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クロミミ(黒見千 くろみゆき)
2023年3月9日 14:05
「ありがとう…」こぼすように呟くと、夕凪は暗がりの中じっとこちらを見つめていた。 「なんか変?」 戸惑って俺は半笑いになってしまう。すると、夕凪ははっとして「いや、本当に来てくれると思ってなくて」 と言った。どうやらお互いに相手がいるか不安に思っていたらしい。そう考えたら、どことなく嬉しくなってしまった。 「夕凪でもそんなこと考えるんだな」 「え?」 「だって周りなんか気にしない
2021年9月18日 18:42
付き合い始めたからといって、ほとんど変化はなかった。変わったことといえば、必ず待ち合わせて帰るようになったこと。それから時々手を繋ぐようになったこと。それだけだ。付き合っていると見せかけるために必要なことだった。 行為に意味などない。そう言い聞かせていても、心が揺れてしまう時が殊更辛かった。愛花との関係が偽りだと痛感してしまって。 時折愛花の何かもの言いたげな視線を感じたが、無視し続けた。曖
2021年9月8日 19:52
*** もう秋になり始めた頃のことだった。秋といってもまだまだ残暑は厳しい。言い訳のように頭上では鱗雲が透き通り、もう秋だと主張していた。 放課後を俺はまた愛花と過ごしていた。この頃は帰りが一緒になると、アイスを交互に奢るのが習慣になっていた。涼しい店内に人は少ない。昔からある有名な店だが、テイクアウトして外で食べるのが主流なせいかもしれない。奥の席を選べば、話を聞かれる心配もない。俺たちに
2021年8月20日 14:07
第七章 「追憶」 愛花と出会った時から、きっともう手遅れだった気がする。 今から思えばあれが、一目惚れというやつだったのかもしれない。もう昔すぎてよくは覚えてない。けれど、いくつかの場面が断片的に焼き付いている。特に、中一のあの瞬間のことだけはやけに鮮明で今でもくっきりと思い出すことができた。愛花を初めて目にした瞬間の印象。 あいつの笑ったうっすらと赤い口元とか。綺麗な、そのくせ人を
2021年8月9日 16:55
*** 座っているのにそれより深く、落ちて行くような感覚だった。わたしを支えるものが消えてしまった。 図書室はいつも静かだ。わたしの知る人は、誰も来ない。だからここにいる。いつだってそうだった。わたしの中では人恋しさと孤独への欲求が並び立っている。誰にも必要とされていないから。窓から見下ろすと、遥か下に空虚な校庭が広がっている。その空白さえもが胸をざわつかせた。顔を上げると、微かに海の端