クロミミ(黒見千 くろみゆき)

文章だと老けてるらしい28歳。正規図書館司書。 生きるために、ずっと小説を書き続けてい…

クロミミ(黒見千 くろみゆき)

文章だと老けてるらしい28歳。正規図書館司書。 生きるために、ずっと小説を書き続けています。 インスタ→ https://www.instagram.com/kuromimi31/ はてなブログ→ https://kuromimi.hatenablog.com/archive

マガジン

  • 短編集

    短編を集めています。ジャンルはいろいろ。

  • 小説・「アキラの呪い」

    「俺にはろくでなしの姉が一人いる。姉は俺の呪いであり、俺は姉の呪いになりたい」 姉の自殺未遂をきっかけに変化する義理の姉と弟の危うく奇妙な関係を描く。

  • 「アキラの呪い」まとめ

    連続小説・「アキラの呪い」のまとめ記事のマガジンです。あらすじや登場人物をまとめてますので、忘れた際にはどうぞ。

  • 連載小説・海のなか

    とある夏の日、少女は海の底にて美しい少年と出会う。愛と執着の境目を描く群像劇。

  • 連載小説 海のなか まとめ記事

    連載小説のまとめ記事です。あらすじや人物関係などをまとめます。内容を思い出したい時にご活用ください。

記事一覧

掌編小説 「赤い唇の女」

 ーーーこれは雨の呪いのようなものだ。  ガラス窓の中の女が微笑った。わたしは決して笑っていないのに。手を頬に触れるが、そこには僅か強張りすら感じなかった。  初…

自作小説「アキラの呪い」のキャラを描く

【アキラの呪いあらすじ】 「俺の姉はろくでもない女だ」 歩が義姉の自殺未遂現場に居合わせたことをきっかけに、絶対に死にたい姉と絶対に死なせたくない弟の攻防戦が始ま…

自作の小説キャラを描く。

「アキラの呪い」主人公の水無瀬晶↓ 「海のなか」主人公の小瀬夕凪↓ 絵を描くのあまり得意とは言えないけど、こうやって自分のキャラ描くのは妄想が捗って楽しいな…

短編小説・まっくらな男

 喉がゆっくりと締まるような気怠さに身体が支配されていた。今日に限ったことではない。いつだってそうだった。いくら眠ろうと、いくら食べようと、いくら休もうと、いつ…

小説・「アキラの呪い」(20)

***  退院が近づいてくると、姉は言った。 「3日後に部屋へ来るように」と。それはまるで独り言のようだった。告げる時、姉は窓の外を眺めたままで一度もこちらを振り…

小説「アキラの呪い」(19)

前話はこちら。 ***  赤黒く固まった血に塗れた敷物をゴム手袋越しに触ると、ずっしりとして重かった。そうしてその下から出てきたのは大量のペットシーツだった。犬…

小説・「アキラの呪い」(18)

前話はこちら。 ***  目覚めると、白い蛍光灯が縦に伸びているのが見えた。消毒液の匂いが鼻をつき、今自分が何処にいるのか分かった。格子状の白いパネルを嵌め込ん…

小説・アキラの呪い(17)

第四章 彼女が望む理由  珍しく向こうから連絡を寄越したのは、帰省が終わってすぐのことだった。その内容は簡潔で「部屋の片付けをするから今週は来るな」ということら…

小説「アキラの呪い」(16)

前話はこちら。 アキラの呪い 15.16は連続更新。 間話2 「深夜:side晶」  深く静まり返った夜のことだった。  誰かがうめいていた。男の掠れた声が壁向こうから聞こ…

小説「アキラの呪い」(15)

前話はこちら。 アキラの呪い 15.16は連続更新。 ***  晶は結局翌日には早々と片付けを終えてしまった。後には空の部屋だけが残された。まるでそこだけ持ち主を失…

小説・「アキラの呪い」(14)

↑ 前話はこちら。  両親はもうすぐ10時になろうかという頃に合わせて起きてきた。少し遅い朝だった。父が先に起きて、ついでに母を起こして連れてきたらしい。父も母も…

小説•「アキラの呪い」(13)

前話はこちら。 ***  朝飯は予定通り目玉焼きにウィンナーを添えた。両親の分も合わせて作ってしまう。二人とも今日まで休みで明日から仕事らしい。昨日そこそこ呑ん…

小説•アキラの呪い(12)

前話はこちら。 ***  姉が帰省した翌日。壁の向こうから聞こえる物音で目覚めた。壁を挟んだ隣部屋は姉の部屋だ。  「姉さんか…」  夢現だった意識は覚醒へ向かう…

小説・「アキラの呪い」(11)

前話はこちら。 *** 予告通り帰省した姉をみて、俺はほっとため息をついた。正確には、その手首を観察していた。最近彼女のリストカット跡はかなり薄くなってきてい…

小説・「アキラの呪い」(10)

