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短編【ふるさと】小説
十二年ぶりに故郷に帰ってきた。
村を取り囲む山々も小川のせせらぎも何も変らない。
昔のままだった。
田んぼの稲もすくすくと育っている。
もうすぐ収穫の季節だ。
なつかしいな。
やあ!大宮のおじさん!覚えていますか?僕です。
トラクターの整備をなさっているんですか?そういえば昔、おじさんのトラクターを勝手に運転して木にぶつけちゃいましたね。
あの時は本当にごめんなさい。
おじさんのげんこつ、いまでも覚えています。
その後すごく高額な弁償代をうちに請求してきましたね?
あの時の金額は当たっていましたか?
僕はこの村に帰ってきました。
大宮のおじさん、さようなら。
この村には嫌な思い出しかない。
こんにちは!松屋のおばあちゃん!覚えていますか?僕です。
もう駄菓子屋さんはやっていないんですか?
そうですか。
残念です。
そういえば僕はよく、おばあちゃんのお店で万引きをして木製の定規で叩かれたっけ。
あれは本当に痛かった。
あの時は本当にごめんなさい。
お金が無いからといって、やってはいけない事をやってしまいました。
本当にごめんなさい。
でも、何度か何も盗んでいないのに疑われて叩かれた事があったんですよ。
知っていますか?
知ってましたよね?
僕はこの村に帰ってきました。
松屋のおばあちゃん、さようなら。
この村には嫌な思い出しかない。
こんにちは!御堂條先生!覚えていますか?僕です。
学校にいかなくてもいいんですか?
そうですか。定年ですか。
長い間お疲れ様でした。
そういえば、僕が飼育小屋の鶏を全部売りさばいた時、先生は理由も聞かずに何どもひっぱたきましたよね。
あの時は本当にごめんなさい。
貧乏人は耐えるしかなかったんですよね。
僕はこの村に帰ってきました。
御堂條先生、さようなら。
この村には嫌な思い出しかない。
こんにちは、ハナちゃんのお父さん。
覚えていますか?僕です。
ハナちゃんは元気ですか?え?村を出て行ったんですか。
そうですよね。この村には働く場所がない。
若者はみんな村を出ていく。
でも、僕は帰ってきましたよ。
そういえば昔、僕とハナちゃんが付き合い始めた頃、あなたは僕をボコボコにしましたよね?
覚えていますか?
本当はハナちゃんの方から告白してきたんですよ?
好きだと言うから付き合ってあげたんです。
どうしたんですか?そんな顔をして。これですか?
これは鉈です。
けっこう重いですよ。
でも、これくらい重くないといけないんです。
一発で頭蓋骨を叩き割るには、これくらい重たくないといけないんですよ。
僕はこの村に帰ってきました。
ハナちゃんのお父さん………さようなら。
この村には嫌な思い出しかない。
やあ、こんにちは村長さん!
お元気そうでなによりです。
覚えていますか?
僕です。
⇩⇩別の視点の物語⇩⇩
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