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ペットロスガーデン(エッセイ)

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ペットロス歴10年、庭の植物や野鳥と暮らす、日々の考察です。 書きためたエッセイを投稿しました。15話完結+2話のお話です。順に読んでいただけたら嬉しいです😊
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記事一覧

庭の木陰から

庭の木陰から

収穫が終わって、あとは落葉を待つだけのブドウの葉に、茶色の立派な芋虫を見つけた。
スズメガの一種、コズズメの幼虫らしい。
一番前に付いているお手々で葉を支えて、むしゃむしゃと食べ続けている。
顎が疲れるのか、時々休憩をはさむ。

このコスズメ、食事のお行儀が良く、1枚の葉をすっかり食べ終わるまでは、次の葉に手を出さない。
今も、残り少ない葉を、身体を折り曲げながらせっせと食べている。
葉が残りわず

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マコの涙と、赤い糸。(エッセイ)

今月、マコが生まれてから一年になる。
と言っても、マコは外で生まれた猫だから、正確な誕生日はわからないのだけれど。

去年の今頃、マコはまだこの世に降り立っていなかった。
そう思うと、今目の前にいることが、とても不思議だ。

今はもういない、私の愛した犬たち。
みんなが今いる場所から、マコはここにやってきたのだ。

母猫に置いていかれた後、母猫が本当に戻ってこないか様子を見ながら、慎重に保護してく

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ペットロスの、その先に。(エッセイ・ペットロスガーデン エピローグ)

ペットロスの、その先に。(エッセイ・ペットロスガーデン エピローグ)

自分だけの記録として、書き溜めていたエッセイ「ペットロスガーデン」を、まとめてnoteに投稿した。
実はこの話には、続きがある。

10年ぶりに、ペットを迎えたのだ。

書き溜めたエッセイは誰にも見せないつもりだったけれど、やはり書くことの中には、誰かに読んでほしいという気持ちが隠れていた。
私の庭を好きだと言ってくれる友人に、その一部を読んでもらえないかとお願いすると、友人は快諾しただけではなく

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寂しさを手放すことを諦める(エッセイ・ペットロスガーデン 最終話)

寂しさを手放すことを諦める(エッセイ・ペットロスガーデン 最終話)

最後に飼った犬、なことお別れしたあと、ペットロスが長引いた原因については、覚えがある。

私はなこがいなくなることを、覚悟しなかったのだ。

繁殖リタイア犬だったなこは、元気そうに見えても、無理な出産で体力を沢山消耗していて、引き取った後は色んな病気になった。
手術や検査、何度も窮地を乗り越えて、その度に天国と地獄のような気持ちを味わう中、私となこの間には、見えない壁が生まれていた。

「いついな

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穴を掘った先に見えたものは(エッセイ・ペットロスガーデン⑭)

穴を掘った先に見えたものは(エッセイ・ペットロスガーデン⑭)

玄関のドアが雨ざらしなので、軒を作ることになった。
考えなければならないのは、今ある植物の移動についてだ。大工さんに相談して、なるべく植物を、今の場所から動かさないで済む建築方法を選ぶ。
しかし、玄関横のアンジェラが、日陰に入ることになりそうだ。バラに陽当たりは重要だ。移動するか、このままにするか。植え替えて枯れるのは、避けたい。よりによって、アンジェラだ。そんなことになったら、それこそ相手がバラ

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生きものの、いのちの温度(エッセイ・ペットロスガーデン⑬)

生きものの、いのちの温度(エッセイ・ペットロスガーデン⑬)

(勝手に)その弱さを愛おしんでいた鳥子さん(オス)は、冬になり庭の滞在期間が長くなるにつれて、やっぱり他の野鳥を追い払うようになった(去年の鳥子さんと同一人物なのかもしれない)。
渡り鳥の鳥子さんは、秋口にやってきた頃、新参者として控えめにしていただけだったのだ。なんだったの、あの弱き者への考察は。

まあいい。
それでも、鳥子さんの下手な歌は、相変わらず大好きだ。

鳥子さんは普段、土の中にい

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弱きものの愛おしさ(エッセイ・ペットロスガーデン⑫)

弱きものの愛おしさ(エッセイ・ペットロスガーデン⑫)

完璧じゃないものに、心惹かれるのはどうしてだろう。

ここ数年、落ち葉が積もる頃、庭にやって来るシロハラの鳥子さん(後から知ったのだが、オスだった)。
今年の鳥子さんは、去年来た鳥子さんと比べて、縄張り意識が強くない。
去年の鳥子さんは、憎たらしいほど庭中の野鳥を追い払い、自分だけの庭にとても満足そうだった。
今年の鳥子さんが、他の野鳥にも水場を譲り、下手な歌を歌って過ごしているのを見ると、微笑ん

