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こまくさweb

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駒草出版のウェブマガジン、こまくさwebです。新刊、そして既刊の関連記事やためし読みのほか、オリジナル記事も展開予定です。
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#読書

「本と食と私」今月のテーマ:動物―返ってきた空想

「本と食と私」今月のテーマ:動物―返ってきた空想

返ってきた空想

文:田中 佳祐

 『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』は、著者のK・スギャーマ博士が「魂の冒険」に出かけて見つけた奇妙な動物たちを記録した絵本だ。
 ノーダリニッチ島は世界のどこにあるのかも分からないが、この本を読む人々の心の中ではまるで思い出の地のように、その地の気候や漂う匂いすらもイメージできるだろう。また、どの動物たちもこれからの人生の中で、どこかで出会える

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「本と食と私」今月のテーマ:運動―僕が野球漫画で紛らわしているもの

「本と食と私」今月のテーマ:運動―僕が野球漫画で紛らわしているもの

僕が野球漫画で紛らわしているもの

文:竹田 信弥

 この半年間、スポーツ漫画や小説に手が出るようになっていた。理由はわかっている。昨年の9月に怪我をしたからだ。

 月に一度の草野球の日だった。8年ぶりに草野球チームに入った。運動不足を解消するためだ。趣味の集まりではあるものの、チームは地域のリーグに所属している。2つのリーグに別れて、約1年かけて総当たり戦を行い、順位を争う。4月からリーグ

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「本と食と私」今月のテーマ:運動―野菜炒めの味は完成したけれど

「本と食と私」今月のテーマ:運動―野菜炒めの味は完成したけれど

野菜炒めの味は完成したけれど

文:田中 佳祐

 大学生の頃、運動場で太極拳を習っていた。
 心理学の先生が前に立って、放課後の時間に学生たちに稽古をつけてくれたのだ。先生の授業は教職免許を取得するための特別な科目で、土曜日に開講されていたため、ほとんど人のいないグラウンドでゆらゆらと不格好に体を動かしていた。

 太極拳の稽古の後は、学食で食事をする。平日とは異なり、限られたメニューから選ば

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「本と食と私」今月のテーマ:別れたくないもの

「本と食と私」今月のテーマ:別れたくないもの

別れたくないもの

文:田中 佳祐

 死ぬほど美味いものと聞いて、何を思い浮かべるだろうか?
 私は甘いお菓子だ。
 美味いものはたくさんある。寿司もBBQもカニも美味い。しかし、それらは「また食べたいなあ」と思わせ、生きがいを与える食べ物なのだ。
 一方で、甘いお菓子を食べると「もう死んでもいい」と口にしてしまいそうになる。最後の晩餐を選べるのだとしたら、スイーツビュッフェでお願いしたい。

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「本と食と私」今月のテーマ:異国の料理―人生に残された料理の刻印

「本と食と私」今月のテーマ:異国の料理―人生に残された料理の刻印

人生に残された料理の刻印

文:田中 佳祐

 リチャード・ローティという哲学者の本『偶然性・アイロニー・連帯』を読んでいて、旅について思ったことがある。
 この本は個人の生と他者との関係性について書いた一冊だ。ローティは「自己の偶然性」という章で、フィリップ・ラーキンの詩の一部を引用している。

 私はこの本を読み、難しくて天井を見上げた時にイタリア旅行のことを思い出した。
 旅の目的は美術を見

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「本と食と私」今月のテーマ:異国の料理―代わりのきかないもの

「本と食と私」今月のテーマ:異国の料理―代わりのきかないもの

代わりのきかないもの

文:竹田 信弥

 異国の料理を食べることと海外文学を読むことは、どこか似ている。

 僕が店主をしている本屋では、数年前から河出書房新社で刊行された池澤夏樹編纂の「世界文学全集」(2007~2011年刊行 全30巻)の読書会をしている。
 元々は、同じく池澤夏樹編纂の「日本文学全集」(2014~2020年刊行 全30巻)を、刊行するごとに毎月読書会をしていたのが始まりだ

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「本と食と私」今月のテーマ:行き止まりなんてなかった―完成しないオムライス

「本と食と私」今月のテーマ:行き止まりなんてなかった―完成しないオムライス

完成しないオムライス

文:田中 佳祐

 私は煮込み料理が好きで、その中でも特に気に入っているのがミートソーススパゲッティだ。
 ひき肉を強火で炒めて臭みを飛ばし、一度鍋から出しておく。玉ねぎとセロリと人参をブレンダーで細かく刻み、少し焦げるまで炒める。ひき肉とそれらの野菜を合わせ、ブラウンマッシュルーム、にんにく、トマト缶、ケチャップ、赤ワイン、デミグラスソース、ローレルを入れて煮る。最後にバ

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「本と食と私」今月のテーマ:行き止まりなんてなかった―アップルパイという逃避

「本と食と私」今月のテーマ:行き止まりなんてなかった―アップルパイという逃避

アップルパイという逃避

文:竹田 信弥

 カウンターに積んである林檎を2つ手にとって、流しで洗う。父が出張のお土産でくれた林檎だ。透明のビニールに7〜8個入っていた。林檎が好きなので嬉しい。しかし、実は前日に近所のスーパーで安売りしていたから自分でも買ってしまっていた。合計16個もある。
 この林檎たちが傷む前に食べ切らないともったいない。そこで、妻は林檎ジャムを作ってくれた。それでもまだ残っ

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