前話はこちら。 第三章「家族」  ある晴れた月曜の朝だった。  秋晴れを見上げつつ洗濯物を干していると、母がこんなことを言い出した。  「あ、そうだ。晶だけどね、…

小説・「アキラの呪い」(9)

前話はこちら。 間話 「特異な関係」  歩と初めて話したのは、小学校へ入学したその日だった。あいつは水無瀬歩で俺は槙原拓人だったから、席順が前後だったんだ。知り…

掌編小説 「赤い唇の女」

掌編小説 「赤い唇の女」

 ーーーこれは雨の呪いのようなものだ。
 ガラス窓の中の女が微笑った。わたしは決して笑っていないのに。手を頬に触れるが、そこには僅か強張りすら感じなかった。
 初めに気がついたのは水たまりだった。幼い日のある雨の午後。暇を持て余して水面を覗き込むと、自分の影が写っていた。退屈極まりなかった。ーーーその影がひとりでに動き出すまでは。あの時影は言った。「退屈なの?」と。
 それからこの呪いは続いている

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自作小説「アキラの呪い」のキャラを描く

自作小説「アキラの呪い」のキャラを描く

【アキラの呪いあらすじ】
「俺の姉はろくでもない女だ」
歩が義姉の自殺未遂現場に居合わせたことをきっかけに、絶対に死にたい姉と絶対に死なせたくない弟の攻防戦が始まる。

第一話はこちら。↓

自作の小説キャラを描く。

自作の小説キャラを描く。

「アキラの呪い」主人公の水無瀬晶↓

「海のなか」主人公の小瀬夕凪↓



絵を描くのあまり得意とは言えないけど、こうやって自分のキャラ描くのは妄想が捗って楽しいな…!

他のキャラも描いてるのでまた投稿しますね。

短編小説・まっくらな男

短編小説・まっくらな男

 喉がゆっくりと締まるような気怠さに身体が支配されていた。今日に限ったことではない。いつだってそうだった。いくら眠ろうと、いくら食べようと、いくら休もうと、いつまでも居座る呪いのような倦怠感。果てのない繰り返しへの飽きが原因だと気がついたのはいつだったか。だが、それを思い出すのすらもはや億劫だった。
 「なあ、それ、いらないならくれよ」
 仕事帰り、コンビニを出てすぐのことだった。不意にそんな声が

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小説・「アキラの呪い」(20)

小説・「アキラの呪い」(20)

***

 退院が近づいてくると、姉は言った。
「3日後に部屋へ来るように」と。それはまるで独り言のようだった。告げる時、姉は窓の外を眺めたままで一度もこちらを振り向かなかった。頬のなだらかな曲線。俺はそのあわいが夜闇と見分けがつかなくなるくらい、何度も目でなぞった。彼女から呼び出されたことなど俺の記憶にある限り一度もないことだった。だからあの時、俺は少し動揺していたのかもしれない。結局その日、姉

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小説「アキラの呪い」(19)

小説「アキラの呪い」(19)

前話はこちら。

***

 赤黒く固まった血に塗れた敷物をゴム手袋越しに触ると、ずっしりとして重かった。そうしてその下から出てきたのは大量のペットシーツだった。犬猫が排泄をするときに下に敷くあれだ。夥しい数のペットシーツは血に染まりきっていた。
「…呆れた」
 これから死のうと言うときに、部屋の心配なんかしていたのか、あの女は。その上、これを俺に処理させるとは。俺の心情にまで思いが至らないのが、

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小説・「アキラの呪い」(18)

小説・「アキラの呪い」(18)

前話はこちら。

***

 目覚めると、白い蛍光灯が縦に伸びているのが見えた。消毒液の匂いが鼻をつき、今自分が何処にいるのか分かった。格子状の白いパネルを嵌め込んだ天井には見覚えがあった。以前入院した病院と同じだ。その光景から失敗を悟った。ーーー無駄なことをした。不要な痛みを経験し、不要な血を流した。それなのに必要な結果は2度目にも関わらず手に入れられなかった。その事実は私を酷く落胆させた。阻ま

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小説・アキラの呪い(17)

小説・アキラの呪い(17)

第四章 彼女が望む理由

 珍しく向こうから連絡を寄越したのは、帰省が終わってすぐのことだった。その内容は簡潔で「部屋の片付けをするから今週は来るな」ということらしい。今更部屋が片付いていないことを気にするような奴じゃないはずだが。ひとまず疑問に思いつつも承諾した。ーーーもしかして好きな奴でも出来たんだろうか?
なんて馬鹿馬鹿しい考えも一瞬頭を過るが、すぐさま打ち消された。あの姉と恋愛沙汰ほど食い

