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感情に順序を埋め込む
順序と争い
芸人の世界には結構明確な序列があって、結局のところ「いくら稼いでいるか」であらかたの批判やヘイトを吹き飛ばすことができる。酒を飲みながら「あいつは面白くない」とくだを巻いたって、結局稼いでないのなら負け犬の遠吠えになる。「過去に賞レースで結果を残したが、今は稼いでいない人」の話をすると、たいてい芸人は苦い顔をする。やはりプロップスよりも収入が正義の世界なのだという感じがするし、しかし
神話と西洋的マゾヒズム 『オッペンハイマー』感想(ネタバレあり)
クリストファー・ノーラン監督の映画『オッペンハイマー』を見た。先輩芸人の森田GMさんから「見たら草山の感想が聞きたい」と言われたのだが、LINEで送るには文章が多くなりすぎるので、いっそのことnoteに書いてしまおうと思った。
たぶんかなりトンチンカンで変なことや、逆に「そんなことその辺の考察ブログに書いてるわ!」という初歩的なものも書いていると思う。あんまり映画や漫画の考察は読まないようにして
「シェア語」のふるい
M-1の公式YouTubeアカウントで去年の決勝の動画がアップロードされた。
上のヤーレンズさんの動画のコメント欄を見ると、タイムスタンプとともにどのボケが好きかを書き込んでいる人が多い。「(投げっぱなしを含めて)とにかくボケ量の多い漫才」はこういうYouTubeのコメントとの相性がとてもいいと再確認した。ナイチンゲールダンスさんやタイムマシーン3号さんがYouTube ShortsやTikTo
霊現象に関する立ち位置と最終完全回答
芸人をやっているので、幽霊に関する仕事やライブの話が来たりする。始めたての頃は何でもチャレンジしたほうがいいと思って受けたりしていたけど、最近は逆に避けるようにしている。あるいは、これは仕事に関係なく「幽霊を信じているか?」という質問をされることがあって、毎回おんなじ回答をして、似たような問答に発展するのが面倒くさいので、全部書いておくことにする。今後「これ読んどいて。全部書いてるから」と渡すため
もっとみる皮肉の責任は誰にあるか
ここはとあるレストラン。テーブルにはメニューもなく、値段もわからない。客はその場に運ばれてきた料理を食べ、請求された金額を支払って出ていくシステムになっている。
あなたは初めてその店に来て席に着いた。周りを見ると、黙って食べている人もいれば、困惑している人や、顔を真っ赤にしている人もいる。しばらくして運ばれてきたのは、高級そうな皿に、見慣れた食パンがひときれと、およそ食べ物とは思えない見慣れない
10/29 M-1三回戦@祇園花月レポ
はじめに:祇園花月の予備知識京都にある祇園花月という劇場は八坂神社のすぐ近くにある。M-1三回戦を控えた芸人が気もそぞろに早く上京し、時間つぶしのために参拝する風景がよく見られる。しかし、これをやっている芸人はその年に初めて三回戦に進んだ芸人だとバレてしまう。なぜならば八坂神社への参拝はM-1が終わると自動的になされるものであり、わざわざ鳥居をくぐる必要はないからだ。
「芸人」に用いられる芸の字
家でキャベツが待ってるんで
去年から家でザワークラウトを常備している。ザワークラウトはキャベツを乳酸発酵させてつくる漬物のことで、ドイツ語で「酸っぱいキャベツ」を意味する。「クラウト」はキャベツのことで、「ザワー」は英語の「サワー」と根っこでつながっている。
発酵というと難しそうに感じるかもしれないが、要は「よくない菌が繁殖する前にいい菌に先に征服してもらう」という発想なので、その「いい菌」が強大な軍事力を持っている場合、
「服を買いに行く服がない」現象の急所
先日書店に入ると、正確なタイトルは覚えていないのだが「『サピエンス全史』をどう読めばいいか」みたいなタイトルの漫画が売っていた。ほー、そういう漫画も売っているのか……と素通りしそうになったのだが、よく考えるとどういう人を対象にしたマンガなのか分からなくなってくる。
例えば『源氏物語』を原典で読むためには、古典文法と時代背景を学ぶ必要がある。言語の壁や時代性、文化圏をまたぐような著作については、読
熱のときに見る夢/青りんご味
サイケデリックな映像を「熱のときに見る夢」と表現するある種のユーモアが(たぶんネット発で)存在していて、ぶっちゃけあまり好きではない。だってそんな夢見たことないもん。他の人はあるのかもしれないけど、なんとなく勘で笑っているだけだろ?と思っている。
「サイケデリック」とか、音楽でいえば「アシッド」みたいな感覚というのはもとはドラッグカルチャーから来たもので、本来ふつうの日本人にとっては分からない、
チョンボ飛車タダ草むしり下手くそ帝国の内分泌的リアリティ
サスペンス映画の巨匠・ヒッチコックの有名な逸話がある。
ヒッチコックをさえぎったタイミングで書くべきではないのだが、この本文は途中からめちゃくちゃ下品な話になる。
ヒッチコックは映画『汚名』を撮影するにあたり、プロデューサーと口論になった。その原因は、作中でナチの残党を追うFBIエージェントが発見する「ウラン鉱石の入ったワイン瓶」であった。この映画が公開されたのは戦後すぐの1946年。原子爆弾
どうしようもないのだから祝ってしまおう
昔からイベントとしての誕生日が不可解だった。子どもの頃はプレゼントがもらえる日としてウキウキしていたが、大人になるにつれ「どうして止まることなく流れる時間に区切りをつけて祝ったりするのだろう?」という思いが強くなっていき、だんだんと自分の誕生日を気にしなくなっていった。大学生の頃には親から届いた「おめでとう」のメッセージでその日が自分の誕生日だと気づくような調子。
別に年齢を重ねることが嫌なので