家でキャベツが待ってるんで

去年から家でザワークラウトを常備している。ザワークラウトはキャベツを乳酸発酵させてつくる漬物のことで、ドイツ語で「酸っぱいキャベツ」を意味する。「クラウト」はキャベツのことで、「ザワー」は英語の「サワー」と根っこでつながっている。

発酵というと難しそうに感じるかもしれないが、要は「よくない菌が繁殖する前にいい菌に先に征服してもらう」という発想なので、その「いい菌」が強大な軍事力を持っている場合、放っておくだけでできる。その代表例が乳酸菌と納豆菌で、とくに納豆菌はとてつもない繁殖力があり、大学の生物系の研究室では白衣で納豆を食べてはいけないと言われる。シャーレの培地に納豆の糸がちょっと入り込んだだけで研究対象がジ・エンドになるからだ。逆に日本酒の醸造などに用いられるコウジカビは結構弱いので、もっと強い菌である乳酸菌が入り込むと、せっかく作った酒が征服される「火落ち」という現象が起きて酒蔵ごとジ・エンドになったりする。

ザワークラウトは強さランキング上位の乳酸菌を使うので、めちゃくちゃ簡単である。乳酸菌の強さはワンピースでいえば四皇、鬼滅の刃でいえば鬼殺隊の柱、呪術廻戦でいえば特級呪術師である。全部読んでない。

話を戻す。キャベツを適当に細かく切っていき、強めに塩を打ってガシガシ揉んだらガラス瓶などの保存容器に入れ、全体が浸かるくらいに水を追加して常温で放置。最初の2~3日は水が白濁して不安になるが、乳酸菌を信じて待つ。そのうちポコポコ泡が出てくるので、適度にガス抜きをしながら待つ。明らかに酸っぱい匂いがしてくると完了。乳酸菌がかなり強いので、スパイスとかハーブを入れても問題なく発酵する。コショウ、クミン、ディル、青唐辛子などを入れても全部成功した。

発酵食品をつくるのは、生き物を育てるのに近い楽しさがある。家に帰るとちょっとした変化が起きているのが面白い。

草山「今日はどんな感じですか~?(パカッ)」
ザワ「シュー……(ガスが抜ける音)」

飼っている動物に話しかけるのはまだ普通だが、植物に話しかけるのはちょっとヤバくて、菌と会話しだすと人格がジ・エンドなのだが、ついやってしまう可愛さがある。夏場だと発酵のスピードがはやく、ガス抜きのときに爆発することもある。そういうときは恐る恐るゆっくりと容器を開けるのだが、それはそれで爆弾処理班になった気分で楽しい。

あと普通に食の面でも優秀である。キャベツという汎用性の高い野菜の賞味期限がカンストするのだ。スーパーで献立を考えているときも「家にちょっと酸っぱいキャベツが大量にある」というバフがかかっている状態になる。トマト煮に入れたり、焼いた肉の付け合わせにしたり、カレーに添えたり、という幅広さはぬか漬けにはない。

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