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「介護について、思ったこと」㉔「自信満々な専門家」について

 いつも読んでくださる方は、ありがとうございます。
 そのおかげで、こうして書き続けることができています。

 初めて、読んでくださっている方は、見つけていただき、ありがとうございます。
 臨床心理士/公認心理師越智誠(おちまこと)と申します。


介護について、思ったこと


 このnoteは、家族介護者に向けて、もしくは介護の専門家に対して、少しでも役に立つようにと考えて、始めました。

 もし、よろしければ、他の記事にも目を通していただければ、ありがたいのですが、基本的には、現在、話題になっていることよりも、もう少し一般的な内容を伝えたいと思って、書いてきました。

 ただ、その時々で、改めて気になることがあると、もしかしたら差し出がましいことかもしれませんが、それについて考えたことを、お伝えしようと思いました。

 よろしかったら、読んでいただければ、幸いです。

 今回は、これまで薄々と感じていたことを、改めて確認したような気持ちになれたので、そのことをお伝えしようと思っています。

支援の仕事

 このnoteを読んでくださっている方には、繰り返しになり申し訳ないのですが、私は最初は家族介護者でした。

 ある時、急に家族に介護が必要になり、そこに巻き込まれるように介護を始め、そして続けることになりました。その途中で、このいつまで続くか分からない介護の時間にい続ける家族介護者には、肉体的な負担を減らすための支援はもちろん必要ですが、もしかしたら、それ以上に精神的なサポートが不可欠ではないかと思うようになりました。

 そして、そうした仕事をしている人たちは心理職と言われ、臨床心理士の資格が必要な場合が多いということも知り、そのために大学院を目指して介護をしながら勉強をし、大学院に通い修了し、資格も取得しました。

 資格を取得できた年に幸いにも、家族介護者の心理的支援である「介護者相談」も始めることができました。その後、公認心理師の資格も取ることができました。

 仕事として家族介護者の心理的支援を始めて約10年が経ちますが、当然ながら、相談やカウンセリングに全く同じ状況があるわけでもなくて、そして、経験を積むことによって、確かに少しはわかることや見えることは増えてきたのかもしれませんが、最初に臨床心理士を始めた頃に、キャリアや経験を積めば、もっと自信を持って支援に取り組めるのではないだろうか、と考えていたりしたこととは違っていました。

 いつまで経っても自信満々になれません。

 もちろん相談やカウンセリングの際に、自分自身の不安などはいったんわきに置いて仕事はしていますが、時々、ふっと基本的な受け答えさえ出来なくなってしまうのではないか。せっかく相談に来てくれた方に対して、かえって傷つけるような、ズレたことしか言えなくなるのではないか。

 そんなそれほど根拠のない不安は持ったままです。

 さらには、臨床心理学の分野でも日々新しいことを伝えられることもあり、その全部を知ることもできないし、自分が知らないところで、決して見逃してはいけない考えが語られているのではないだろうか。

 そんな焦りのようなものもずっとあります。

 仕事がある前日は、明日はちゃんとできるのだろうか。もちろん準備もしていますし、日々、努力や工夫は続けているつもりですが、筋トレや営業などと違って、数字や姿に出るわけでもありません。

 そういえば、大学院に通っている頃、臨床心理学の世界でははるかに先輩であり、実践でもとても真似ができそうもない臨床実績を積み重ねている人が話していたことを、時々、思い出します。

 その人自身も、何十年ものキャリアを積み、もちろん豊富な臨床経験もあるのですが、それでも楽になることはない。なぜかだんだん坂が急になっていくように、ずっと大変さはかわらない。

 そんな話をしてくれました。その頃の私はまだ学生でもあったし、どこまで理解できたかどうか分からないものの、経験を積んで能力を高めたとしても、おそらくは見えるものが増え、わかることが増大することによって、より大変になっていくのかもしれない。

 そんなことを思っていたのですが、それから10年以上が経って、自分でもそれなりに経験を積んでも、いつまでも自信満々にはなれないような予感はしています。

認知症との関わり

 臨床の仕事をしていて、その正解のなさに無力感と不安を感じることがあります。ただ、どこかで、そうした気持ちをずっときちんと抱え続けることも仕事の一部だろうというような思いもあります。

 同時に、そうした姿勢をもっときちんと持っているであろう、優れた専門家の方々の言葉には、自信満々の断言というような気配が薄いような気もしています。

精神科の医師が特に認知症のケアで留意していることはありますか?

