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介護の言葉⑱「介護力の低下」

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「介護の言葉」

 この「介護の言葉」シリーズでは、介護の現場で使われたり、また、家族介護者や介護を考える上で必要で重要な「言葉」について、改めて考えていきたいと思います。

 今回は、最近、聞いた「介護力の低下」という言葉について、考え直していきたいと思っています。

「介護力の低下」

 内容自体は、素晴らしかったのですが、高齢者分野の専門家の方の話の中で、前置きとして、介護の現状が語られて、その中で、自然に出てきた言葉がありました。

 家族の介護力の低下。

 それは、20年前に、仕事をやめて介護に専念し始めた頃から、聞くたびに疑問に思い、そして、臨床心理学の勉強を始め、その後に臨床心理士の資格をとるために大学院に入り、力不足を自覚しながらも、論文などに取り組むことになったのですが、その過程でも、この「介護力の低下」という言葉は気になっていました。

介護の歴史

 この言葉が暗に、それでいて強めに暗示しているのは、「昔の方が家族の介護力は高かった」という意味だと思います。

 そして、核家族が多くなる前は、家族のメンバーが多く、そうでないとしても、昔の方が、介護をする力が豊富だったと言うような印象に、誘導されてしまうと思うのですが、それは事実とはかなり違います。(ここからしばらくは、専門家の話の引用が中心になります)。

 元々、「介護」という言葉が一般的になったのが、イメージよりは昔ではないようです。

 現在、主として高齢者に対して言われる「介護」(ケア)は、大昔から存在したものではない。「介護」は、二〇世紀最後の四半世紀に至って、日本をはじめ高齢化がすすむ先進国において拡大し、可視化(今の人は“見える化”というが)、顕在化したものである。だから、介護は「今始まった事実」である。
 「介護」という単語自身、急速に普及し、だれ知らぬ日常語になったのは、この二〇年ほどに過ぎない。(樋口恵子)

 この書籍が出版されたのは、2008年なので、2020年代からみると、「介護という言葉」が普及したのは、この「40年ほど」になるので、随分と昔のイメージになると思います。

 ただ、現在の後期高齢者になった方が35歳の時、と考えると、今の後期高齢者(こういう区分は粗くて失礼な部分もあると思いますが)が若い時には、一般的ではない、と言うことになります。

 確かに、1970年代後半の論文では、「介護」という言葉ではなく、「世話」という単語が使われているくらいでした。

 かつて「看病」と呼ばれた営みの中で、とくに日常生活を支える部分が増大したとき、時代はその事実に「介護」ということばを与えた。介護の誕生である。(樋口恵子)


介護期間

 人生五〇年が標準サイズだった時代、家族による老人介護の期間は二〜三か月であった。今、家族の介護期間は「三年以上」が過半数にのぼる。一〇年を超える場合も十四%を超えている(国民生活基礎調査、一九九八)。少子高齢化の進展で子どもの数が減り、同時多発介護の対応に追われ介護歴述べ二〇年以上という家族も少なくない。(樋口恵子)

 2、3ヶ月であれば、介護に対して慣れる前に終わってしまうことも少なくないと思います。そこまで短くなくても、以前と比べたら、平均寿命が伸びるに従って、介護期間も長くなってきた、と考えられます。

 介護の期間の長さだけで、介護の大変さを比べるのは乱暴かもしれませんが、この記述の時よりも、10年以上が経った現在では、おそらくは、平均介護期間は、さらに伸びていると考えられます。


平均寿命−健康寿命≒介護期間

 「介護」という言葉自体が、根付き始めたと思われる1980年代半ばには、日本人の平均寿命は、男性で約75歳、女性で約80歳となっています。

 今の健康寿命との違いがはっきりとはしないため、やや乱暴な推測になりますが、現在の健康寿命を差し引いた場合を介護期間とすると、1980年代半ばの介護期間は、「男性3年、女性5年」くらいと考えられます。

 介護が必要な期間は「女性12.36年、男性8.96年」よりも長くなります。

 この数字は、「平均寿命―健康寿命」を元にした最近(2022年頃)の数字ですが、専門的には、それよりも、さらに長くなるという見立てがされている現在、いったん介護生活に入った場合には、かなり長くなることが少なくありません。

 それは、やや乱暴かもしれませんが、1985年頃と比べても、介護期間は、2倍以上の長さになっています。

 単純に比べることはできませんが、昔よりもはるかに長い期間、介護をしている家族介護者に向かって「介護力の低下」などという言葉を向けることは、個人的には、できません。

専門家が使う場合

「介護力が低下している」という、事実とは違うかもしれない言葉を向けることが、現役の家族介護者に対して、より負担感を増してしまう可能性もあります。

 その表現自体が、現在の介護者の否定につながることもあり得ますので、詳細な事実の裏付けがない場合は、常套句のように使うのを避けたほうがいい言葉のように思います。

 似たことは、以前もお伝えしたと思いますが、専門家が「介護力の低下」という言葉が使うことがある限り、しつこいかもしれませんが、このように、何度も事実をお伝えすることになると思います。

「介護力の低下」という言葉を使う方を、責める気は全くありませんが、特に専門家の方が使う場合には、もっと事実を確認した上で、慎重に使っていただきたい気持ちはあります。

 今回は、以上です。


(他にも、いろいろと介護のことを書いています↓。よろしかったら、読んでいただければ、うれしいです)。




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