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多数決は正義?戦争ロールプレイを通して考える「本当の正義」



人類のウェルビーイングに向けて

1.はじめに

イスラエルとハマスの紛争に関するニュースが連日報道されています。
BBCニュースによると、
イスラエルとハマスの軍事衝突は、2023年10月11日時点で、双方で明らかになった死者数が2100人を超えているとのこと。
イスラエル軍は、ガザ地区でのハマスに対する攻撃を続けていくとしています。
ハマスもロケット弾など発射して応戦し、イスラエル軍が反撃を開始したことで、紛争が拡大しました。
終焉の兆しが見えません。

ロシアによるウクライナ軍事侵攻も1年半以上経っており、なおも継続しています。

他にも、世界を見渡すと終わりの見えない実にたくさんの紛争が起きています。

なぜこんなにも人々は紛争をしないといけないのでしょうか?
何がきっかけでこのようなことになってしまったのでしょうか?

おそらく、原因は複雑かつ多岐にわたる政治、歴史、地理、および国際関係の要因が絡み合っているので、簡単に言葉で説明できることではないかもしれません。

ですが、テロ行為や無差別攻撃自体は許されるものではありませんし、このままでよいとは誰も思っていません。
これからの社会を担う子ども達にも、世界で起こってる紛争に目を向け、それらをきっかけに、何事においても自分事として捉え、社会生活に生かしてほしいと考えています。

そんな中、ふと、NHKの「ようこそ先輩課外授業」というテレビ番組があったのを思い出しました。
若い方々はおそらく聞いたこともない番組名かと思います。
その中で、紛争がテーマになってる回があり、その映像を参考に以前、自分のクラスでも似たような授業をした記憶がよみがえってきました。
もう10年以上前のことです。
調べてみると、ありました。
先生なら、申し込みをすれば、DVDを貸してもらえるようです↓

そこでは、小学校6年生向けに講師の先生がロールプレイングの授業をしていました。

自分のたよりない記憶と当時メモした自分の実践ノートを参考に、再度自分が授業をするとしたら、どうなるか少しアレンジしてみました。

以前は国語の教科書に「平和のとりでを築く」という教材があり、国語の授業でも平和について討論させることができました。
10年ほど前もこの平和のとりでを築くの学習のあとに実践した記憶があります。
この教材は消えて、「鳥獣戯画を読む」になってしまいましたので、平和についての学習は他の教科で補わないといけません。
残念で仕方ありません…

この授業実践を通して、多数決という問題解決方法の課題と人類のウェルビーイングについて考えていきたいと思います。

2.どうして戦争は起きるのか?

単元名:多数決って本当に正しい答え?(2時間扱い)
①戦争ロールプレイによる話し合い活動
②クラス遊びについての話し合い活動

対象:小学6年生(2学期後半もしくは3学期に実施)

ねらい:
①戦争ロールプレイングを実施し、立場を明確にして話し合い、戦争の原因やその解決方法について自分の考えをもつことができる。
②学校生活の中で生じた意見の対立の解決方法について考え、話し合う。

今回は、①の戦争ロールプレイについてのみ紹介していきます。

まず、はじめに最近のニュースでみた戦争について意見を出させます。
「最近テレビやネットのニュースで戦争についてみた人いる?」

「今朝のニュースで、イスラエルとハマスのことやってた」
「きのうのニュースでは、たくさんの子ども達が被害にあってるっていってた。かわいそう…」
「ハマスってパレスチナの武装組織らしいけど、これって何?」
「イスラエルも組織の名前?」
「イスラエルは国の名前だよ」
「じゃあ、国と武装組織が戦ってるってこと?」

「そもそもどうして戦争になったと思う?」

「それはやっぱり、どっちかが先に攻撃したからだよ」
「でも、一方が攻撃しただけでは、戦争にはならないんじゃない?」
「やられたらやり返すでしょ」
「じゃあ、どちらかが先に攻撃したとして、その攻撃した側はどうして攻撃したんだろうね」
「何か嫌なことでもされたんじゃないかな…」
「理由なければ、ミサイルなど撃たないだろうし」

