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短編小説

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#小説

短編【待ってて、チャオ】小説

短編【待ってて、チャオ】小説

私の全てだったロック・バンド『メテオストライクス』のチャオが死んだ。このビルから。三年前の今日。チャオは飛び降りて死んだ。

チャオのギターの旋律を失った『メテオストライクス』は程なくして解散した。この三年間、私の心の拠り所は『メテオストライクス』が残した三枚のアルバムだけだった。毎日毎日、私は聞き続けた。チャオのギターを。私の頭の中では、いつでも、どこでも、チャオのギターが鳴り響いている。

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短編【椿が堕ちる夜】小説

短編【椿が堕ちる夜】小説

今日、僕は八年付き合った彼女に別れを告げる。出逢ってしまった事に理由が無いように別れる事にも理由は無い。あえて理由を付けるのであれば、好きじゃ無くなった。と言う事だ。我ながら非道い理由だと思う。

待ち合わせの公園のベンチには既に彼女が…椿が座っていた。

「ごめん。早かったね」
「え?」  

椿と思って声をかけた女性は別人だった。だけど、ベンチに楚々と座っている後ろ姿は椿にそっくりだった。顔の

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短編【ストレス発散秘密倶楽部】小説

短編【ストレス発散秘密倶楽部】小説

私は大手デパートのクレーム処理課に勤めて15年になる。毎日毎日さまざまなお客様のクレームを私は対処している。

クレームと言っても会社をより良くする為の材料が隠れているので、おざなりには出来ない。クレーマーとは私にとって会社を、いや、私自身を成長させてくれる有難い存在なのだ。だが常識では考えられないクレームを言いつけてくるお客様もいる。

この前も大福の中に金属が入っていたというクレームがあったが

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短編【命のホットコール】小説

短編【命のホットコール】小説

「はい、こちら『命のホットコール』山田みゆきです。お名前よろしいですか?」
「あの…太田一郎といいます」
「太田さんですね?どちらからお掛けになってます?」
「自宅からです」
「今、お一人ですか?」
「はい。・・・あ、いえ。今、女房は寝てまして」
「そうですか。夜中ですものね。奥さんにも言えない悩みなんですか?」
「はい。あの、その女房が悩みの種なんです」
「奥さんが?」
「女房が酷い浪費家で私に

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短編【天使ちゃん】小説

短編【天使ちゃん】小説

天使は薄暗い押し入れの角を見詰めていた。両膝を抱えてじっと角を見詰めていると自分の身体が優しい闇の中に溶けてゆく感じがする。

天使はそっと瞳を閉じる。闇がいっそう深くなる。そして、あの子が来るのを待つ。

消えてしまいたいくらい辛いときに、あの子はやってくる。
大丈夫、大丈夫、ボクがいるから大丈夫、とあの子はやってくる。

今日も来てくれる?お願い早く来てお願い。そうじゃないと、あたしは自分で自

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短編【臨終タクシー】小説

短編【臨終タクシー】小説

深夜一時すぎ。
突然の電話の音に私は肝を冷やした
こんな時間から電話なんて最悪な事態が頭をよぎる。
私は急いで電話を取った。

「はい、大野ですが」
「大野さんですか、中央病院ですが、急いで来て下さい。奥さんが」

私は、電話を最後まで聞かずに家を飛び出した。
いつ呼び出されてもいいように、ここ一週間は余所行き格好で寝ていた。
私の妻は末期の癌で、いつ死んでもおかしくはない状態だった。
五階の部屋

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 短編【味覚障害】小説

 短編【味覚障害】小説

「ちょっと、痩せたんじゃない?」

佐和子は義理の弟、義光の少しやつれた顔を見て言った。
体調を崩したという連絡があり、義理の姉である佐和子が義光のアパートまで様子を見にきたのだ。
佐和子がわざわざ義光の様子を見に行ったのは、義光が独り者であるという理由もあるが、もう一つ、ちょっとした不安があったからだ。