 認知症の第一人者である齋藤医師は、この質問にこう答えています。

 認知症に関する政策的な議論で問題になるのは、いつも、認知症の患者さんをどうケアするかという問題です。言い換えるなら、これまで、認知症の患者さんは常に、ケアされる客体としてしか認識されていませんでした。しかし、医師として患者さんに寄り添っていれば、どんなに病状が進行しても、人間は最後まで生きる主体であるということが分かるはずです。精神に障害を持つ人を生きる主体として尊重することは、あらゆる精神医療の基本だと私は思います。この基本は、認知症の患者さんについても少しも変わりません。同様に、ご家族も生きる主体であることに変わりなく、『○○さんの旦那様』、『娘さん、息子さん』、『お嫁さん』といった捕らえ方では、介護者の心の支援もできないだろうと思います。

 精神医療の基本は、患者さんの声に耳を傾けることです。患者さんはいつも、合理的に的確に自分の悩みを表出するわけではありません。だからこそ、患者さんのそばにいて、その声を拾い続ける誠実な努力が大切だと私は思います。私たちは認知症を治せないし、進行をとめることもできないけれど、逃げ出さずに患者さんのそばに居続ける、患者さんが助けを求めたいと思うときにいつも患者さんの心のそばにいるということの重要性を忘れないようにしたいと思います。

(「日本精神神経学会」より)

 長く認知症医療に関わってきた医師に、こうしたことを明確に語ってもらえるだけで、それ自体が、認知症に関わる際に目標にできる(届くかどうは別として)基準の一つだと思いました。

 ベテランの専門家の方が、臨床に関して、こうして具体的に言葉にしていただけるのはありがたいことだと改めて感じました。

自信満々な専門家について

 こうした優れた専門家と比べるのはおこがましいのも事実ですし、私自身は、こうした方々のキャリアや経験よりもはるかに短い約10年の経験ですから、何かを言える資格もないかもしれません。

 ただ、いつまで経っても自信満々ということにはならず、もちろん支援者として仕事をするときは、不安などは自分の心の中に閉まっておくのは基本ですが、自信をもっと持てないだろうか、という思いと、同時に、自信満々になってしまったら、何かを見落とす確率も高くなるのではないだろうか、といったおそれもあります。

周囲の人が認知症の患者さんをサポートする上でのポイントを教えてください。

(「日本精神神経学会」より)

 この質問に対しての、前出の齋藤医師の回答の一部です。

 自信満々な医療や福祉の専門家の自慢話を信じるなということです。医師が長く診察するのは、うまく行った事例だけです。アドバイスが無効だった患者さんは通院しなくなるからです。結果として、うまく行った患者ばかりが残り、反省の無い医師は自分の患者は皆うまく行っているという妄想に陥るのです。

(「日本精神神経学会」より)

 こうした方の言葉によって何かを語るのは「虎の威を借りる狐」のようなもので品がない行為だと思いますが、確かに自信満々は怖いのかもしれません。

 経験や実績を重ねることで自信は身につき、それによってクライエントに安心感を与えるのも役割の一つではないかとも思いますが、それはかなり柔軟性があるというか揺らぎのあるもので、だからこそ、相手の方の不安などに対して理解が届く可能性が出てくるのではないかと思います。

 それと比べて自信満々は、問答無用の印象があり、それは傲慢と紙一重でもあって、他人の思いや考えを受けつけるような余裕がなくなっているということかもしれません。

 ですから、その本人は気持ちがいいでしょうし、その人と同調できる人も支援されるはずですが、そうでない人は、最悪の場合は傷ついてその場を去るしかできない可能性すらあります。

 当然の前提ですが、誰でも治せる医師はいませんし、どんな人でも状態を改善させることのできる心理士(師)もいるわけがありません。

 万能感にあふれること(自分も含めて)に関しては気をつけたほうがいい、という原則を改めて確認できたという意味でも、この齋藤医師の言葉はありがたいものでした。

 今回は以上です。





(他にも介護のことをいろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでくださると、ありがたく思います)。





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