短編【すきじゃないけど】小説
死んだ人を見たのは、これが初めてだったから、ちょっとびっくりしちゃった。
だって、おばあちゃんは生きていた時よりもキレイだったんだもん。
死んでキレイになるなんて不自然だと思った。
だけど、そんな事は言わない。
思った事をそのまま口に出すと大人は困ったような、参ったようなみょうな顔をするのを私は知っているから。
あの顔つきは、どんな言葉を使えばいいんだろう。
勇人なら、きっとぴったりはまる言葉を見つけてくる。
勇人は、こくごが得意で作文が上手だから。
おばあちゃんが大切にしていた庭のサザンカや秋バラもキレイに咲いている。
この庭のお世話は誰がするんだろう。
荒れほうだいになっちゃうのかなあ。
でも、その方が今よりも、もっともっとキレイになると私は思う。
美しくするのは努力が必要で不自然。
汚れてゆくのは努力は不必要で自然。
そう思うけど私は口には出さない。
そんな事を言うと大人は、弱ったような、呆れたような顔をするから。
不自然よりも自然のほうが美しいと私は思う。
見た目がどうであれ目に映る物なんて結局、光の反射に過ぎないんだから。
本質は光の向こうにある。
そんなことを前に勇人に話したら、それは違うんじゃないのかと言われた。
キレイだからキレイ。
それでいいんじゃないかって。
「これでもボーイフレンドがいるのよ。ねぇ、カナコ」
「え?ほんとぉ?やるぅ!カナちゃん」
「いません」
おばあちゃんのお葬式が一通り終わったあと従姉妹の亜里沙姉ちゃんと母が、おばあちゃんの家の縁側で私をさかなに盛り上がっている。
亜里沙姉ちゃんはセーラー服を着ている。
「私をさかなに盛り上がる」って、こんな使い方で当たってるのかな。
さかなって魚のことだろうか。
たぶん違う気がするけど。
帰ったら勇人に聞いてみよう。
「どんな子なんですか?その子」
「鷲見泉勇人くんっていって」
「勇人」
「そうそう勇人くん。勇人って書くからついつい」
お母さんは空中に『勇』と『人』という漢字を書いた。
「でも、小学五年生で彼氏っ早くない?最近はそうでもないか」
「何言ってんのよ、あーちゃん。あんた小四でいたじゃないの」
「いやいやあれは」
私は縁側から降りて庭の中ほどまで歩く。
あんなに、わんわん泣いていたのに、今、二人は楽しく喋っている。
悲しいから楽しげにしてるんだと私は思った。
大人って大人だなあ。
お葬式って悲しみも可笑しみも何もかも中途半端で、ふわふわとした雰囲気だ。
でも、好きなんでしょ?と亜里沙姉ちゃんに聞かれたので、好きじゃないです。と答えた。
「うそうそ。カナコは絶対に鷲見泉くんの事が好きよ」
「そうなの?」
「だって鷲見泉くんの話しかしないんだから。他に友達がいないのか心配になっちゃうくらい」
私はお母さんと亜里沙姉ちゃんの言葉を背中で聞いて遠くの山々をみる。
まだ、午前中が終わったばかりなのに十一月の富山の山里は夕方の匂いがする。
「カナコちゃん、鷲見泉くんの事ばっかり考えてるの?」
「そればっかりじゃないけど、良く考えます」
「じゃあ、やっぱり好きなんじゃない」
私の答えに後ろの二人はけらけら笑った。
べつに勇人の事は好きじゃないけど勇人の事を想うのは、好きだ。
⇩⇩別の視点の物語⇩⇩
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