短編【ストレス発散秘密倶楽部】小説
私は大手デパートのクレーム処理課に勤めて15年になる。毎日毎日さまざまなお客様のクレームを私は対処している。
クレームと言っても会社をより良くする為の材料が隠れているので、おざなりには出来ない。クレーマーとは私にとって会社を、いや、私自身を成長させてくれる有難い存在なのだ。だが常識では考えられないクレームを言いつけてくるお客様もいる。
この前も大福の中に金属が入っていたというクレームがあったが、金属はその人の歯の詰め物だった。それくらいは良いとして受付の女子社員の笑顔を自分だけに独占させろ、と言うお客様がいたりする。異常なクレームの背後にはお客様の異常な欲望が見え隠れする。
テレビである社会心理学者が「クレームの背景には少なからずクレーマーの経済的事由が潜在する。そのため、その要因が排除されない限り苦情は減少しない」と言っていた。確かにその説の一部は認める。だが実際のところ現場で苦情対応が一番多いのは高額所得者の方だ。
彼らは正義感から、誤りを正してやるという高い視線からクレームを、いや、ご指導をして下さるのだ。本当にやっかいな、いやいや、有難い存在なのだ。
そんなクレームを15年も処理し続けている私に、さぞかしストレスが溜まるでしょうと部下は言う。だが、私には誰にも言えないストレス発散法がある。
それは月に一度、ある秘密倶楽部に行く事だ
「いらっしゃい。今日は、どんなプレイをご所望?」
今日も一ヶ月分のストレスを溜め込んで私は会員制秘密倶楽部『ソドムの小部屋』にやってきた。
『ソドムの小部屋』のマダムがいつものように真っ赤なボンテージ・ファッションで迎えてくれた。声の感じは四十代の艶やかな色気があるが身体のラインは三十代、いや、二十代後半の完璧な曲線美を持っている。顔の半分、目のまわりは揚羽蝶をあしらった黒いマスクで隠されて、それが一層魅力的に見える。
「いつもの様に、マダムに任せるよ。とびきり興奮するやつを」
「だったら、処女のメス豚と交わってみる?」
「ぶたぁ?」
「異常に興奮するわよ」
「そうかなぁ。まぁ、マダムが薦めるんなら…」
という事で、私はストレス発散の為に処女のメス豚と一戦交わる事にした。いつもの様に秘密の部屋に通されると、そこには一匹の豚がブヒブヒ啼いていた。
私は素っ裸になり、ブヒブヒ啼くメス豚と必死になって挑みかかったが、結局、事を成し遂げる事は出来なかった。しかし、それでいいのだ。私の目的は、豚とセックスをする事ではなく、誰にも見せられない姿で暴れ回ること。それが、私のストレス発散法なのだ。
そしてまた一ヶ月間、私は仕事に精を出しストレスが溜まれば、あの秘密倶楽部に行く。
「いらっしゃい。先日のメス豚プレイ、いかがでした?」
「いやぁぁ。ははは。疲れたけど、なかなか面白かったよ。今日はアレよりももっと面白い事をしたいんだが」
「かしこまりました。では、この仮面を被ってこちらへ…」
マダムから渡された不気味な仮面を被って案内された場所は小さな個室だった。
個室は薄暗く幅1.5メートル、奥行き3メートルほどの縦長の部屋で、片側の壁一面に一枚貼りの大きなガラス窓がある。
それはどうやマジック・ミラーのようで隣の大部屋の様子が丸見えになる造りになっていた。
そこには私と同じような仮面を被った男が一人、マジック・ミラーを凝視していた。この男も私と同じでストレスを抱えているのだろう。
マジック・ミラーの向こうの部屋では私たちが見ているのも知らずに、太ったオバさんが素っ裸で踊り狂っていた。オバさんはセルロイドがあちこちに見え、たるみ切った身体を激しく震わせている。
なるほど、今日は変態ショーを見てストレス発散か。それも悪くない。私は、マジック・ミラーを見ている男に話しかけた…。
「ははは、面白いですね。あのオバさん、我々に見られているとも知らないで」
「いやぁ、先月のメス豚といちゃついてる男の方が面白かったよ」
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