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#142 逆・タイムマシン経営論

「逆・タイムマシン経営論」読みました。
あるなぁ、と思ったのでメモ。


1、本の概要

何か新しいシステムなりテクノロジーなりツールなんかを導入すると全てが解決する、みたいなトーンで週刊誌や書店のランキングに顔を出します。

だけどしばらくすると、「あれ?どこいったの?」という感じのこと、昔からありますよね。

この本では、過去に起こったそんな「空騒ぎ」のあれやこれやを紹介しながら、今に活かそう、というものです。

3部に分かれていて、

第1部 飛び道具トラップ
第2部 激動期トラップ
第3部 遠近歪曲トラップ

となっていてそれぞれが複数の実例によって解説されています。

例えば、第1部なら、「サブスク」「ERP」「SIS」とったところです。

実例が中心なので大変軽く読めますし、面白かったです。


2、3つの「トラップ」

それぞれ魅惑的なネーミング(個人の感想です)が付けられているトラップについて、簡単に説明します。

「飛び道具トラップ」
ある特定の企業の文脈での局地的な成功がどこでも効果を発揮する「万能の必殺技」であるかのように曲解されて発動するもの。
「激動期トラップ」
いつの時代も世の人々は「未来はこうなる」という予測に簡単に流されてしまい、「今こそ激動期!」という言説を信じる傾向にあり、結果、「時代の変化に適応できないものは淘汰される」という類の危機感を煽られることで発動するもの。
「遠近歪曲トラップ」
遠近歪曲とは、「遠いものほど良く見え、近いものほど粗が目立つ」という人々の認識のバイアスです。地理的に遠い海外の事象ほど良く見える、歴史的な過去の事象、もしくはまだ実現していない未来ほど良く見える、それに引き換え、日本は、あるいは今は、欠点が目につく、という形で発動するもの。

いずれも「あるある」という感じではないでしょうか?


3、飛び道具トラップ 〜「SIS」の例〜

「SIS」の光と影、として紹介されている内容が、今の状況に似ているなぁと思いましたのでご紹介します。

「SIS」とは「戦略情報システム」のことで、1980年代の後半にブームになった経営戦略です。

当時普及し始めたコンピューター(まだOA機器とかFA機器とか言われていた時代です)とNTTが提供を開始した企業間ネットワーク「VAN」とを繋げることで、これまで分散していた情報を本部がリアルタイムに一元的に管理し、企業活動に活かせるのではないか、という発想が生まれたことによるものです。

いち早く取り入れた企業として、ヤマト運輸、花王、セブンイレブンの3社が紹介されています。

ヤマト運輸
一般消費者間の小口配送を全国規模で展開するには荷物を把握するシステムがどうしても必要で独自に開発して成長をはじめます。
花王
台頭しはじめたダイエーなどの大規模小売業との価格決定権の争いに危機を感じ、問屋を通さないことで価格決定権を確保するために販社制度の確立を目指します。販社制度のもう一つの狙いは、売れ筋情報や在庫を把握し販売情報をダイレクトに吸い上げることにありました。自前のシステムの構築により、発送業務も省力化され小売店の情報も把握することができ商品開発に生かすことで、その後の成長に繋げます。
セブンイレブン
従来は正確な計算と従業員の盗難防止という位置付けだったレジを販売情報をリアルタイムで把握する小売現場のネットワーク端末と再定義したのです。加えて店舗で売れ筋を把握、発注業務もできるシステムを構築します。現在当たり前に使われているバーコードの普及のきっかけは、セブンイレブンがこのPOSシステムを導入するのにメーカーにバーコードを条件にしたことによります。
(バーコードの件はこちらで昔投稿しました)
https://note.com/kuuie/n/nec2c4bce07f0

こうして、「SIS」という言葉が流行る前から、3社はのちに「SIS」と呼ばれるシステムを導入し成長に結びつけました。

その後、メディアなどで「SIS」が今でいう「バズワード」になり、そのバズワードに乗っかる形で、ベンダー(本書では「飛び道具サプライヤー」と呼ばれています)が売り込みに走ります。

その際には必ずこの3社の成功事例が紹介され、いつの間にか、「SISを導入すれば、あの3社のように成長できる!」ということになります。

当然ですが、そんなことで導入しただけでうまくはいきません。

そして、バブル崩壊による経費削減の対象になり、いつの間にか忘れられて行ったのです。


4、まとめ

いかがでしたでしょうか?

まさに今のIoTとかDXとかと類似性があるように感じました。

もちろん、IoTやDXで結果を出す企業はあります。

でも、それは、IoTやDXを導入したから、ではなく、企業戦略があり、その手段としてIoTやDXを選択したことによるものです。

本書でも、この点について以下のとおり述べられています。

3社に共通しているポイントは、明確な意図を持った戦略が情報システムに先行していたということです。この「戦略が先、ITは後」という順番が大切です。
要するに、戦略が先にあって、それを実行するために情報システムが「どうしても必要だった」のです。
飛び道具物件そのものにばかり関心が集中し、そもそも物件に埋め込まれていた戦略や経営の「文脈」への注意がないがしろになる。ここに罠の核心があります。

まさにその通りだと思います。

歴史は繰り返します。一方で歴史に学ぶこともできます。

一方向にみんなが流されているなぁ、と違和感を感じた時、しかもその違和感をうまく掴みきれない時、昔に似たようなことはなかったか、と考えることは有効だな、と勉強になりました。


最後までお読み頂きありがとうございました。

何か参考になることがあれば嬉しいです。

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