2022年 この三冊

①『すばらしい新世界』 オルダス・ハクスリー
オーウェルの『1984』やブラッドベリの『華氏451』、ザミャーチン『われら』と並び称されるディストピア小説。
人類は工場生産され、生まれる前から序列や役割が決まっている。ディストピアらしく人々はさぞ窮屈な暮らしを強いられているだろうと思いきやそんなことはない。
社会は快適に整備されて安定し、娯楽にも事欠かない。人々は悩みを持たず、健康と若さを維持して暮らしている。それは、人が物を考えるということが巧妙に取り除かれた世界、ただ一つ、考えるということがない限りは、抑圧も不自由もない、すばらしい世界なのである。
ユートピアと見紛うこの世界をいかに否定していくのか、それは今日的な課題でもあると感じた。

②『幸福な監視国家・中国』 梶谷懐 高口康太
一章の扉には『すばらしい新世界』が引用されている。ハクスリーを読むきっかけとなったのが本書だった。刊行は2019年、本書に描かれているのは既に現代の中国ではない。そして、また本書は単に中国の社会を問題とする本ではない。
ここに描き出されるのは快適さや効率性と引き換えに管理と監視の強化が進行する社会の姿だ。

③『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』 キルメン・ウリベ
十年以上続けている読書会では今年は大西巨人『神聖喜劇 第一巻』、カポーティ『冷血』、柄谷行人『日本近代文学の起源』などを読んだ。中でも印象深いのが本書だった。
話者がおよそ66万と言われるバスク語によって書かれた長編小説は作家自身とおぼしき語り手を主人公に、その言語とともに積み重ねられた土地と家族の記憶を描き出していく。

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