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元教員インタビュー#3 先生も子どもも“自分”を出して生きていい。ヨガの魅力を学校へ

「ヨガはなりたい自分になるためのツールなんです」

そう話すのは、全国の学校でヨガを教える青木朋美さん。ヨガの効果は、体が整うことだけではないと言います。

朋美さんは中高一貫校で体育科の教員を務めたのちに、ヨガインストラクターとして独立。現在は、小学生から高校生までの子どもや学校の先生を中心に、ヨガを教える活動をしています。

教育現場を離れた今も、なぜ学校との関わりを持ち続けているのか。朋美さんが考えるヨガの価値や教育への思いを伺いました。

プロフィール
青木朋美(あおき ともみ)さん
ヨガインストレクター。高知県出身、神奈川県海老名市在住。大学卒業後、母校にて体育教員として勤務。結婚出産を機に独立し、現在は学校でのヨガ講師のほか、教員向けヨガイベントの開催や学校で使えるヨガコラムの発信などをしている。自身がヨガと出会ったことで体の悩みが解消され、ヨガ哲学を学ぶことで教員としてのあり方も一変した。「自分が変わると人生が変わる」そんな感動を、ヨガを通して提供していきたい。

「“好き”ではダメなんだ」体育教員を志すも、大学で挫折を経験

ーー 教員になろうと思ったきっかけを教えてください。

教員になることを意識したのは、中学生のときでした。純粋に母校が大好きだったんです。子ども時代の思い出と言えば学校のことばかりで、自分を育ててくれた場所だと思っています。

「人は育ててもらった場所へ恩返しをしたくなる」と言われるように、私にとって恩返しをする場所は母校だと感じていました。

ーー スポーツは元々得意だったのでしょうか。

実は、体育は得意ではなかったんです。幼い頃からやっていたスポーツはありませんし、1番長く続けた体操競技も、始めたのは中学校の部活動がきっかけです。球技は特に苦手でした。体育の成績は、5段階評価でいつもギリギリ4。「態度がいいから」という理由で3ではなく、4になったような感じです(笑)でも、体を動かすことは大好きでした。

体育って、得意不得意が目に見える教科ですよね。上手くできないとその姿が友達にも見られる分、不安になったり自信を失ったりしやすい。体を動かす楽しさを感じる前に、「恥ずかしい」とか「迷惑をかけないように」と思う気持ちが先行してしまう子が多いと思っています。私も小学生まではそうでした。

だから、「『できるから楽しい!』じゃなくて、『できなくても楽しい!』と思ってもらえる体育の授業がしたい」と思っていたんです。それは、「運動が得意だから」という理由で体育教師を目指したわけではない自分だからこそできる授業だとも思っていました。

ーー それで、大学はスポーツ系の学部に進学されたのですね。

はい。でもいざ進学すると、みんなめちゃくちゃスポーツができるわけです。もう一気に自信を失ってしまいました。「“好き”じゃダメなんだ。“得意”じゃないとダメなんだ。自分に体育の先生は向いていない」そんな風に、自分に暗示をかけるようになりました。

さらに、自信のなさに追い打ちをかけるような出来事もありました。大学1年生のときは体操競技を続けていたのですが、周囲のレベルが高く、ここでも勝手に自己暗示を加速させてしまったんです。仲間には恵まれました。でも、私自身が周りの目を気にしすぎてしまい、純粋な気持ちで体操競技を楽しむことができなくなっていきました。結局、1年で辞めることに。

自分が目指していた体育教師という夢はなくなり、高校時代まで没頭していた体操競技もなくなってしまった。それまでの私は、「夢を持ち、没頭しているものがある自分」だったんです。大学に進学した後に待っていたのは、過去の自分とは違う「ダメな自分」でした。

ーー 自信をなくしてしまっても、結果として教員になったのはなぜだったのでしょうか?

