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2019年 この三冊

①『月』辺見庸 『もの食う人びと』の辺見庸が2016年に相模原の障害者施設で起きた殺傷事件に切り込んだ長篇小説。現実の凄惨なる事件に対して、虚構の力が目を背けずに、…

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6か月前
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2020年 この三冊

①『ペスト』アルベール・カミュ(新潮文庫) 新型コロナウイルスの感染が拡大する中、カミュの「ペスト」が広く読まれたということに滑稽なものを感じないことはない。し…

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6か月前
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2021年 この三冊

①『心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋』 斎藤環・與那覇潤 ひきこもりと向き合う精神科医とうつを体験した歴史学者による九つの対話をまとめた一冊。タイト…

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6か月前
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2022年 この三冊

①『すばらしい新世界』 オルダス・ハクスリー オーウェルの『1984』やブラッドベリの『華氏451』、ザミャーチン『われら』と並び称されるディストピア小説。 人類…

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6か月前
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2023年 この三冊

①磯野真穂『ダイエット幻想』(ちくまプリマ―新書) そのタイトルから推測される通りダイエットについて考える本。しかし、ここで問われているはダイエットとどまる話では…

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6か月前
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岩波文庫 日本近代短篇小説選 収録作品一覧

 明治篇1 細君/坪内逍遙 くされたまご/嵯峨の屋おむろ この子/山田美妙 舞姫/森鷗外 拈華微笑/尾崎紅葉 対髑髏/幸田露伴 こわれ指環/清水紫琴 かくれんぼ/斎藤緑…

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8か月前
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多和田葉子『献灯使』読書会レジュメ(2016/7/17)

多和田葉子『献灯使』読書会 (ページ番号は講談社の単行本に対応) ◎「献灯使」の世界 ●世界同時鎖国状態 → 外部・他者の喪失? 外国語の輸入出 = 相対化の確保…

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8か月前
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木村敏『あいだ』読書会レジュメ(2016/7/17)

『あいだ』木村敏(弘文堂思想選書/ちくま学芸文庫) 章題一覧と用語解説(引用ページ数は単行本に対応しています) ●章題 1 はじめに 2 生命の根拠への関わり 3 主体と…

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8か月前
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國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(補足)

4章 人間の本質としての意識 ●『エチカ』第二部――身体と精神 ・思考と存在の同一性(並行論) → 同じ実体を思惟と延長、別々の属性でとらえている  ↑ カントによ…

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8か月前
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國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)3/3

3章 総合的方法の完成 ●『エチカ』第1部 自己原因 ・その本質が存在を含むもの。その本性が存在するとしか考えられないもの。 実体 ・それ自身の内に在り且つそれ自身…

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8か月前
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國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)2/3

2章 準備の問題 ●『知性改善論』 準備の問題 準備の無限遡行 準備→ 準備のための準備→ 準備のための準備のための準備…… 方法の三つの形象  道具・標識・道 …

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8か月前
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國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)1/3

(ページ番号は岩波新書『スピノザ 読み人の肖像』の参照ページ) 1章 読む人としての哲学者 ●『方法序(叙)説』×『デカルトの哲学原理』 デカルトの命題「私は考え…

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8か月前
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柄谷行人『定本 日本近代文学の起源』を読む(2022/12/11読書会レジュメ)

1章「風景の発見」 7章「ジャンルの消滅」の概要 (引用ページは岩波現代文庫『定本 日本近代文学の起源』に準拠) ◎1章 風景の発見 1 漱石の『文学論』 「文学…

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9か月前
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心をめぐる読書 おすすめの5冊

この何年か、心をめぐる本をぽつぽつ読んでいたが、近頃、自分の中での考えごとが一段落した気がしている。 今後も心理学関連の本を読むことはあっても、読むこちらの態度…

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9か月前
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2019年 この三冊

①『月』辺見庸
『もの食う人びと』の辺見庸が2016年に相模原の障害者施設で起きた殺傷事件に切り込んだ長篇小説。現実の凄惨なる事件に対して、虚構の力が目を背けずに、どのような言葉を持てるかを示した力作だった。人を傷つけもするし、怒らせもする、それによって逮捕されたり、人が殺されたりもする。そのような表現することの怖さを読みながら感じた。

②『ハイデガーの思想』木田元
今年は新書をたくさん手に取っ

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2020年 この三冊

①『ペスト』アルベール・カミュ(新潮文庫)
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、カミュの「ペスト」が広く読まれたということに滑稽なものを感じないことはない。しかし、この小説がたくさんの人に読まれるのは良いことだと思う。
「ペスト」は三人称の文体が持つ自在さが存分に駆使された長編小説だ。ある時は一人の人物のごく近くに寄り添い、あるところでは刻刻と変容する街を広く見渡す。
コロナ渦を生き抜く知恵が見

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2021年 この三冊

①『心を病んだらいけないの? うつ病社会の処方箋』 斎藤環・與那覇潤
ひきこもりと向き合う精神科医とうつを体験した歴史学者による九つの対話をまとめた一冊。タイトルだけでは、いかにも憂鬱に悩む人に向けて書かれた著作に見えて、実際、表紙の隅には「心を楽にする9つのヒント!」とも書かれている。
しかし、本書はそれに留まるものではなくて、ここにあるのは今日の日本社会に切り込んでいく批評の言葉だ。
今日の日

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2022年 この三冊

①『すばらしい新世界』 オルダス・ハクスリー
オーウェルの『1984』やブラッドベリの『華氏451』、ザミャーチン『われら』と並び称されるディストピア小説。
人類は工場生産され、生まれる前から序列や役割が決まっている。ディストピアらしく人々はさぞ窮屈な暮らしを強いられているだろうと思いきやそんなことはない。
社会は快適に整備されて安定し、娯楽にも事欠かない。人々は悩みを持たず、健康と若さを維持して

