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ショートストーリー

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短い物語をまとめています。
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#珈琲

迷宮入り。

迷宮入り。

嘘しかつけない日に良い事があった。
正直に過ごそうとした日は怒られた。

嘘をついてはいけませんと教えられたけど、正直なことが良いわけではないらしい。ついていい嘘というのもあるらしい。

嘘をついて、笑って見せた。
正直に泣いた。

朝から、元気に挨拶した。
やりたくないことを断った。
みんなの話題に話を合わせた。
知らないところで起きた悲惨なニュースを消して、ゲームの続きをした。
もう会う気のな

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〔ショートショート〕喫茶店にスプーンは必要かな

〔ショートショート〕喫茶店にスプーンは必要かな

 コーヒーゼリーの上からかけた白い生クリームソースが、スプーンの後を追って行く。「苦いのが美味しいね」なんて格好をつけたところで、本当はシロップ入りの生クリームがあるから好きなんだと、後悔した。僕は今日、初めて彼女を尾行した。

 仕事だと思っていたが平日が、急に暦通り以上の連休が取れることになった。付き合って半年の彼女と旅行にでもと思ったが、彼女の方は仕事らしい。だから、僕は以前から気になってい

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ぬるいと、お腹を壊す

ぬるいと、お腹を壊す

 トイレはぬるめの便座がいい。
 朝は炙ったパンでいい。
 しみじみ飲めば、しみじみとぉーおぉ。

 そんなふざけた替え歌を思い浮かべるボクの火曜の朝は、相変わらず冴えないはじまりだった。
 昨日から持ち越しのコーヒーをレンチンしている。不味いけど、勿体ないからそうする。とりあえず便秘とは無縁だ。丈夫に産んでくれて、ありがとうございます。
 コーヒーカップに口をつける。匂いだけは、一丁前。
 PC

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〔ショートショート〕休みの日に妖精はいらない

〔ショートショート〕休みの日に妖精はいらない

 今朝のアパートの窓からは、雪が舞っているのが見える。向かい合って並ぶアパートの駐車場で、風が空中に円を描いている。それは、雪が踊るようだった。これなら、妖精がくるりと不規則な動きをすると思うのは仕方ないなと思う。停車する車の上にべっとりと積もる雪が、休日のお出かけを億劫なものに変えたがっていた。

 むかし、ばあさんが言ってたっけ。「祭りの白粉は子供を獣に変えるためだよ」って。祭りでは獣となって

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雨からは傘が守ってくれるのに。

雨からは傘が守ってくれるのに。

買ったばかりの小説が、残りのページ数を減らしながらクライマックスに向かっていく。
コーヒーショップの端の方に座り、わたしは小説を読んでいた。
グラスの中のアイスコーヒーが減り、溶けた氷のだけが抵抗いている。

いつのまにか、わたしたちは定期的に数字を確認しないと生きていけなくなってしまった。それは、何故かわからない。
この国では聞いたこともない依存症の名前がピョコピョコ顔をだす。だけど、ここは少し

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