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それでも前を向いて、今日も料理を作る(#2 麻生要一郎さん)

自分のしごとをつくるゼミ 文章で生きる編
2024.1.30~4.9
参加して感じたことを書いています。

第2回 麻生要一郎さん
執筆家 / 料理家 / 『僕の献立 本日もお疲れ様でした』著者


4月の太陽みたいな、柔らかく暖かい方でした


自分の生い立ちから、滲み出てくるもの
麻生さんの本を読むと、「はじめに」で料理ではなく、自身の生い立ちが書かれていることに驚く。祖父が創業した建設会社の3代目跡取りとして生まれた麻生さん。自分の進路位に理解を示す父が19歳で急逝し、望まない建設の道へ。父の代わりに会社で舵をとる母のために、自分ができることを模索した結果、料理にたどり着く。

跡目争いに疲れて会社を辞めた後、偶然に導かれ、東京の新島でカフェ+宿 saroを開くことに。数年後に母が亡くなり、東京に引っ越す。その先で出会った姉妹の養子になり、現在は新島で出会った猫ちょびと、パートナーの方と暮らしている。

麻生さんの生い立ちを知ると『料理』を毎日作り、『家族』をテーマに執筆活動をされていることが、すごく腑に落ちた。

Q.どのようにして、ご自身の生い立ちを受け入れ、消化しましたか?
A.「前に進むしかないと思っています。話すと自分自身でも消化できるし、逆に自分の内に留めておくと、それらが消化しきれずずっと残ってしまう。また自分の経験を話すことで、誰かの役に立てるなら話した方が良いと思っています」

麻生さんの生い立ちは、人に話すこと自体かなり憚られること。自分の大切な人には打ち明けられても、書籍にして不特定多数の人の目に触れることは怖くないのかなと思って質問した。

この問いに対して麻生さんは意外なことに、笑みを含んだ軽やかな表情で話してくれた。そのことが僕には印象的だった。同時にこうして打ち明けられるからこそ、沢山の人が手を差し伸べてくれて、いまの麻生さんが作られているんだと納得した。


レシピの質問募集をしたら、人生相談がたくさん来た
そんな麻生さんだからか、書籍発売後にInstagramのストーリーズで質問を募集したら、人生相談がたくさん来たらしい。自らの人生を受け止めて、たくさんの人の手を借りながら(時に猫の手も借りながら)、前を向いて生きる麻生さん。その姿を見て、ひとりでは人生を受け止めきれない人が、この人になら信頼して自分のことが話せる、と思うんだろうな。

そうやって麻生さんが前を向けたのはどうしてだろう。どうせ自分なんて、、と自分の人生を呪うことだって簡単にできたはずだ。それは前述の通り「その生い立ちこそが、今の自分を形作っている」と受け取る事なんだろうな、と僕は思う。そこにつながる麻生さんの言葉を紹介したい。


「僕は経験や体験に基づいて、自分にしか書けない事だけ書いています。文章の癖や、つたなさもあると思いますが、それも味としています。」
麻生さんは作家として生きている。作家として自分のことを書くときに、綺麗な表現や一般的な表現で書くと、それは自分の魅力を消していることになる、と麻生さんはいう。自分の文章の癖や、ちょっと未熟だなと思う所もあるけれども、何度か考えてこれならいいんじゃないかと思っている。ようは自己肯定。これでいいんじゃないのっていう。そう思わないと、意外と自分のことって書けない、と教えれてくれた。


おわりに
「家族」のことを軽やかに、穏やかな笑みで話されている姿が印象的でした。麻生さんのお人柄が、毎日の食卓、そこに添えられる言葉を通してじんわりと伝わってくる。それがたくさんの人の心を、優しく満たしていることが伝わってきました。

「家族」に悩んでいる人が、麻生さんの本を手に取って、思いがけず心が軽くなる。そんな人たちにこの本が届くことを祈って、本を読んだ感想を置いておきます。


『僕の献立 本日もお疲れ様でした』
パラパラめくると料理がしたくなる。新しい料理を作るときは個人的には気合が必要だけど、これならできると思える料理ばかり。それでいて誰かにふるまいたくなる、美味しそうな料理たち。唐揚げの梅酢風味、豚汁が好きです。

お弁当箱を開けてこれだったら、誰だって笑顔になる


『僕のいたわり飯』
麻生さんの話を聞く1週間前から、珍しく体調を崩していた。新著を読みたくて、麻生さんが共同経営するHADEN BOOKSに足を運んだ。そこで本書にもある、季節の酵素シロップを飲んだら、ものすごく身体に染みた。時季限定のライムがおいしかった。今度は、お湯割りで飲んでみよう。青山に寄る予定がある人は、ぜひ麻生さん手作りのシロップを飲んでみて。

食卓には、いつだって自分自身が投影されている


『365日 僕のたべもの日記』
2022年毎日書かれた麻生さんの日記。前の二冊とは異なり、家族のことや生い立ちといったフィルター抜きに、麻生さんという人物が直接伝わってくる本だった。365日、何気ない毎日でありながら、そこに華を添えているのは料理なんだな。裏を返すと毎日の料理が、何気ない1日を大切な一日に変えてくれるんだなと感じた。非常におすすめ。

人生にはスタミナが必要だ



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