神無月 赫鵺

傑作なんて、書きません。

神無月 赫鵺

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記事一覧

踊り食い

一匹のクラゲが、僕を見下ろしている。 息ができない、沈んでいくだけ。 体が冷たい、もう終わりかけ。 どうしてこんなことになってしまったのか、今となってはどうでもい…

神無月 赫鵺
7か月前

忘れたいこと

好きになった人を忘れるは 悪い習慣をやめるのに似ている。 忘却の隙間を縫って 何度でも蘇る記憶がある。 人間様の崇高な理性も こればっかりには敵わない。 頭がおかしく…

堂々巡り

人生に余裕がある人を見ると、とても妬ましい気持ちになる。 なぜオレじゃないのだ?と本気でそう思うのだ。 馬鹿げているだろうか。 しかし、実際そうなのだから仕方ない…

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【小説】負け犬のポーズ

ぽり、ぽり、ぽり、…ぐびっ。 6畳一間の暗い部屋で、女はまだ眠れずにいた。 時計は深夜2時を回ろうとしている。 いつものことだった。 女が勤めている会社では、気に食…

【小説】ペーパーライクきのこ

「こんなんで許すかよ。」 悠太の手に持っているキノコの笠には“ごめんね”という文字が刻まれていた。 今、小学生の間で流行りのペーパーライクきのこである。 このキ…

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【小説】クマのぬいぐるみ

エリザベスはこれっぽっちも寂しくなかった。 いつもベティがそばに居たから、友達がいなくても平気だった。 6歳の誕生日にプレゼントでもらったクマのぬいぐるみであるテ…

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踊り食い

踊り食い

一匹のクラゲが、僕を見下ろしている。
息ができない、沈んでいくだけ。
体が冷たい、もう終わりかけ。
どうしてこんなことになってしまったのか、今となってはどうでもいい。
もはや泳ぐ気力も、体力も無い。
抗うのも面倒だから、いっそ身を委ねてみようと思う。
水に溶けて、無くなるように、体を意識から切り離そう。
深く、深く、眠ってしまおう。

そう諦めた時だった。
突然、酸素が脳に巡った。
肺に溜まった水

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忘れたいこと

好きになった人を忘れるは
悪い習慣をやめるのに似ている。
忘却の隙間を縫って
何度でも蘇る記憶がある。
人間様の崇高な理性も
こればっかりには敵わない。
頭がおかしくなりそうだ。

ふと、元通りにしたくなる時がある。
思い出したくないなんてのはやっぱり嘘で
またあのフワフワした感じに身を委ねたくなる。
そうしてもいいけど、そうしてはダメ。
頭がおかしくなりそうだ。

何が思い出す引き金か
ビクビク

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堂々巡り

堂々巡り

人生に余裕がある人を見ると、とても妬ましい気持ちになる。
なぜオレじゃないのだ?と本気でそう思うのだ。

馬鹿げているだろうか。
しかし、実際そうなのだから仕方ない。

なぜ、あの高級車のハンドルに手をかけて、サングラスをしているくせに眩しそうな顔をして渋い雰囲気をだしている男がオレじゃないのか。

なぜ、あのダイヤが埋め込まれた時計で時間を確認するも、光が反射して見にくくて戸惑っている男がオレじ

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【小説】負け犬のポーズ

【小説】負け犬のポーズ

ぽり、ぽり、ぽり、…ぐびっ。

6畳一間の暗い部屋で、女はまだ眠れずにいた。
時計は深夜2時を回ろうとしている。
いつものことだった。

女が勤めている会社では、気に食わないことばかりだった。
取引先とうまく連携が取れなくて破談したり、上司が評価するのは分かり易く仕事ぶりをアピールしている人ばかりで地味な作業に徹している自分は評価されなかったり。
中でも特にムカついていたのが、後輩がインスタグラム

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【小説】ペーパーライクきのこ

【小説】ペーパーライクきのこ

「こんなんで許すかよ。」

悠太の手に持っているキノコの笠には“ごめんね”という文字が刻まれていた。
今、小学生の間で流行りのペーパーライクきのこである。

このキノコは、土から引き抜いた際に採取した人間の念じた感情が内に込められ、そのキノコを相手に渡すと、笠が開いてメッセージが表示されるという摩訶不思議な植物であった。
古代マシュー王国で盛んに栽培されたものだが、そのメカニズムは未だ解明されてい

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【小説】クマのぬいぐるみ

【小説】クマのぬいぐるみ

エリザベスはこれっぽっちも寂しくなかった。
いつもベティがそばに居たから、友達がいなくても平気だった。

6歳の誕生日にプレゼントでもらったクマのぬいぐるみであるテディは、学校のクラスのどの男子よりも紳士でカッコいい存在だった。
いつでもエリザベスの悩みを最後まで真剣に聞いてくれたし、遊ぶ時も寝る時もずっと一緒にいた。

「だから寂しくないの。友達なんていなくても全然へーき。」

「そうはいっても

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