大学4年生のときに教育実習に行って、「あ、自分はやっぱり教育が好きだ」と思ったんです。でも、4年間は何も行動してこなかった。だから、教員になる前に自分ができるところまで教育を学ぼうと思って、大学院に進学することにしました。

大学院時代の2年間で、「母校のため“だけ”に働きたい」という気持ちは徐々に変化していきました。それまでの私は、母校に恩返しがしたいから教員になりたいと思っていましたが、教育を学ぶうちに、母校であるかどうかに関係なく子どもの可能性を引き出すことに興味があることに気づいたんです。

振り返ってみると、挫折を感じた大学時代があったからこそ、今の自分があると思っています。

ヨガとの出会いは大学時代に。自分と向き合う贅沢な時間で、心と体を整える

ーー ヨガとの出会いはいつ頃でしたか?

大学時代にアルバイトをしていたスポーツクラブで、ヨガのインストラクターを任されたことがきっかけです。初めてヨガをやって、長年悩み続けていた腰痛が治ったんです。それから生活の質が変わり、ヨガは一生必要なものだと体感しました。

最初は自分の体を整えるためにやるのがヨガだと思っていましたが、続けていくうちに違った魅力も感じるようになりました。ヨガを始めるときは、目を閉じて自分の呼吸に意識を向ける。自分自身と向き合う時間でもあるんです。

ーー どのような経緯で、ヨガインストラクターになったのでしょうか。

大学院を卒業した後は、高知にある母校の中高一貫校で教員になりました。その後、結婚を機に神奈川へ引っ越し、非常勤講師として週3日学校で働いていました。勤務形態を非常勤に変えたのは、学校以外の世界にも身を置きたいと思ったからです。

この間、ヨガインストラクターの資格(RYT200)を取るためのスクールに通いました。それまでは自分の体の変化からヨガの良さを感じるだけでしたが、呼吸や哲学、身体と意識のつながりを学ぶことで、さらにヨガの奥深さを感じることができました。

得意かどうかは関係ない。体を動かすことを楽しんで

ーー なぜ、学校でヨガを教えるようになったのでしょうか。

妊娠と出産をきっかけに非常勤講師の仕事を辞め、その後はママ向けにヨガを広めていこうと思っていました。でもいざやってみると、私にとって1番強い思いがあるのはやはり教育の世界だと気づきました。「何かを伝えたい」と思う相手は、いつも子ども達だったんです。

教員時代に、腰痛や肩こりに悩む生徒やちょっとした運動で骨折してしまうような生徒、なかなか集中力が続かない生徒に出会ってきました。ヨガは体を整えたり、自分と向き合い受容することを大切にしていて、学べば学ぶほど、今の学校に必要なのではないかと思ったんです。

また、根底にあるのは「体を動かすことを嫌いになってほしくない」という思いです。授業になるとどうしても評価が切り離せません。自分の気持ちではなく数字が苦手意識を生み、嫌いに繋がるケースも少なくありません。そうすると、大人になってからも、体を動かすことへの抵抗を感じやすくなってしまいます。

その点、ヨガは運動が得意かどうかは関係なく、優劣もありません。ヨガへの親近感があれば、学校を卒業した後でも必要なタイミングが来たらやってみようと思えますよね。健康的に生きていくために、選択肢の1つとしてヨガに触れてほしいと思っています。

ーー 学校では、どのようにヨガを教えているのでしょうか。

今は依頼のあった学校に出向いたりオンラインで繋がって、外部講師として授業(体育や道徳)やクラブ活動、学級活動でヨガを紹介しています。授業の前には必ず担任の先生とお話をして、子どもたちの様子や先生が大切にしている思いなどを聞くようにしています。

その上で、「私がその先生だったらどんなことを伝えたいだろう?」と考えながら授業をつくっていきます。なので、授業によってテーマや内容は変わります。

ーー 特に印象的だった授業はありますか?

