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『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』

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BOY meets MUSIC ストーリーズ
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#80年代

孤独な君のレジスタンス。

孤独な君のレジスタンス。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -9

バンドは団体戦だ。
クラスの片隅でひとり、どんなに鬱屈として世間を呪ってみたところで、その一瞬で世界を一変させる1,2,3,4の奇跡の4カウントは、教室の窓の外からも気になるあの子の寝言からもまるで聞こえてきやしない。

どんなにコミュニケート不得手だろうが、仲間を集めないことには音楽は鳴り始まらないのだ。これはゲームではない。

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剣道、アドラーそしてドラマー。

剣道、アドラーそしてドラマー。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -8

えっ、そこは普通ベースだろ…!

そう思いっきり突っ込みたいところだったが、ここでヒサミツの気分を害してしまっては元も子もない。ようやくこの道に引きずり込んだ貴重なメンバー候補だ。パートはともかく今は仲間を集めるのが先決なのは間違いない。

そうして僕は、メンバー探しに奔走することになった。
といっても学年にたった4クラスしかない小

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心の中から現れたものは常に正しい。

心の中から現れたものは常に正しい。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -7
昨夜の日曜洋画劇場で『ベスト・キッド』を観たおかげで、興奮して寝付けずに絵に描いたような寝坊を喫した僕は、遅刻ギリギリで教室に飛び込んだ。
真っ白な開襟シャツはすでに汗でぐっしょりだ。

しかし今や気分はKARATEの達人、僕に案ずることなど何もない。
これしきの事は「心頭滅却すれば火もまた涼し」、である。

(このオープニング・タイ

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なんだこの感じ、この感覚。

なんだこの感じ、この感覚。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -6

「何だよ、見せたいのって。」

ヒサミツが訝しげな顔をして、僕の部屋の本棚を手持ちぶさたに品定めをしている。

遙か古(いにしえ)から、初めて訪れた部屋において繰り返し行われてきたであろう、ささやかな通過儀礼である。

しかし、僕の一番の愛蔵書である宮沢賢治大全集には微塵たりと興味を惹かれなかったようであり、遺憾ながら彼は早々にテレ

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世に一つしか存在しなかったプレイリスト。

世に一つしか存在しなかったプレイリスト。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』

中学生編 -5
部屋で流していたFM放送はいつの間にか深夜番組に変わり、僕はラジオのスイッチを切った。
家族も寝静まった夜中にひとり、CDラジカセの前に座り込む。
山積みのCDとカセットテープ。
よし、これで事を始めようじゃないか。

翌日、昼休みを知らせるチャイムが鳴り渡り、クラスのみんなは脱兎の如くそそくさと席を立ち、トイレに行ったり、購買に

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見えない銃を撃ちまくるしかない。

見えない銃を撃ちまくるしかない。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -4

ハードル跳びのエリアからひと際大きな歓声が上がった。ちょうどスタートしたばかりのようだ。状況を把握しようと順位を確認した僕は目を疑った。
え…?!
先頭には、他校の選手に大差を付け、カラフルな装いの中で唯一、緑色のジャージと白いスニーカーをまとったやつがぶっちぎりでトップを走っていた。

「す・・すげぇ、ノビじゃんっ!」

まる

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その者、緑の衣をまといて金色の野に降り立つべし。

その者、緑の衣をまといて金色の野に降り立つべし。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』中学生編 -3 (Another Story)
時を少し戻そう。

その日は朝から憂鬱だった。
形ばかり在籍している陸上部で、初めて大きな地区の競技大会に出場することになっていたのだ。もちろん誰もやる気が無いうえに、吹き溜まりのような寄せ集め部員にとって、学校を出ての初遠征なんて抗えない遠足みたいなものであった。

そもそも、顧問の担任(20代初赴任

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学校の机に好きなバンドのロゴを書いてしまったり。

学校の机に好きなバンドのロゴを書いてしまったり。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 中学生編 -2

人生初のライブ、それは最高の体験でしかなかった。と言うより他に表現のしようがなかった。

(ほ、本物だ…!)

(音、デカっ…!)

一人で来ていることなんて全くどうってことなかった。最初の一音が鳴った瞬間、全神経はステージに釘付けになり、遠く海を越えて演奏しに来てくれた彼らの一挙手一投足に、終始心を震わせた。

あえて言うならば

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弾けないギターを弾くんだぜ。

弾けないギターを弾くんだぜ。

『僕はきっとこの温度を忘れることはないだろう。』 中学生編 -1

「ギターが欲しいっ!」

それまでシンセのカタログばかり眺めていた僕は、取り憑かれたようにギターの広告を見漁るようになった。

当時は、少年ジャンプの最後の通販みたいな胡散臭いやつばっかりで、
まともなモノは、小学生がおいそれと買えるわけもなく、文字通り指をくわえて見るしかない日々が続いた。

そうして僕は中学生になった。

とい

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