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Random Walk

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執筆したショートストーリーをまとめています。
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#2000字のホラー

【掌編小説】誰が為の絵画

【掌編小説】誰が為の絵画

「ねえねえ、AIの呪文に『入力してはいけない言葉』があるって知ってた?」
ある日の昼休み、クラスメイトの****がひそひそ声で言ってきた。
「AIって『Imaginarygifts』のこと? 入れちゃいけないって、その……エッチな言葉とか……?」
内容が内容だけに私も小声で返事をする。
「違う違う。もっとやばいワードがあるって話」
「聞いたことないなぁ」
 『Imaginarygifts』

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【掌編小説】Princess On The Bridge

【掌編小説】Princess On The Bridge

綺麗な子だな、というのが彼女の第一印象。特に惹かれたのはその瞳だった。強い意志を感じさせる少し怖いくらいの瞳。
転校してきてすぐの私は、彼女が『橋姫』と呼ばれているのを聞いて首をかしげた。すると最初に出来た友達の由衣が答えてくれた。
「名前が『橋本美姫』だからだよ」
「確かにお姫様みたいだね」
教室の輪の中心にいる彼女を見ながら思わず呟いた。
「明日香もやっぱりそう思う?あんなに綺麗なら毎日が楽し

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獺祭魚

獺祭魚

このところずいぶんと暖かくなってきたけれども、山中にはところどころに残雪が見え、さらさらと流れる渓流の水もまだ冷たさを残しているようだ。滑り止めのある長靴を履いているとはいえ、油断して川にでも転がり落ちてしまえばことだな、と考えながらごろごろとした岩場を渓流に架かった細い吊り橋の上から眺める。

釣りを始めてからずいぶんと経つ。子供が独立して肩の荷が下り、定年退職になってこれで家でゆっくりできると

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『このアカウントは存在しません』

『このアカウントは存在しません』

『このアカウントは存在しません』

画面に出てきたメッセージを見て俺は思わずほくそ笑んだ。

お、こいつもついにアカウント消したか。
こいつを狙い始めてから確か……2週間か、まあだいぶ持ったほうかな。さて、次は誰を狙おうかな。

俺はスマホの画面をスクロールさせて適当なアカウントを探していく。
俺の趣味は…なんて言えばいいのだろうか、アカウントを削除に追い込むこと。

標的にしたアカウントの何気な

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この恋と引き換えに

この恋と引き換えに

命と引き換えにしてもいい、と思えるような恋をしたことはあるだろうか。
その人の事を考えるだけで居ても立ってもいられずに我が身を掻きむしってしまうような情熱的な恋。

毎朝の通勤時、乗り換えのための一駅だけのわずかな区間。
いつも同じ時間、いつも同じ車両に乗り合わせる女性に僕は恋をした。

早朝6時台のまだ人もまばらな駅のホームで、凛とした姿勢で電車を待っているその姿は荒野に咲く一輪の薔薇を思わせる

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隙間

隙間

同級生で友人のアキラが行方不明になった。
アキラはある日の放課後、学校を出たまま家に帰ってこなかったのだ。
当初は本人の意思による失踪もしくは誘拐と思われたけど、置き手紙もなく、また誘拐犯からの連絡もなく彼はその日から姿を消した。
神隠し、と噂が立つようになったのも当然かもしれない。

友人の僕の所にも警察が聴取に訪れたけれど、残念ながら彼が姿を消す理由に僕はまったく心当たりはなかった。

彼が姿

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ただいま工事中

ただいま工事中

「うわ、ここもかよ」

ぼやきながらブレーキを踏んで車を停車させる。フロントガラス越しの目の前には工事中の看板が立っていた。とぼけた顔でヘルメットを脱いで頭を下げる人のイラストが描かれているそれを、今日はもう何度見た事だろうか。舌打ちをしながら後ろを確認し、効きの悪いハンドルを回して何度も切り返しながら元来た道へと車の向きを変える。

今日はついてないな。

一人きりの車内をいいことに大声でぼやき

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オフィスレスワーカー

オフィスレスワーカー

『荷物のお届け先が見当たりません』。
そんな内容のメールを見て都築康夫は目をひそめた。

おかしいな。宛先は会社の住所にしていたはずだ。
業務で使うつもりで私的に購入したハードディスクを、会社の住所に送ったつもりだった。

送付先の履歴を確認するが、住所は間違っていない、はずだ。

なにしろ自分が勤める会社とはいえ、名刺の一つも持っていない。
それどころか、この4月に元居た会社から転職で今の会社に

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