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ショートストーリー

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短い物語をまとめています。
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#恋人

迷宮入り。

迷宮入り。

嘘しかつけない日に良い事があった。
正直に過ごそうとした日は怒られた。

嘘をついてはいけませんと教えられたけど、正直なことが良いわけではないらしい。ついていい嘘というのもあるらしい。

嘘をついて、笑って見せた。
正直に泣いた。

朝から、元気に挨拶した。
やりたくないことを断った。
みんなの話題に話を合わせた。
知らないところで起きた悲惨なニュースを消して、ゲームの続きをした。
もう会う気のな

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〔ショートショート〕        未来よりも明るい時間

〔ショートショート〕        未来よりも明るい時間

 アイマスクをして眠るキミを見るのが好きなんだ。キミの寝顔を見ながら、一緒に行った旅行先で見つけた振り子時計を思い出す。

 その時計があったのは古い小さな旅館で、駐車場にボクらの車が入るとすぐに女将さんが迎えてくれた。隅々まで掃除が行き届いている庭と、木の葉を風が撫でる音が気持ちが良かったのを覚えている。
 そして玄関を入ってすぐのところに、それはあった。「調整中」と書かれた札が貼ってある大きな

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まだ、そこに君がいる気がして。

まだ、そこに君がいる気がして。

シッポを切り離したトカゲは、自分のシッポのことをいつまで覚えているのだろうか。命の危険から逃れるために仕方なく切り離すのだから、逃げる事に全力を注いでいて、それどこではないだろう。
でも、ボクなら後で気になって、一度見に戻りたくなると思う。すぐに戻るのは危険だとしても、ほとぼりが冷めた、そう、何年かたった後なら大丈夫だろうと見に行ってしまうと思う。
ボクにとってその人は、そんな思い出だった。

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馬が走るには理由が必要。

馬が走るには理由が必要。

悲しそうな男の顔を横目に、タバコに火をつける。
数日前に仕事を頼みに来た男は、「覚悟はできましたから」と言っていた。
その気持ちは分からなかったが、今日の気持ちは理解できる。

タバコを消してから、マスターに視線で帰りを伝えた。
席を立つ。
恋人が死んだのだ、そのくらいの顔をするかと背中越しに思った。

「頼まれた仕事は終わらせる」とだけ言って店の外に出ると、雨は上がっていた。澄んだ風が静かに、星

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