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庭に来る生きものたち(エッセイ・ペットロスガーデン⑩)

庭でホオジロの声がするので、カーテンの隙間から、二人の会話を立ち聞きしてみる。
オスらしきホオジロが「チッチ」と鳴くと、遠くからメスが「チッチ」と返事をしている。「チッチ」「チチチ」。時には、ほぼ同時に鳴いたりして、「あっ、どうぞどうぞ」「いえ、どうぞ」なんて感じだ。
会話をしながら二人の距離は徐々に近づき、お互いが見える所まで接近した。そのうちオスが、少しずつ場所を移動し、我が家のくつろぎスペース、パーゴラの中にメスを誘う。こんなに家に近づくなら今度、バードバスを置いてみよう。水浴びするかもしれない。

オスが移動すると、メスからは木の陰で見えない位置になった。
見ているとオスは完全に油断し、体を大きく膨らませて毛づくろいをしたり、頭を枝に擦りつけたり、なんとウンチをしながら「チッチ」と生返事をしている。女の長話に付き合うのが面倒になったのだろうか。携帯をいじりながら適当な返事をされたかのようなメスは、いいかげんな対応に腹を立て、離れた場所に飛んで行ってしまった。声の距離が遠くなったことに気づいたオスは、きょろきょろと顔を動かし、焦り始める。そしてまた、メスのそばに行き、一から真剣に会話を再開したのだった。

庭には、シラカシやシマトネリコ、カツラ、ケヤキといった、止まり木になるような木がたくさんあり、家の裏に林があることも手伝って、沢山の野鳥や虫が訪れる(住んでいるものもいる)。
夏は毎日、おびただしい数の命が生まれ、死んでいく。命が大爆発していて眩しいほどだ。

希少なルリボシカミキリと勘違いし、苦労して捕まえて、色んな家の子どもにあげてしまった水色のラミーカミキリ(ラミーはよくいるものらしい)は、青色のお茶の原料、コモンマロウの葉の上でしか見たことがないという、青の不思議。

コモンマロウの葉が好きらしい。

コモンマロウの花で入れたお茶。こんな色になる。


10頭くらいで連なって飛んでいる、夢みたいなモンシロチョウを見た時は、実はここは天国で、私はもう、死んでしまったのかと思った。 

ここ数年、冬には、縄張り意識の強いシロハラが、庭を気に入ったのか長期滞在して、敷地に入る野鳥をことごとく追い払ったので(シロハラの縄張りは500㎡らしい)、他には誰も来なくなり、「鳥子さん」と名付けた彼女と、昼間は二人きりで冬を過ごした(後に、縄張り意識が強いのは、オスだとわかった)。
鳥子さんは、冬の間1日中、庭の落ち葉をめくって、虫を探して過ごしていたが、暑い所には住めない渡り鳥なので、本に書いてある通り、ゴールデンウイークには北へ旅立って行き、その後は追い払われていた他の野鳥たちが庭に戻って来た。

バードバスで水を飲む、庭のボス・鳥子さん。


通りかかった猫も、木や草の木陰で昼寝をしたりしている。
最近来ないハニーは、窓に這わせたブドウのつるに体を預けて、ハンモックのようにして、安心して眠っていたっけ。

今では飼い犬がいない我が家の庭に、生きものが来るのは、とても嬉しい。心に、小さな灯りが、「ポッ」と点ったような気持ちになるのだ。
珍しい鳴き声が聞こえたらすぐ、庭をチェックだ。

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