「やっぱり戦争には何か理由がありそうだね」
「今日は、戦争ってどうして起きるのかみんなで考えてみようか?」

このようにして、子ども達と対話しながら、疑問がでてくるまで意見を出させ、問いをつくります。

3.ロールプレイのオリエンテーション

次にロールプレイのオリエンテーションです。
以下の図をプロジェクターで映し出し、説明していきます。
担任はファシリテーターとなって授業をすすめ、原則、中立の立場をとります。
(賛成と反対の数にものすごい偏りがあったときは、少数派の方の手助けをすることもあります)

オリエンテーションで提示する図

ここに、となり合わせになったA国(平和王国)とB国(ともぞう王国)があります。
赤い線が国境です。
両国の中央に大きな川が流れており、平和王国には水の量を調節する水門があります。
この水は、農業に使われる貴重な水です。

車が通ることのできる街道は1つだけしかありません。
この街道を南下すると、リエゾン王国があります。
両国とも、稲作農業をはじめとした農業王国で、リエゾン王国への農産物の輸出が経済の基盤となっています。

平和国は、その名前の通り、武器をもたない平和な国です。
一方、ともぞう王国は武器を持っている国です。

ここまで説明した後、平和王国の大統領をクラスから選出します。
大統領になったら、話し合いの司会をすることを伝えておきます。

4.干ばつ発生

ある年、この両国一帯に干ばつが起こり、水不足により、農作物に大きなダメージがありました。
川の水の量も減ってきています。
このままでは田畑の水が足りません。
そこで、平和国は水門を閉めて、自国の水量の確保をしました。

干ばつ発生

「水門を閉めたらどうなるとおもう?」

「平和王国は、なんとか農業ができるよ」
「ともぞう王国は水がさらに減っちゃうから、農業できなくなるんじゃない?」
「ともぞう王国の水が減ったって、うちらの平和王国には影響なくない?」
「同じ人間でしょ?なんかちょっとかわいそう…」
「相手は武器もってるから、怒らせたら怖いよ」
「でも水門閉めないと、自分たちの食糧がとれなくなるよ」
「田んぼには大量の水が必要って5年生の時社会で勉強したよ」

「こんなときどうしたらいいのかな?」

そしてある日、なんと唯一の街道が、ともぞう王国によって封鎖されてしまいました。

街道封鎖

これで平和王国は、農作物を輸出することができなくなりました。
この街道が使えないというのは、平和王国にとって大きな経済ダメージとなります。

ここで、いったんみんなに意見を聞きます。

「みんなは平和王国の国民だよ、どうする?」

「やっぱりともぞうが怒った!!」
「やられたらやり返す!倍返しだ!」
「どうやって倍返しするの?うちら武器もってないのに…」
「封鎖された場所を取り壊す」
「勝手に相手の国には入れないんじゃないの?」
「話し合いすればいい」
「ともぞう王国と話し合って街道封鎖をやめてもらう」
「水門が閉じてるままじゃ封鎖解除してくれないよ」

