2023年 この三冊

①磯野真穂『ダイエット幻想』(ちくまプリマ―新書)
そのタイトルから推測される通りダイエットについて考える本。しかし、ここで問われているはダイエットとどまる話ではない。ここで終始問題とするのは主体が社会や他者といかに向き合っているのかについてだ。実際の具体的な他者ばかりではない、自らの内面に入り込んだ他者、その他者の視線や声とどう付き合っていくか、本書はそれを考える出発点となりえる一冊だ。

②メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』(新潮文庫)
他の本で言及されたり、映画、漫画で触れることもあって何となく知っているけれど、実は読んだことがないという古典はたくさんある。「フランケンシュタイン」もまたそんな古典の一つだったが今年ようやく読んだ。
SF、ミステリ、怪奇譚、悲劇、パロディ、書簡体小説とさまざまな切り口から読むことが出来る小説だが、私は二通りの孤独を描いた名作としてこれを読んだ。孤独に苛まれたそれぞれが長く長く喋り続ける話、そんな小説として現代にも耐えうるリアリティを持っていた。

③耕治人『一条の光・天井から降る哀しい音』(講談社文芸文庫)
これから何かの力が伸びていくことはない、もう新たなものに出会うことがあるとも思えない。この先、今、持ているものや出来ていること少しずつ失っていくしかない。そういう状況にあって、小説は、あるいはフィクションは何になるか。本書を読みながらそのようなことを考える。
認知症の妻と暮らしながら、やがて自らも癌を患う作家の姿を描いた小説集。一つ一つの文章の中でその巧みさに驚く、ということはない。それでも、じりじりと辛くなり、困り果てながらも続いていく暮らしがこの小説にしかない生々しさで描かれていた。

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