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2023年 この三冊

①磯野真穂『ダイエット幻想』(ちくまプリマ―新書)
そのタイトルから推測される通りダイエットについて考える本。しかし、ここで問われているはダイエットとどまる話ではない。ここで終始問題とするのは主体が社会や他者といかに向き合っているのかについてだ。実際の具体的な他者ばかりではない、自らの内面に入り込んだ他者、その他者の視線や声とどう付き合っていくか、本書はそれを考える出発点となりえる一冊だ。

②メ

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岩波文庫 日本近代短篇小説選 収録作品一覧

 明治篇1
細君/坪内逍遙
くされたまご/嵯峨の屋おむろ
この子/山田美妙
舞姫/森鷗外
拈華微笑/尾崎紅葉
対髑髏/幸田露伴
こわれ指環/清水紫琴
かくれんぼ/斎藤緑雨
わかれ道/樋口一葉
龍潭譚/泉鏡花
武蔵野/国木田独歩
雨/広津柳浪

 明治篇2
倫敦塔/夏目漱石
団栗/寺田寅彦
上下/大塚楠緒子
塵埃/正宗白鳥
一兵卒/田山花袋
二老婆/徳田秋声
世間師/小栗風葉
一夜/島崎藤村
深川

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多和田葉子『献灯使』読書会レジュメ(2016/7/17)

多和田葉子『献灯使』読書会
(ページ番号は講談社の単行本に対応)

◎「献灯使」の世界
●世界同時鎖国状態
→ 外部・他者の喪失?
外国語の輸入出 = 相対化の確保?

●日本の描写
・外来語の禁止
・鎖国→ 沖縄が外国的になっている
・国会、警察の民営化
・脱電力化→ 情報不足状態、ミニマムライフ
・家族制度の希薄化
・日本語の変容 (「御婦裸淫の日」「未知案内」)(「迷惑」「ありがとう」は

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木村敏『あいだ』読書会レジュメ(2016/7/17)

『あいだ』木村敏(弘文堂思想選書/ちくま学芸文庫)
章題一覧と用語解説(引用ページ数は単行本に対応しています)

●章題
1 はじめに
2 生命の根拠への関わり
3 主体と転機 
4 音楽のノエシス面とノエマ面
5 合奏の構造 
6 間主体性とメタノエシス性
7 主体の二重性
8 共通感覚と構想力
9 「あいだ」の時間性
10 アレクシシミアの構想力
11 「あいだ」の生理学から対人関係論へ
12

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國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(補足)

4章 人間の本質としての意識

●『エチカ』第二部――身体と精神
・思考と存在の同一性(並行論)
→ 同じ実体を思惟と延長、別々の属性でとらえている
 ↑
カントによって否定される→ 世界は思考されるようには存在していないかもしれない

・精神の原理
人間以外の存在も精神を持っているが、人間の身体は他の存在よりもより複雑な精神を備えている。
→ 人間精神は身体の変状によって身体を認識する p174

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國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)3/3

3章 総合的方法の完成

●『エチカ』第1部
自己原因
・その本質が存在を含むもの。その本性が存在するとしか考えられないもの。
実体
・それ自身の内に在り且つそれ自身によって考えられるもの。その概念を構成するのに他のものの概念を必要としないもの。
・実際に存在しているもの。『エチカ』では神であり自然。 p135
属性
・知性が実体についてその本質を構成していると知覚するもの。
・一般にはそのものに

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國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)2/3

2章 準備の問題

●『知性改善論』
準備の問題 準備の無限遡行
準備→ 準備のための準備→ 準備のための準備のための準備……

方法の三つの形象  道具・標識・道
・道具… 知的道具としての方法 →それを作るための道具 に遡行してしまう

・標識… それに照らせば知の確実性が確認できる基準・標識
(例 明晰判明 マニュアル)
→その基準・標識の真理性を確認するための別の基準・標識が必要になる

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國分功一郎 『スピノザ 読む人の肖像』読書会レジュメ(2023/10/8)1/3

(ページ番号は岩波新書『スピノザ 読み人の肖像』の参照ページ)

1章 読む人としての哲学者

●『方法序(叙)説』×『デカルトの哲学原理』
デカルトの命題「私は考える、故に私は存在する」の修正する p40
→ 隠された三段論法がある
「考えるためには存在しなければならない」という大前提が説明されていない
→ 「私は考えつつ存在する」
→ 証明する命題から描写する命題へ修正

●『省察』×『デカル

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柄谷行人『定本 日本近代文学の起源』を読む(2022/12/11読書会レジュメ)

1章「風景の発見」 7章「ジャンルの消滅」の概要
(引用ページは岩波現代文庫『定本 日本近代文学の起源』に準拠)

◎1章 風景の発見

1 漱石の『文学論』
「文学」を形式において見る。
西洋文学の発展を必然として見ない。
→ ほかの道もありえたが、現在のようになったものとして西洋文学を見る。
p15
「漱石が拒絶したのは、西洋的な自己同一性(アイデンティティ)であった。彼の考えでは、そこには「

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心をめぐる読書 おすすめの5冊

この何年か、心をめぐる本をぽつぽつ読んでいたが、近頃、自分の中での考えごとが一段落した気がしている。
今後も心理学関連の本を読むことはあっても、読むこちらの態度は変わって来ると思う。
これまで読んで来た中で、おすすめの本を紹介していく。

斎藤環『思春期ポストモダン 成熟はいかにして可能か』(幻冬舎新書)
著者は、ラカン精神分析の解説者、ひきこもり問題の第一人者、対話型心理療法オープンダイアローグ

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