この時点で、少しずつ、自分たちが水門を閉めたことが原因となっていることに気づかせていきます。

さらに、次の日
ともぞう王国は国境沿いに武装配備をしました。

武装配備

「あっ、ついにともぞうが本当に怒った」
「戦車や戦闘機まであるよ」
「平和国は武器もってないよ。どうするの?」

「大統領どうします?緊急事態だよ」
大統領は国民に意見を聞くように促します。

「こうなってしまったら、大統領同士で話し合いが必要だよ」
「〇〇大統領たのんだよ」
「大統領一人に丸投げするなよ」
「ともぞう王国は、水がなくなって挑発きているから、水門をあけてあげればいいんじゃないの?」
「水門あけたら、平和王国の水もなくなって、食料とれなくなるよ」
「こっちも、ともぞう王国を脅せばいい」
「どうやって?」
「ともぞう王国の悪口を国境沿いで言う」
「そんな悪口いったくらいじゃ脅しにならないよ」
「ともぞう王国に向かって石投げつける」
「石投げたらダメじゃない?」
「じゃもう、武器で攻撃する」
「でも平和王国には武器ないよ」
「リエゾン王国から武器を買えばいい」
「でも武器買ったら平和王国じゃなくなるんじゃないの?」
「武器買っても使わなければだいじょうぶ」
「相手が攻撃してきても武器は使わないってこと?」
「相手が攻撃してきたら、使うかな…」
「そしたら戦争になっちゃうよ」
「でも武器がなかったら、ともぞう王国が本当に怒ったらやられてしまうよ」

あるきっかけをもとに、それが大きくなって戦争になっていくとを気づかせていきます。

5.武器をもつかどうか話し合う

緊急ニュースがとびこんできました。
「たった今、平和国の水門が何者かによって爆破されました!」

「えっ!!」
「ついにともぞうが激怒した!」

水門爆破

誰がやったのかは、わかりませんが、両国は話し合うことになりました。
ともぞう王国側は大統領と武装兵4人を引き連れ、平和王国は外務大臣他5名で話し合うことになりました。

5対5の話し合い。
ここでは、1人ずつ先生とじゃんけんをします。
(ともぞう王国は1人しかいないので…)
ともぞう王国が勝ったら、負けた平和王国の人は人質として捕まります。
1回も勝てなかったら和平交渉が成立してしまい、問題が解決してしまいます…
とりあえず、1回はなんとしてでも勝たないと話が進みません。
10人でもいいし、心配なら全員とじゃんけんしちゃえばいいだけのことです。
普段クラスでジャンケンをしていれば、だいたいの予想はつくかと思います。
そのジャンケンの結果、ともぞう王国は2回勝ったので、平和国の議員を2人を拉致し人質にとりました。
これは大ピンチ!です。

ジャンケンはこのようなロールプレイではとても有効です。
学力が低い子や話し合いが苦手な子でも、このような活動を取り入れていくことで記憶に残ります。
盛り上がるところです。

ここで、大統領は、クラス全員(国民)に平和王国が武器をもつかどうか多数決をとります。
クラスの3分の2以上の賛成があれば、可決となり、武器をもつことができることを伝えます。

34人学級として考えてみます。(大統領を除く33人として考える)
過半数は22人です。

ここでは、仮の数値で話をすすめます。
賛成派:15人
反対派:18人

この結果によっては、この後の展開も大きく変わってきます。
賛成派<反対派
賛成派>反対派
賛成派(過半数超え)>反対派
賛成派<反対派(過半数超え)
この4つの場合のシミュレーションは必要です。

人質がとられていますが、平和王国だけに、賛成派の方が若干少ないという設定ですすめます。

「今の段階では、どちらも過半数を占めていないので、武器をもつことも、もたないことも決定できません」
「当然ですが、人質を救出することも現段階ではできません」

「それでは、国民の皆さん、これから平和王国が武器をもつのがよいのか、もたないのがよいのか議論してみましょう」
「まず、同じ立場同士で作戦会議を開いて、意見をまとめておいてください」

同じ立場同士で話し合う時間をとり、相手を説得する言葉を考えさせます。(タブレットなどを使って共同作業もできますが、やはりここはアナログの方が臨場感あります)
模造紙などをつかって大きなポスターをつくると、後で話し合うとき活用できます。

