽたと垂らした。

 

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散々アルベルゲを探し回って、いくつかある中から一つのアルベルゲにチェックイン。

受け付けで手続きを進めながら、Wi-Fiのパスワードを聞いて接続すると、途中一緒に歩いた韓国人のホージンからメッセージが入っているのにすぐ気づいた。

先に到着していた彼、滞在しているという宿名を確認すると、なんと偶然にも自分が今まさにチェックインしている宿だった。

驚いて受付のお姉さんに友達がここに泊まっていると言うと、

赤いジャケットの人ね?彼はあなたのベッドのすぐ近くよ

と教えてくれた。

エレベーターで上がり、ドミトリーの部屋に行って、自分のベッドを探す。

どこだ・・・あった、ここだ。

そしてその斜め向かいに寝ているのは・・・ホージンだ。

彼と顔を合わす。

彼は相当驚いた様子で、Ohh, Nobu!! と叫んだ。

再会できた。

一日療養後に自分が歩くペースを落とさなかった理由の一つは、もう一度ホージンと作家さんに会いたかったからだ。

 

夕食をホージンと共にする。

ビールで乾杯。

うまいっ。

今日はゆっくり眠れる。

作家さんとはまたいつか会えるかな。
 

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32日間、854km。

一日一日はよく歩いたと思うが、854km歩いたとはピンとこない。

それでいいと思う。

設定した目標にたどり着いたということは大切だが、自分にはこの距離に大した意味はない。

一日一日、ひたむきに歩いたことが自分には大切な経験だった。

たぶん人生もそうなんだ。

その都度目標はあるけど、毎日をひたむきに生きること、それに尽きるのではないか。

楽しい日も辛い日もどの一日も大切にして。

今の自分はそう思う。

 

今日歩いた距離 28.1km

今日までの合計距離 854.4km

サンティアゴまで残り 0 km

My El Camino de Santiago is over.

Thank you for everything.