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久野貴詩 / Takashi KUNO
2023年12月17日 09:11
なにを思い出そうとしていたのか 思い出せない言葉になるまえに通り過ぎていったイメージはぼんやりと浮かんでいるまだ わたしの内側の空間にそこには地面なんてないんだけれど誰かが立っているのが見えるわたしかもしれないし あなたかもしれないいずれにしても 原作には登場しない人物原作って?オリジナルのストーリーを書いた誰かがいてわたしたちはそのひとのストーリーには登場しない人物どこに立
2023年7月22日 23:55
コピー用紙を手にしたふたり。 向かい合って立っている。わたし こんにちは、あなた こんにちは、わたし いまからここでするやりとりを、演劇にしてみようと思うんですけど、いいですか?あなた えっと、それは……演劇?わたし はい、あなた なにか特別なことをするんですか?わたし いいえ、あ、いや、特別といえば特別かもしれない、あなた わたし、そんな、特別なことはできま
2023年8月5日 04:34
わたしが経験するすべての楽しいことはすでに終わってしまって彼らの化石が眠った地層にゆっくりと浸み込んで二度と地上へは戻ってこないそんな気分の夜の空気の二酸化炭素の濃度の分だけ閉じたまぶたの隙間からこぼれ落ちていく時間と時間を縫い合わせてもまだ足りない彼女のゆれるスカートのテキスタイルに吸い込まれていく光の粒が赤血球と白血球のあいだを泳いで指先で折り返したあの夏の
2020年7月4日 18:58
映画の中に出てくる宇宙服ってわたし好きなんです身動きとりづらそうな寸胴のシルエット生命維持装置ガラス越しに見る星々仲間がそばにいても通信機を使わなければ声も届かないああ これはわたしたちの姿だなって思いませんか少なくともわたしの姿だとは思うああ 帰ったら湯船に浸かりたいそれまでは宇宙船につながれてふわふわするしかやることない いやいろいろ研究したりメカの
2020年7月5日 17:50
無傷の鹿が走り抜けていったわたしはかまえていた銃を下ろし梢をかすめて差し込む光がさっきまで鹿のいた場所をふちどるのをぼんやりと眺めていました今日はもう帰ろうそう思ってわたしは山を下り田園都市線で渋谷へスクランブル交差点の信号が変わるのを待っているあいだに目にした向かいのビルの大型ビジョンその中に広がった森の奥に見憶えのある鹿の姿がありました東京は夜の7時昼
2020年7月5日 20:32
腕の中の子犬の真っ白い毛をなでる眠そうな目まぶたが落ちそうで落ちなくて落ちそうで落ちなくて落ちてテレビを見てたら彼はもう眠っていた数式の並ぶ紙に目を落とす設問の意味すらわからなくてたぶんわたしは卒業できない数学できない留年したくないでもいいんだわたしはこの学校2回目だから一度は出てるから2回も出る必要ないってわかっているのに焦る気持ちだけ募ってわーっとな
2020年7月6日 04:43
ハローアイキャントスピークジャパニーズわたしは日本語がしゃべれませんでもいまどうですかこれ日本語をしゃべっているように聞こえませんか聞こえますよねハローハローわたしは英語であなたに語りかけています「わたしは英語であなたに語りかけています」って英語で言っています演劇って便利ですよね日本語をしゃべっていても日本語以外をしゃべっているようにもできる「演劇って便
2023年1月4日 03:04
多摩川をずうっと下っていくと羽田空港に着きます自転車を買っていちばん遠出したのってあのときかもしれないその日 わたしは多摩川沿いの道をひたすらクロスバイクで走りましたクロスバイクってロードバイクほど本格的ではない街乗り用のでも タイヤも細くてサドルも硬くてかなり前傾姿勢にならないと乗れないっていうそういう自転車なんですけどよく晴れた春の日で全然寒くもないしちょ
2023年1月5日 03:43
中学校に入るとき父に腕時計を買ってもらいましたわたし その時計をまだつけていますガラスに引っかいたような傷がついているのは中学生のころにはもうそうだったから慣れてしまったしそれなりに雑に扱ってもいいやって思えているのはそれもひとつの理由でだからこそずっとつけていられるのかもしれないシルバーのシンプルな腕時計これから中学生になる自分のセンスで買ってもらっていたらきっとこん
2020年7月4日 12:26
ギャラリー。絵の前に立つひとがいる。わたし 絵の前に立ちたいという気持ち、ですよね、絵を見たいというよりは、絵の前に立ったら絵も見るんですけど、もちろん、でも、いや、立つときは絵が見れる場所に立つんで絵は見たいんですよ、もちろんね、でも、立ったときはじまるわけですよ、絵とわたしの、あれが、あれですよ、あれっていうのは、関係、というか、交流というか、色とかたちがあって、わたしはその前に立って
2020年7月4日 13:15
浜辺。海を眺めるひとがいる。わたし ときどき来るんですよ、海、こうして見てると、心が休まるっていうか、落ち着くっていうか、いつまで見てても飽きないし、家、近所だし、朝の海も、昼の海も、夜の海も、晴れてる日も、曇ってる日も、雨の日だって、いやなこととか全部忘れられるっていうか、っていうかまあ、家に帰るまでにはほとんど思い出しちゃうんですけど、でもね、へんな話、海ってわたしにとって、最高の、ほ
2020年7月4日 13:29
テキストファイルをスクロールする現れては消えていく書きかけのテキストはただのメモ文章未満の単語の羅列つながっていくはずだったいくつものエピソードがルートを断たれてモニターの白い空間に浮かんだまま南のほうへ南のほうへわたしは南に向かっていますマイアミ・ビーチ海岸線をなぞるその指先に書かれなかった話会わなかったひと誰の耳にも届かなかった音楽夏の