その後、賛成派と反対派に分かれて、国民同士で議論をさせていきます。

「武器はやっぱり必要だよ」
「武器がないとともぞう王国に対抗できないでしょ」
「武器がないと、ともぞう王国にやられっぱなしになるから、武器をもっていないと命があぶない」
「そもそも、ともぞう王国が街道封鎖しなければよかったんだ」
「信用できない国だよ」
「それをいったら、水門しめたのはうちらじゃない?ということは、うちらも信用されてないかも…」
「おもちゃの武器で抵抗するってのはどう?」
「それで本当に相手が銃で攻撃してきたらどうするの?」
「逃げる」
「死ぬかもしれないよ」
「石なげつけて抵抗する」
「石も相手に攻撃してるから武器じゃない?」
「そうか…」
「その前に人質を救出しないと」
「大統領はどうして、2人が拉致されるのをそのまま見過ごしたの?」
「それは…後ろに銃を構えてる兵士がたくさんいて手がだせなかったんだ…」
「武器がないとやっぱり人質救出できないんじゃなかな?」
「話し合えば、人質を返してくれるかもよ」
「勝手なことばかりしてくるから、話し合いなんかにならないでしょ」

話し合いの方向性としては、賛成派が多くなるようにファシリテートしていくのがよいです。
まあこの設定だと攻撃的な考え方が生まれやすいので、その必要はあまりないかと思いますが。

6.少数派の正義のゆくえ

意見がある程度で尽くすまで話し合わせます。
そして最後にもう一度、多数決をとります。
ここでは賛成派過半数超えバージョンでいきます。

賛成派:22
反対派:11

「賛成が過半数を超えたので、平和国は武器をもつことに決まりました」
「えっ!じゃあもう平和な国じゃなくなるよ…」

賛成派は過半数を超えいわゆる多数派勢力、反対派は少数派勢力という構図がクラスにできあがりました。

ここで、少数派となった、反対派の子に意見を聞きます。
「多数決で決まったから武器を平和王国はもつことになったけど、反対派の人で意見ある人いないかな?」
「武器をもってるから、人質をとったからといって、平和王国が武器をもつことには反対です。」

「でも、このままでは人質を返してもらいないよ」

「私たちが謝れば、人質は返してくれるかもしれない」
「えっ、なんで謝るの?」

平和王国のとった行動に非があったのではないかという意見を引き出していきます。

「だってそもそも、わたしたちが水門閉めたから、ともぞう王国は怒ったんでしょ?だったら、その一番の原因である水門を閉めたことを謝り水門をあければいいと思う」

今回、武器をもつかもたないかを決める際、多数決という解決方法をとりましたが、この多数決というのは、多数派の正義であって、少数派の正義ではありません。

人類のウェルビーイングといった場合、
誰か特定の人の幸せを指すわけではありません。
仮に世界人口が100人だとして、98人が幸せと感じ、残りの2人が幸せだと感じていなかった場合、これもやはり違います。

とはいうものの、全人口100人の世界において、100人全員がウェルビーイングとなるためには、大きな障壁があります。

人種、歴史、政治、地理的環境、国際関係などなど、多岐にわたる要因が複雑に絡み合って存在しています。

人は、人種や歴史、置かれた環境の違いがあるということを理解し、互いを尊重し合い、多数派の正義を絶対視せず、少数派の正義にも寄り添っていく

という考え方を「ふつう」

にしていかない限り、人類のウェルビーイングは実現はできません。

そして、何かあったときには、原因を究明し、中立の立場をとれる人が仲介役となり、お互いの立場を尊重しながら話し合っていくのです。
そうすれば、自分だけでなく相手のことを思いやる気持ちがうまれてくるはずです。

それが人類のウェルビーイングなのです。

今回の戦争ロールプレイを通し、子供たちには、社会には、常に多数派と少数派が存在すること、そして何かトラブルなどが起こった時には、かならず原因があることを気づかせました。

問題解決をする場面において、その原因を究明するのと同時に、たとえ少数意見だとしても相手の立場を尊重し、寄り添うことのできる人に育ってほしいと願っています。
そのためには多数決とう解決方法からのパラダイム変換が必要です。
多数派も少数派も互いに認め合い、寄り添い合うことができれば、ウェルビーイングは実現します。

このような教育活動の積み重ねが、ウェルビーイングを実践できる人材育成につながるのです。

こうした人材を学校の教育活動全体を通して育成していけるよう、微力ながら実践をしていきたいと思います。

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