その不安とは義光がこのアパートに十日前に引っ越しをしてきたという事。

とにかく家賃の安い

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短編【読まないでね】小説

短編【読まないでね】小説

お母さんに手紙を書くなんて初めての事ですね。本当はメールを送ろうかと思ったんだけど、何だかメールよりも手紙に書きたい気持ちだったので、手紙にしました。お母さんが、直腸癌にならなければ、手紙を書く気には成らなかったと思います。なかなか綺麗に書けなかったので、これで三枚目です。お母さん、今まで本当に有難うございました。お母さんが癌になったことを先生から聞かされた時の事を今でも覚えています。本当にガ~ン

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短編【霧が晴れたら】小説

短編【霧が晴れたら】小説

志島洋は混乱していた。
見覚えのある浴室。
大伯母の家の浴室だ。
その浴室で血に塗れて倒れている大伯母と気絶している看護師がいる。
べっとりと血に染まっている自分の右手を見つめて志島洋は混乱していた。

「【ニーラカーラ物語】で知られる童話作家、志島佳代さんが殺害されるという痛ましい事件が起きてしまいました。犯行に及んだのは志島さんの姪孫にあたる志島洋容疑者27歳。警察によりますと、容疑者は犯行を

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短編【神の僕となりたれば】小説

短編【神の僕となりたれば】小説

山岸誠治が教誨師になって三年が過ぎた。
これまで八人の死刑囚と対話し、そのうち三人の死刑囚を棺前教誨で見送った。
教誨とは『教えさとすこと』である。
罪を犯した者と語らい、彼ら彼女らの悲痛をうけ入れ教え諭す。

しかし山岸誠治は、死刑囚たちの話を聴いていると常に自分が諭される気持ちになった。
殺人という罪を犯してしまった者たちの半生は、山岸誠治にとってはどれも壮絶だった。

あらがえない運命に放り

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短編【マッチング】小説

短編【マッチング】小説

運転免許証、パスポート、健康保険証のいずれかの身分証の提出があるのか。
『インターネット異性紹介事業届』はきちんと為されているのか。
強制退会や通報などの防犯対策はあるのか。

それらを入念にチェックして浅河尾紅葉はマッチングアプリ『アムルーズ』の登録サイトを開いた。

「変な人いない?大丈夫?怖くない?」
「大丈夫、大丈夫。私が変だから」
「それはそうだけど」

あなたは変だけど私は変じゃないか

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短編【らんちう】小説

短編【らんちう】小説

キキョウの花弁を思わせる淡い蒼色の縁取りをした直径23センチメートルのガラス製の金魚鉢の中を一匹のらんちゅうが泳いでいる。

赤みの強いオレンジ色と光沢のある滑らかな白色の二つの配色が鮮やかなそのらんちゅうは金魚鉢の中を所狭しと遊泳している。

静止しているのかと思わせるようにユックリと鰭を動かしている。
かと思えば突然何者かから逃げる様に素早く身を移す。

金魚鉢の有限の世界の縦横を無尽に潜水し

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短編【すきじゃないけど】小説

死んだ人を見たのは、これが初めてだったから、ちょっとびっくりしちゃった。
だって、おばあちゃんは生きていた時よりもキレイだったんだもん。
死んでキレイになるなんて不自然だと思った。

だけど、そんな事は言わない。
思った事をそのまま口に出すと大人は困ったような、参ったようなみょうな顔をするのを私は知っているから。

あの顔つきは、どんな言葉を使えばいいんだろう。
勇人なら、きっとぴったりはまる言葉

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短編【ふるさと】小説

短編【ふるさと】小説

十二年ぶりに故郷に帰ってきた。
村を取り囲む山々も小川のせせらぎも何も変らない。
昔のままだった。

田んぼの稲もすくすくと育っている。
もうすぐ収穫の季節だ。
なつかしいな。

やあ!大宮のおじさん!覚えていますか?僕です。
トラクターの整備をなさっているんですか?そういえば昔、おじさんのトラクターを勝手に運転して木にぶつけちゃいましたね。
あの時は本当にごめんなさい。
おじさんのげんこつ、いま

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