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遠慮がちに開店した、野鳥レストラン(エッセイ・ペットロスガーデン⑪)

遠慮がちに開店した、野鳥レストラン(エッセイ・ペットロスガーデン⑪)

夏の間、庭では緑が生い茂り、蝶や蝉やバッタ、カマキリ、ヤモリ、トカゲ、ヘビ、おびただしい数の生きものが、その命を爆発的に燃やす。
鈴虫やコオロギが織りなす、秋の虫の音が少しずつ小さくなり、ついには聴こえなくなる頃、生きものたちが、ひっそりと命を終えて、冬が訪れたことを知るのだ。
冬は、庭がしぃん、とする。

そんな冬。
ついにやってしまった。
ずっと、自然界に手を出してはいけないと思ってきたのに。

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庭に来る生きものたち(エッセイ・ペットロスガーデン⑩)

庭に来る生きものたち(エッセイ・ペットロスガーデン⑩)

庭でホオジロの声がするので、カーテンの隙間から、二人の会話を立ち聞きしてみる。
オスらしきホオジロが「チッチ」と鳴くと、遠くからメスが「チッチ」と返事をしている。「チッチ」「チチチ」。時には、ほぼ同時に鳴いたりして、「あっ、どうぞどうぞ」「いえ、どうぞ」なんて感じだ。
会話をしながら二人の距離は徐々に近づき、お互いが見える所まで接近した。そのうちオスが、少しずつ場所を移動し、我が家のくつろぎスペー

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庭の中にある物語(エッセイ・ペットロスガーデン⑨)

庭の中にある物語(エッセイ・ペットロスガーデン⑨)

そういう花が、いくつかある。
見た目が好きな花、というのとは少し違って、思い入れのある花。
忘れられない思い出とか、何かエピソードがあったり、まあどれも、今はいない犬たちとの思い出が絡んでいることが、ほとんどなのだけれど。

今日はそのひとつ、「千日紅(センニチコウ)」にまつわる話。

あれはまだ、今の庭をつくる前。
ターシャ・テューダーのような広い庭に憧れながら、アパートの1階のベランダで、沢

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薔薇に救われた話(エッセイ・ペットロスガーデン⑧)

薔薇に救われた話(エッセイ・ペットロスガーデン⑧)

玄関の横に、「アンジェラ」というバラがある。
淡い色の花が多い我が家の庭には珍しく、蛍光をほんの少し含んだような、鮮やかなピンク色の、お姫様みたいなバラだ。
アンジェラはどんなに強く剪定をしても、どんどん新しい枝を伸ばす。
虫が付いて葉が落ちても、また必ず返り咲く、頼りになる存在だった。

しかし、花付きがよく、あまりに鮮やかに咲くので、その蛍光ピンクは私には眩しくて、玄関横には派手すぎるからと、

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詩「ひとつだけ」(エッセイ・ペットロスガーデン⑦)

詩「ひとつだけ」(エッセイ・ペットロスガーデン⑦)

「ひとつだけ」

お供えのバナナはもう 
買わなくていいよ

お花は飾ってくれてもいいけど
飾らなくてもいい

なこはもうこれ以上
ほしいものなんてないの

なこのものをずうっと
たいせつに
取っておいたりしなくていいよ

お気に入りだったおもちゃも
編んでくれた セーターも
天国へは 持っていけないの

持っていけるのは
たましい ただ そのひとつだけ

たくさんの
うれしいと
たのしいと
だい

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葉っぱをつけた店長さんと、はじめてのハーブ料理。(エッセイ・ペットロスガーデン⑥)

葉っぱをつけた店長さんと、はじめてのハーブ料理。(エッセイ・ペットロスガーデン⑥)

キッチンの窓辺に這わせたブドウの葉は、夏が近づくにつれてどんどん大きくなり、顔が隠れるくらいの大きさになった。
これから、優しい木陰を作るだろう。

まめではない、私の庭に、丈夫なハーブは強い味方だった。
なこ(愛犬のパグ)がいなくなってから、荒れ放題の庭の中で、ハーブだけはしっかりと生き延びてきた。
ローズマリー、様々なミント、オレガノ、フェンネル。
思えば以前から沢山のハーブを植えている。しか

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園芸店にて(エッセイ・ペットロスガーデン⑤)

園芸店にて(エッセイ・ペットロスガーデン⑤)

友人のNちゃんと、ロイホでランチをして別れた後、そこから車で15分ほどの園芸店に寄ってみることにした。

うちからは少し遠いけれど、以前はよく通ったものだ。
ホームセンターには置いていないような、センスのいい宿根草や、オールドローズなんかも数多く揃えられていたからだ。
何か欲しいものがあったわけではないけれど、近くまで来たこともあって、久しぶりに行ってみた。

ガラス張りの店内は、前とは少し雰囲気

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