小学校でヨガをやらせてもらったときのことです。「自分と相手のちょうどいいを探そう」というテーマで、2人1組になってポーズをとり、お互いが気持ち良いと感じる位置を探してもらいました。

自分が気持ち良いと感じても相手は気持ちよくなかったり、逆に相手に気を使いすぎると自分が気持ちよくなかったりしてしまいます。相手に聞かないといけないし、自分も伝えないといけないので、お互いにコミュニケーションを取らないといけないわけです。

授業が終わった後、ある子がキラキラとした表情で「先生、2人とも気持ちよかったよ!」と言ってくれたんです。それがもう本当に嬉しくて。

その子は、前半のウォーミングアップで個々人でポーズをとっていたときは、頻繁に「痛てて…」と言っていました。それでも、ペアになったあとはお互いが気持ちいいと感じるポーズを探っていけたから、その一言が言えたわけですよね。

授業を終えた後は、「なんか体が軽くなった〜」と呟いていました。自然にそう感じられるくらい本気になって授業を受けてくれたことや、ヨガを吸収する素直さを持ってくれていることに感動してしまいました。

先生も、“自分”を出して生きていい

ーー 現在は先生向けにもヨガをされているのですね。どのような特徴があるのでしょうか。

先生に向けたヨガでは、「自分のための時間にしてほしい」と思ってやっています。私自身、教員時代は自分がやりたいことよりも、やらないといけないと思っていることに縛られていたような気がします。

先生は目の前にいる子どもたちのことを第一に考えるあまり、自分のことを後回しにしてしまいがちなんですよね。だから、ヨガをやっている時間は自分ファーストになって、自分の感覚に意識を向けてほしいと思っています。

また、評価を付ける業務を担う立場柄、先生自身も自分にいろんな評価を下しやすい。評価という概念から一度離れる時間を持つことで自然に視野が広がったり、肩の荷が降りることもあります。そんなきっかけになれたらと思っています。

ーー 特に印象的だったレッスンはありますか?

先日行ったヨガでは、レッスンの中で「自分で選ぶ」要素を取り入れました。その中でポーズを選ぶ場面が何度かあるのですが、最初は強度が高いポーズを選ぶ方が多い。でも繰り返していくうちに皆さん自分の心地よさや取り入れたい負荷に目を向けるようになり、選択するポーズがバラバラになっていきました。

大切なのは、「誰かの軸で選択しないこと」です。学校では、どうしても他の先生や学校の方針に合わせなければいけない場面もあると思います。それでも、「自分がどうしたいのか。自分は何を伝えたいのか」を大切にしてほしいし、時にはその気持ちに従ってみても良いと思っています。

先生が“自分”を出して生きているかどうかは、子どもたちにも伝わるんです。子ども達に「自分らしく生きていいよ」と100回言うことよりも、自分を出して生きる姿を見せる方が、その思いは伝わると思います。

「なりたい自分になる」ヨガで自分と向き合うきっかけを

ーー 朋美さんにとって、ヨガとは何でしょうか。

なりたい自分になるためのツールだと思っています。

ヨガには「みんなに役割がある」という考え方があります。例えば、野球だと4番やピッチャーは人気ですし、誰もが憧れますよね。でも、それらのポジションの人が活きるためには、その裏で自分の役割を発揮して輝いている人がいるからです。

どれが自分に合う選択なのかに目を向けられるのが、ヨガだと思っています。ヨガを通して、「あなたには居場所がある。あなたにはあなたにしかできない役割がある」と伝えることができると思っています。

教員時代、生徒から

「私はこう生きたいと思ってるけど、お母さんが…」
「私はこうしたいけど、先生が…」

という言葉を耳にしたことがありました。

私たちは自分の思いよりも、他人の声や誰がつくったかも分からない正解を重視しすぎていないでしょうか。自分の思いがあるなら、それを隠す必要はないんです。

なりたい自分になる。そこに近づけてくれるのがヨガだと思っています。

ーー 最後に、これからのビジョンを教えてください。

学校でヨガをやることは、あくまで選択肢の1つだと思っています。ヨガをやることで、先生や子どもたちが生きやすくなるとしたら嬉しいなと思いながら、学校でヨガを教えています。

将来的には、学校の先生が授業でヨガを教えられるようになるための本を出版したいと思っています。やっぱり子どもたちのことを1番よく知っているのは、日々子どもたちと関わっている先生なんです。

先生がヨガの本を読むことで、先生自身が自分を大切にしつつ、子どもたちと関わりを持つための引き出しを増やしてもらえたらいいなと思っています。

ーー 朋美さん、ありがとうございました!


朋美さんの活動は、こちらよりご覧いただけます。

編集後記も、よければご覧ください。

最後までお読みいただきありがとうございます(*´-`) また覗きに来てください。