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自作ショートストーリー

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2017年5月の記事一覧

ミルクティー(アールグレイ)

ミルクティー(アールグレイ)

「え?まだ届いてない!?」

電話口で麻子が声を荒らげる。いつもはもっと穏やかな性格の持ち主なのだが、納期が迫っていて焦っているのだ。

「困ります!今日までに来てないと間に合わないのに…」

ぎゅっと唇を噛みしめる。28歳の時にOLをやめて念願のネットショップを開店し、アクセサリーやアロマグッズを中心に徐々に若い女性からの人気を集めつつ、3年経ってようやく経営が軌道に乗ってきたところだった。

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カモミールティー

カモミールティー

「ばあちゃん、どうして毎朝毎朝、これ飲まなくちゃいけないんだよ。」

五分刈り頭の少年がブツブツと文句を言っている。

「ばーちゃんが朝に作るのは決まってこれだけどさ……悪いけどおれ美味しいと思ったこと一度もないんだよ。」

年は小学3年生くらいだろうか。背丈は同年代と比べるとやや低めだが、口達者で実年齢よりもませている印象がある。

「……草太は好かぬかのぉ。」

とぽとぽ、

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立ち止まる(ショートストーリー)

凪は浜辺を歩いていた。

朝の冷たい潮風がジョギングで火照った頰に気持ちいい。

足を止め、う〜〜〜〜〜〜ん、とめいっぱいの伸びをして、太陽に向き直る。

これからまた、新しい1日が始まるのだ。

ワンワン、とゴールデンレトリバーのジュリーがかけてくる。

どうやら父が鎖を外してやったらしい、凪を追って追いついて来た。

「ジュリー、おはよう。」

凪の頰をペロペロと舐めながら、尻尾をぶわんぶわん

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止マレナイ(ショートストーリー)

冬吾は走っていた。

なぜ走っているのかもわからないまま、走り続けていた。

誰かが追ってくるわけでもなく、どこかへ行こうとしているのでもないのに

彼は走り続けていた。

(……そういえば、いつから走ってるんだっけ……?)

汗がしたたり落ちる頭で呼吸の合間に考える。
そういえば、ずいぶん長いこと走り続けているような気もする。

(……立ち止まって、いいんだっけか)

誰かの許可が必要なのだろう

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チャイティー

チャイティー

「だーかーらー、ちょっと黙ってろって。」

エプロン姿がしっくり来ていないタカシの、いかにも迷惑そうな声がキッチンいっぱいに響く。

「だってだってぇ、ネットにそう書いてあったんだもん。チャイにはシナモン、ジンジャー、ブラックペッパー、クローブ、ハッカクって。」

負けじと声を張り上げるのは今年ようやく18歳になるアカリだ。Tシャツに短パン、ポニーテールのいでたちで、細身の体つきをして

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