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つらい経験を起業の原動力に ~SIOアクセラレーション・デモデイから~

現在、日本全国の都道府県や市町村が起業家の支援に取り組んでいます。その中から、大阪府の取り組みのひとつをご紹介します。

大阪府では、起業に向けて準備中の人や、起業したばかりでまだ支援が必要な段階のスタートアップを対象に、6か月間にわたるサポートを提供するプログラムを行っています。

その名も「SIOアクセラレーション」で、SIOは「スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA」の略です。

「アクセラレーション」は英語で「加速」という意味で、スタートアップの事業を速く形にして成長軌道に乗せるために、経営のアドバイスをしたり、ネットワークづくりを支援したりするプログラムを指す言葉です。

そして、このようなプログラムの最後には、成果を発表する「デモデイ」というイベントが行われることが通例です。ここでは、支援を受けたスタートアップが現時点の事業内容と将来の展望についてプレゼンします。

この「SIOアクセラレーション」でも、先日デモデイが行われました。支援を受けた12社のスタートアップがプレゼンを行っていましたが、ここでも起業家たちの貴重な「原体験」を聞くことができました。

その中から、印象に残った4名の原体験をご紹介します。

高齢者の孤独を目の当たりに

株式会社ポチっとつながるPOTZ

社名がユニークなこちらの会社は、高齢者の孤独の解消に挑むスタートアップです。困りごとがあった時に近所の主婦とマッチングしてくれたり、オンライン上で人とつながったりできるアプリを開発しています。

創業者の佐藤さんは、もともと会社員として働いていましたが、母の介護をきっかけに退職。その後すぐ、新型コロナによって人々が会えない日々がやってきました。

ある日、久々に一人暮らしの母を訪ねると、その孤独な姿を見て急に悲しくなったといいます。壁に掛けた時計の電池は切れたままで、一人では交換が難しい様子でした。

「一人暮らしの高齢者には多くの困りごとがある」

それを肌で感じた佐藤さんは、ちょうど地元の自治体が行っていた起業支援プログラムにも触発され、起業家の道を歩み始めました。そして、昔から女性活躍に関心があったこともあり、スキルを持つ女性と高齢者をマッチングすることで、近所での助け合いを生み出すアプリが生まれたのです。

「出産=命がけ」を痛感

株式会社CTEN

こちらのスタートアップは、女性の産前産後の適切な運動と健康管理をサポートしています。女性は妊娠・出産を通じて、さまざまな病気のリスクに直面します。一方で産前と産後それぞれに適切なケアがあれば、リスクは軽減されます。

しかし、これまでは出産前と後の両方をトータルでケアする仕組みがありませんでした。そこでCTENは、前後両方をサポートする日本初のピラティススタジオを開設。その名も「maemo atomo(前も・後も)」です。

同社を創業したCEOの西山さんは、もともと助産師でした。800名ほどの出産に立ち会い、妊娠・出産に伴う高血圧や糖尿病などの合併症によって命の危険にさらされる親子を目の当たりに。

そのような妊婦さんを少しでも減らしたいと、妊娠中の運動と合併症の関係について大学院で研究した後、起業へと至りました。

詐欺で失われた大切なお金

THINNEY株式会社

こちらは「まねまねタウン」という、子ども向けに金融リテラシー教育を提供しているスタートアップです。「5歳児からのお金の学習塾」をキャッチフレーズに掲げ、遊びを通してお金の知識を身に付けるプログラムを提供しています。

この会社の創業者である織戸さんは母子家庭で育ち、決して裕福ではありませんでした。しかし母は仕事をやりくりして、教育にたくさん投資してくれたそうです。そして織戸さんは大学へ進学。その矢先でした。

一人暮らしをするための引っ越しで詐欺の被害に遭ってしまい、貴重なお金を失ってしまいます。

「もっとお金に関する知識があれば…」

そう痛感した織戸さんは、日本の金融リテラシー教育の不足解消に挑むべく、起業を決意します。子どもの時から金融リテラシーを上げることで、生きる力を伸ばす。さらには日本全体の競争力、経済力を向上させる。

そんな大きな夢に向けて奔走しています。

科学者の地味で単純な作業

株式会社KNiT

こちらは研究現場での地道な作業から科学者を解放し、研究のさらなるレベルアップをサポートする会社。研究の現場には、意外と地味な単純作業がたくさんあります。

例えば、何かの素材を調べるとき、その顕微鏡写真を見て粒子のサイズや数を測ることがあります。この時、どんな道具を使うと思いますか?

何と「ものさし」です!

画面にものさしを当てて、ひたすらサイズを測り、数を数えるのだそうです。

これを一粒ずつ、ものさしで測ると考えると気が遠くなりますね。

KNiTを設立した窪内さんも、その苦労を経験した一人でした。ある時、勤めていた研究施設の上司から「これ、サイズ測っといて」と言われて思ったのが、「もっと科学者らしい作業に時間を使いたい」ということ。

そこで窪内さんはAIによる画像解析で、粒子の写真を読み込むだけで自動的にサイズ計測とカウント、形や色などの数値化まで済ませてくれるシステムを開発。研究現場における単純作業を自動化して、科学者がもっとクリエイティブなことに時間を使える世界をめざしています。


以上4人の起業家の原体験をご紹介してきましたが、共通しているのは「つらい経験」が原動力になっているということ。

つらいことや悲しいこと、不満や疑問に思うことがあっても「これが人生のヒントになるかも」と思えば、また違った向き合い方ができるかもしれません。4社のプレゼンから、そんなことを教わったような気がします。

ご紹介した4社を含め、登壇した12社のスタートアップの成長と活躍が楽しみです!

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