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小説「アキラの呪い」(16)

小説「アキラの呪い」(16)

前話はこちら。

アキラの呪い 15.16は連続更新。

間話2 「深夜:side晶」

 深く静まり返った夜のことだった。
 誰かがうめいていた。男の掠れた声が壁向こうから聞こえる。作業の手を止め、わたしは知らぬ間に歩の部屋の前へと立っていた。ドアノブを引くと、くぐもっていた声は鮮明になる。戸の隙間から闇が漏れ出て廊下を染めていた。その暗闇に惹かれたせいだろうか。部屋へと足を踏み入れ、気がつくと

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小説「アキラの呪い」(15)

小説「アキラの呪い」(15)

前話はこちら。

アキラの呪い 15.16は連続更新。

***

 晶は結局翌日には早々と片付けを終えてしまった。後には空の部屋だけが残された。まるでそこだけ持ち主を失ったかのようだった。そうして姉はその後一日だけ滞在し、実家からアパートへと戻っていった。正直いつ帰ったのかは俺にもわからない。週明けになって大学の講義に出なくてはならなかったから。ただ、最後の1日はどこかに出掛けていたようだった。

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小説・「アキラの呪い」(14)

小説・「アキラの呪い」(14)

↑ 前話はこちら。

 両親はもうすぐ10時になろうかという頃に合わせて起きてきた。少し遅い朝だった。父が先に起きて、ついでに母を起こして連れてきたらしい。父も母も朝が弱いわけではない。やはり昨日の酒が効いたんだろう。
 両親が起床して30分も経たないうちに一悶着あった。姉がゴミ袋に貯めた大量の「ゴミ」を母が目にしたのだった。母は娘を愛していたし、娘が生きてきた軌跡をが失われることを恐れていた。

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小説•「アキラの呪い」(13)

小説•「アキラの呪い」(13)

前話はこちら。

***

 朝飯は予定通り目玉焼きにウィンナーを添えた。両親の分も合わせて作ってしまう。二人とも今日まで休みで明日から仕事らしい。昨日そこそこ呑んでいたから、もしかしたらなかなか起きてこないかもしれない。食パン三枚を焼きながら、一杯だけコーヒーを淹れる。姉は苦味を受け付けない。それでかつては毎朝甘いホットミルクを飲んでいた。朝食のセッティングを終えると、俺は2階へ「姉さん。朝飯食

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小説•アキラの呪い(12)

小説•アキラの呪い(12)

前話はこちら。

***

 姉が帰省した翌日。壁の向こうから聞こえる物音で目覚めた。壁を挟んだ隣部屋は姉の部屋だ。
 「姉さんか…」
 夢現だった意識は覚醒へ向かう。低いうめきと共に無意識で呟いていた。同じ家に姉がいることに慣れない。沈黙に満たされていたはずの場所から人の気配がすることにどこか落ち着かなさを感じた。窓の方へと目をやると、朝日がカーテンを白く透かしている。
 遅くまで寝ていたつもり

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小説・「アキラの呪い」(11)

小説・「アキラの呪い」(11)

前話はこちら。

***

予告通り帰省した姉をみて、俺はほっとため息をついた。正確には、その手首を観察していた。最近彼女のリストカット跡はかなり薄くなってきている。それでもよく見れば分かってしまう程度には残っていた。今、傷はリストバンドに覆われて見えない。どうやら隠す気はあるらしい。胸を撫で下ろしながら、ふと疑問が芽生えた。なぜこんな心配を俺がしているのだろう。バレて困るのは姉さんじゃないか

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小説・「アキラの呪い」(10)

小説・「アキラの呪い」(10)

前話はこちら。

第三章「家族」

 ある晴れた月曜の朝だった。
 秋晴れを見上げつつ洗濯物を干していると、母がこんなことを言い出した。
 「あ、そうだ。晶だけどね、今週末帰ってくるって連絡あったわ」
 「え」
 振り向くと、ソファーの向こう側で体を仰け反らせた母と目が合う。間抜けな返答と共に、今しがた皺を伸ばしたばかりのタオルが手をすり抜けて足元を湿らせた。だが、その不快感すらも今はどうでもいい

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小説・「アキラの呪い」(9)

小説・「アキラの呪い」(9)

前話はこちら。

間話 「特異な関係」

 歩と初めて話したのは、小学校へ入学したその日だった。あいつは水無瀬歩で俺は槙原拓人だったから、席順が前後だったんだ。知り合ってすぐの印象は「すごい奴」だった。
 その日、配布されたプリントを前から後ろに回して配ると、一枚足りなかった。その事実に俺が気がついたのは、目の前の歩が手を上げて「おれのぶんがない」とでかい声で言ってからだった。本来なら、一番後ろの

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